fc2ブログ
2011-10-09(Sun)

小説・さやか見参!2(102)

山吹の里を出て三日目、

人気の少ない集落を通り過ぎようとしたさやかは、人の良さそうな老人に声をかけられた。

『見慣れん顔じゃがどこから来たんかね』

視界の隅に入った老人は、皺だらけでにこにこと笑っている。

さやかは通り過ぎながら少し頭を下げた。

『無理はせんようにな』

背後からの柔和な声に対し、さやかはもう一度わずかに会釈し、歩き始めた。

頭上には青空が広がっている。

全体に霞がかったような空は、太陽のぎらぎらした光を散らして心地いい。

(この空みたいに、のどかに旅が終わればいいな)

さやかは安泰を願いながら、浅く長い息を吐いた。

そこへ、

先ほどの老人の声が聞こえた。

『もし、この先の林を抜けられるなら気をつけなされ!
時々山の天狗様が降りて来られるという噂じゃ!

日が暮れたら林には入らんようにな!』

天狗?

さやかは足を止めた。

旅をしていると、その手の噂は珍しくない。

天狗、鬼、神、霊、狐狸妖怪…

寒村にも街中にも必ずその手の話は流布している。

しかし、そんなものは実在しないとさやかは確信している。

夜の闇に紛れて行動する事十数年。

良からぬ噂が流れる場所も数え切れぬほど訪れた。

あやかしが存在するならどこかで逢っていてもおかしくない。

しかしさやかはまだ一度も不可思議に遭遇した事がない。

周りの忍び達にも見た者はいないという。

ならばあやかしとは、見る者の心にこそ存在するのではないか。

恐怖心や恨みつらみや、そういった負の感情が心に魔物を映し出すのかもしれない。
スポンサーサイト



コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

コメント

プロフィール

武装代表・内野

Author:武装代表・内野
福岡・久留米を中心に、九州全域で活動している『アトラクションチーム武装』の代表です。

1972年生まれ。
1990年にキャラクターショーの世界に入り現在に至る。

2007年に武装を設立。

武装の活動内容は殺陣教室、殺陣指導、オリジナルキャラクターショー等。

現在は関西コレクションエンターテイメント福岡校さんでのアクションレッスン講師もやらせてもらってます。

最近の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
月別アーカイブ
カテゴリー
FC2カウンター
ブログ内検索
RSSフィード
リンク
By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード