2011-11-07(Mon)
小説・さやか見参!2(106)
林の奥から歩いてきたのは、さやかの予想通り細身の若い男だった。
小さな燭台に灯を乗せ、行李のような物を背負っている。
二十歳前後だろうか、
遠目に見ても神経質そうな印象を受ける顔立ちだ。
考え事をしているのか、深刻な表情のまま、うつむいて歩いてくる。
まだ近付いて来るさやかに気付く気配はない。
二人の距離が縮まる。
だが、まだ男は顔を上げない。
さやかは少し戸惑った。
あの青年は、ぎりぎりまで自分に気付かないのではないか。
まさにぶつからんとするまで近付かねば気付かないのではないか。
こんな暗闇で…
しかも天狗が出ると言われている林の中で(男が天狗の噂を知っているかは分からないが)、
突然目の前に人影が現れたら…
その驚きは並々ならぬものがあるのではないか。
下手をすれば腰を抜かすほど、
いや、気の弱い者なら失神するほど驚愕するかもしれない。
周囲への注意を怠った本人の責任とはいえ、それは少し可哀想に思えた。
さやかは、
持っている枝で、わざと地面を大きく払った。
鞭のようにしなった枝が、落ち葉と湿った土をはじいた。
ひゅんっ!ばしっ!
その音にようやく顔を上げた男は、
前方で己の灯に照らされた人影に気付き、
『ひゃあああっ!』
と尻餅をついた。
小さな燭台に灯を乗せ、行李のような物を背負っている。
二十歳前後だろうか、
遠目に見ても神経質そうな印象を受ける顔立ちだ。
考え事をしているのか、深刻な表情のまま、うつむいて歩いてくる。
まだ近付いて来るさやかに気付く気配はない。
二人の距離が縮まる。
だが、まだ男は顔を上げない。
さやかは少し戸惑った。
あの青年は、ぎりぎりまで自分に気付かないのではないか。
まさにぶつからんとするまで近付かねば気付かないのではないか。
こんな暗闇で…
しかも天狗が出ると言われている林の中で(男が天狗の噂を知っているかは分からないが)、
突然目の前に人影が現れたら…
その驚きは並々ならぬものがあるのではないか。
下手をすれば腰を抜かすほど、
いや、気の弱い者なら失神するほど驚愕するかもしれない。
周囲への注意を怠った本人の責任とはいえ、それは少し可哀想に思えた。
さやかは、
持っている枝で、わざと地面を大きく払った。
鞭のようにしなった枝が、落ち葉と湿った土をはじいた。
ひゅんっ!ばしっ!
その音にようやく顔を上げた男は、
前方で己の灯に照らされた人影に気付き、
『ひゃあああっ!』
と尻餅をついた。
スポンサーサイト