2011-12-05(Mon)
小説・さやか見参!(118)
さやかは刀を抜きざま横に払った。
斬れるとは思っていない。
イバラキの猛追を一瞬でも退けたかっただけだ。
鋭い斬撃だったが、イバラキはそれをふわりとかわした。
後方に跳んだイバラキが静かに着地する。
さやかも刀を振った反動を使って後ろに跳ぶ。
ようやく距離が生まれた。
だがこの程度の距離、イバラキなら瞬時に詰めてくる。
さやかは打たれた水月の痛みに耐えて隙なく身構えた。
まさかここまで手も足も出ないとは思わなかった。
やはりイバラキは強敵だ。
イバラキの連続攻撃には『発』『蓄』の他にも特徴があった。
それは『漏』と『補』と呼ばれる技術だ。
これは簡単に説明すれば、隙の出来た場所(漏)を攻める(補)という事であるが、攻撃を補と呼ぶ所に秘訣が隠されている。
これは自らの攻撃で積極的に隙を作り出し、その隙を攻める事で次の隙を作り出す、言わば『攻めの無限連鎖』なのだ。
『発』『蓄』、『漏』と『補』を併用すれば、相手に反撃の機を与えず倒す事も不可能ではない。
加えて『漏』と『補』には絶大な効果があった。
漏というのは物理的な隙だけではない。
『気』が欠けた場所でもあるのだ。
気が欠けた場所を攻めればその威力は数倍にもなる。
『顔を殴られる』と分かって身構えていれば、気を集中出来るので実際に殴られても存外耐えられるものだ。
しかし、完全に油断した(気が欠けた)状態でいきなり殴られた時の衝撃は殊の外大きい。
イバラキは先ほどの攻撃で、上段を連続して攻め、さやかが受けに集中した所で中段を狙っていた。
または中段から上段と、さやかの気を分散させながら戦っていたのだ。
格闘の常套技術ではあるのだが、あれほどの速度、あれほどの正確さで使いこなす忍びを、さやかは他に知らなかった。
わずかに距離を取ったところでイバラキの猛攻は止まらないだろう。
だが、意に反してイバラキは動かなかった。
(!?)
攻めてこない。
今までの高速攻撃が嘘だったかのようにゆるりと立ってさやかを見ている。
(どういうつもり?)
さやかもイバラキを見た。
イバラキは―
仮面の下で笑っていた。
敵は楽しんでいる。
自分をじわじわと追い詰めて楽しんでいるのだ。
小さな獲物を嬲る肉食獣のように。
態勢を立て直すのを待ち、呼吸を整えさせた上で改めて痛め付けるつもりなのだ。
さやかの内側にかっと怒りが燃え上がった。
(馬鹿にしてんじゃないわよ!)
さやかが刀を振り上げて斬りかかった。
まるで攻撃を誘うように両手を広げているイバラキの側頭部を狙って刀を振る。
イバラキはそれを躱し、さやかの背中へ手刀を打ち込んだ。
さやかは体勢を崩し地面に片膝を着いたが、それでもどうにかイバラキの脚目掛けて刀を薙いだ。
きんっ
鉄と鉄がぶつかり合う音が響く。
イバラキは鉄製の脚絆で刀を受け止めていた。
『ちっ!』
さやかは素早く回転して突きを繰り出した。
だがそれすらも易々と躱されてしまう。
さやかは腕を掴まれ身動きが取れなくなった。
通じない。
何もかも通じない。
斬れるとは思っていない。
イバラキの猛追を一瞬でも退けたかっただけだ。
鋭い斬撃だったが、イバラキはそれをふわりとかわした。
後方に跳んだイバラキが静かに着地する。
さやかも刀を振った反動を使って後ろに跳ぶ。
ようやく距離が生まれた。
だがこの程度の距離、イバラキなら瞬時に詰めてくる。
さやかは打たれた水月の痛みに耐えて隙なく身構えた。
まさかここまで手も足も出ないとは思わなかった。
やはりイバラキは強敵だ。
イバラキの連続攻撃には『発』『蓄』の他にも特徴があった。
それは『漏』と『補』と呼ばれる技術だ。
これは簡単に説明すれば、隙の出来た場所(漏)を攻める(補)という事であるが、攻撃を補と呼ぶ所に秘訣が隠されている。
これは自らの攻撃で積極的に隙を作り出し、その隙を攻める事で次の隙を作り出す、言わば『攻めの無限連鎖』なのだ。
『発』『蓄』、『漏』と『補』を併用すれば、相手に反撃の機を与えず倒す事も不可能ではない。
加えて『漏』と『補』には絶大な効果があった。
漏というのは物理的な隙だけではない。
『気』が欠けた場所でもあるのだ。
気が欠けた場所を攻めればその威力は数倍にもなる。
『顔を殴られる』と分かって身構えていれば、気を集中出来るので実際に殴られても存外耐えられるものだ。
しかし、完全に油断した(気が欠けた)状態でいきなり殴られた時の衝撃は殊の外大きい。
イバラキは先ほどの攻撃で、上段を連続して攻め、さやかが受けに集中した所で中段を狙っていた。
または中段から上段と、さやかの気を分散させながら戦っていたのだ。
格闘の常套技術ではあるのだが、あれほどの速度、あれほどの正確さで使いこなす忍びを、さやかは他に知らなかった。
わずかに距離を取ったところでイバラキの猛攻は止まらないだろう。
だが、意に反してイバラキは動かなかった。
(!?)
攻めてこない。
今までの高速攻撃が嘘だったかのようにゆるりと立ってさやかを見ている。
(どういうつもり?)
さやかもイバラキを見た。
イバラキは―
仮面の下で笑っていた。
敵は楽しんでいる。
自分をじわじわと追い詰めて楽しんでいるのだ。
小さな獲物を嬲る肉食獣のように。
態勢を立て直すのを待ち、呼吸を整えさせた上で改めて痛め付けるつもりなのだ。
さやかの内側にかっと怒りが燃え上がった。
(馬鹿にしてんじゃないわよ!)
さやかが刀を振り上げて斬りかかった。
まるで攻撃を誘うように両手を広げているイバラキの側頭部を狙って刀を振る。
イバラキはそれを躱し、さやかの背中へ手刀を打ち込んだ。
さやかは体勢を崩し地面に片膝を着いたが、それでもどうにかイバラキの脚目掛けて刀を薙いだ。
きんっ
鉄と鉄がぶつかり合う音が響く。
イバラキは鉄製の脚絆で刀を受け止めていた。
『ちっ!』
さやかは素早く回転して突きを繰り出した。
だがそれすらも易々と躱されてしまう。
さやかは腕を掴まれ身動きが取れなくなった。
通じない。
何もかも通じない。
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