2011-11-08(Tue)
小説・さやか見参!2(107)
『てん、てん、てん』
腰を抜かしたまま男は痙攣するように同じ言葉を繰り返した。
おそらくは突如目の前に現れた(ように見えた)人影に、
『天狗か!?』
と問い掛けたかったのであろう。
『てんてん、って、おめぇなに言うとる』
百姓姿のさやかが男の声で尋ねる。
天狗ではない事を証明して早く安心させてやらねば可哀想だ。
『おら、人にそんなに驚かれたのは生まれて初めてだ。おら、別になんの悪さもしてねぇぞ』
そこでようやく男は冷静になった。
『えっ…?天狗ではないのか?』
おずおずと燭台を差し出す。
小さな灯は不規則に揺れながら目の前の人影、すなわち野良着姿のさやかを照らした。
『あっ、あぁ~!こ、これは失礼しました!』
男は慌てて立ち上がろうとしたが、行李の重さに引き戻され再び尻餅をついた。
『別になんも失礼な事はないけんど』
さやかが無愛想にそう言うと、
『いやいや、驚かせてしまって』
と慌てて立ち上がろうとする。
しかし、やはりそれは叶わず、男は何度も腰を浮かせては尻をついた。
『驚いとるのはおめぇだけだ』
その言葉で我に返ったのか、男は燭台を地面に置き、ばつの悪そうな顔で行李を下ろして立ち上がった。
『驚かせてすみませんでした。
私は竹村音駒(ねこま)、医者の卵です』
知的な、
すっきりとした顔立ちだった。
その表情を見てさやかは、
『だから、驚いたのはおめぇだけだってば』
と答えた。
腰を抜かしたまま男は痙攣するように同じ言葉を繰り返した。
おそらくは突如目の前に現れた(ように見えた)人影に、
『天狗か!?』
と問い掛けたかったのであろう。
『てんてん、って、おめぇなに言うとる』
百姓姿のさやかが男の声で尋ねる。
天狗ではない事を証明して早く安心させてやらねば可哀想だ。
『おら、人にそんなに驚かれたのは生まれて初めてだ。おら、別になんの悪さもしてねぇぞ』
そこでようやく男は冷静になった。
『えっ…?天狗ではないのか?』
おずおずと燭台を差し出す。
小さな灯は不規則に揺れながら目の前の人影、すなわち野良着姿のさやかを照らした。
『あっ、あぁ~!こ、これは失礼しました!』
男は慌てて立ち上がろうとしたが、行李の重さに引き戻され再び尻餅をついた。
『別になんも失礼な事はないけんど』
さやかが無愛想にそう言うと、
『いやいや、驚かせてしまって』
と慌てて立ち上がろうとする。
しかし、やはりそれは叶わず、男は何度も腰を浮かせては尻をついた。
『驚いとるのはおめぇだけだ』
その言葉で我に返ったのか、男は燭台を地面に置き、ばつの悪そうな顔で行李を下ろして立ち上がった。
『驚かせてすみませんでした。
私は竹村音駒(ねこま)、医者の卵です』
知的な、
すっきりとした顔立ちだった。
その表情を見てさやかは、
『だから、驚いたのはおめぇだけだってば』
と答えた。
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