2011-09-30(Fri)
小説・さやか見参!2(98)
サンサカの薄桃色に包まれると幸せの記憶が蘇る。
厳しい修業や死と隣り合わせの任務ばかりであったが、当たり前に兄がいて、家族や仲間と笑い合えた日々…
さやかは胸をえぐられるような痛みを感じ、強く目を閉じた。
過去の幸せに浸る為ではない。
かつての『幸せ』を脳裏から振り払う為だ。
しかしもう遅い。
それは既にさやかを満たしてしまった。
過去の幸せを実感するという事は、現在の虚無を実感するという事である。
幸福と不幸は表裏一体だとさやかは思う。
幸福を知らねば不幸を知る事はないし、
不幸に遭わねば幸福は感じられぬものだ。
事実さやかは、兄が健在の頃、それを特別『幸福』だとは思っていなかった。
それはさやかにとって当たり前の日常だったのである。
その日常が壊れた時、さやかは初めて『不幸』を味わった。
不幸を知った時、ようやく過去の自分が『幸福』だったと思い知ったのだ。
少なくともさやかにとって、『過去の幸福』は『現在の不幸』と同義なのである。
(…また亡霊を呼び出してしまった…)
さやかは後悔した。
過去の幸せというのは、たちの悪い亡霊だ。
いつまでも心に取り憑き、成仏するまでは精気を吸い続ける。
幻龍イバラキに兄を殺されて以来十年、さやかはこの亡霊に魂を削り取られ、生きる気力すら失っていたのだ。
厳しい修業や死と隣り合わせの任務ばかりであったが、当たり前に兄がいて、家族や仲間と笑い合えた日々…
さやかは胸をえぐられるような痛みを感じ、強く目を閉じた。
過去の幸せに浸る為ではない。
かつての『幸せ』を脳裏から振り払う為だ。
しかしもう遅い。
それは既にさやかを満たしてしまった。
過去の幸せを実感するという事は、現在の虚無を実感するという事である。
幸福と不幸は表裏一体だとさやかは思う。
幸福を知らねば不幸を知る事はないし、
不幸に遭わねば幸福は感じられぬものだ。
事実さやかは、兄が健在の頃、それを特別『幸福』だとは思っていなかった。
それはさやかにとって当たり前の日常だったのである。
その日常が壊れた時、さやかは初めて『不幸』を味わった。
不幸を知った時、ようやく過去の自分が『幸福』だったと思い知ったのだ。
少なくともさやかにとって、『過去の幸福』は『現在の不幸』と同義なのである。
(…また亡霊を呼び出してしまった…)
さやかは後悔した。
過去の幸せというのは、たちの悪い亡霊だ。
いつまでも心に取り憑き、成仏するまでは精気を吸い続ける。
幻龍イバラキに兄を殺されて以来十年、さやかはこの亡霊に魂を削り取られ、生きる気力すら失っていたのだ。
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