2011-10-26(Wed)
小説・さやか見参!2(104)
さやかが件の林に辿り着いたのは、もう陽も落ちようという時刻になってからだった。
先ほどの村からこの林まで、忍びとして走ればほんのわずかな距離だが、百姓の態をしている以上ゆっくりと歩くしかない。
さやかは少し顔を上げた。
思ったよりも大きな林だ。
夕暮れの赤い空を背負った樹々の群れは、巨大な黒い塊にも見える。
この塊自体が妖怪のようだ。
そう思いながら、さやかはゆっくりと妖怪の口に飲み込まれていった。
ひやり。
一歩足を踏み入れただけで冷気を感じる。
おそらくここは、一日中陽の光が入らぬのだろう。
頭上を仰ぐと、やはり夕焼けは樹々に遮られ、もはや夜の様相を呈していた。
これなら天狗が出てもおかしくはないわね。
さやかは足元から一尺ほどの木の枝を拾い、細かい枝葉を引きちぎると、それを片手に歩き始めた。
この薄暗い林を、
しかも日が暮れる間際の時刻に歩けば、おそらく前方は見えはすまい。
いや、
忍びには何という事もないのだ。
忍びならば真の暗闇ですらもはや闇ではない。
しかし、そうでない者にとっては…
先の見えぬ夜行の場合、このような枝で前方を払いながら進むのが普通なのだという。
こうすれば障害物や段差も察知出来るし蛇除けにもなる。
これを初めて知った時、さやかは
(忍びの術を持たぬ者は、何と合理的な工夫を編み出すのだ)
と感心したものだ。
先ほどの村からこの林まで、忍びとして走ればほんのわずかな距離だが、百姓の態をしている以上ゆっくりと歩くしかない。
さやかは少し顔を上げた。
思ったよりも大きな林だ。
夕暮れの赤い空を背負った樹々の群れは、巨大な黒い塊にも見える。
この塊自体が妖怪のようだ。
そう思いながら、さやかはゆっくりと妖怪の口に飲み込まれていった。
ひやり。
一歩足を踏み入れただけで冷気を感じる。
おそらくここは、一日中陽の光が入らぬのだろう。
頭上を仰ぐと、やはり夕焼けは樹々に遮られ、もはや夜の様相を呈していた。
これなら天狗が出てもおかしくはないわね。
さやかは足元から一尺ほどの木の枝を拾い、細かい枝葉を引きちぎると、それを片手に歩き始めた。
この薄暗い林を、
しかも日が暮れる間際の時刻に歩けば、おそらく前方は見えはすまい。
いや、
忍びには何という事もないのだ。
忍びならば真の暗闇ですらもはや闇ではない。
しかし、そうでない者にとっては…
先の見えぬ夜行の場合、このような枝で前方を払いながら進むのが普通なのだという。
こうすれば障害物や段差も察知出来るし蛇除けにもなる。
これを初めて知った時、さやかは
(忍びの術を持たぬ者は、何と合理的な工夫を編み出すのだ)
と感心したものだ。
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