2011-09-29(Thu)
小説・さやか見参!2(97)
山吹さやかは河原に座り、遠くに見える山吹の屋敷を眺めていた。
黒光りする瓦屋根が青空から浮き出して見える。
古びた色合いの大きな屋敷は乾燥した空の色と相俟って、巨大な影の塊の様相を呈していた。
しかしその一部に、屋敷の威圧感に似つかわしくない輝きが映えている。
庭に咲くサンサカである。
微かな赤みを忍ばせた白い花達が、太陽の光を照り返している。
川上から吹いた風が、さやかの肌をひやりと撫でた。
膝を抱える腕に思わず力が入る。
さやかは膝を抱えた姿勢のまま、ごろんと横になった。
太陽の熱は寒風にかき消され、身体の下の虎皮の敷き物だけが温かい。
この温かさは雷牙の温かさだ。
雷牙が虎組の頭領となってからも何かとさやかの面倒を見てくれたが、さすがに以前のように会う時間はなくなってしまった。
庭のサンサカの前で三人で話した事を思い出す。
自分と、
雷牙と、
兄、山吹たけると。
おそらくあの時も、今のように冷たい風が吹いていたのだろう。
しかし寒さを感じた記憶がない。
幼い頃は多少の寒さなど、ものともしないのかもしれない。
寒さを感じぬくらい、心が満たされていたのかもしれない。
そう、確かにあの頃は満たされていた。
黒光りする瓦屋根が青空から浮き出して見える。
古びた色合いの大きな屋敷は乾燥した空の色と相俟って、巨大な影の塊の様相を呈していた。
しかしその一部に、屋敷の威圧感に似つかわしくない輝きが映えている。
庭に咲くサンサカである。
微かな赤みを忍ばせた白い花達が、太陽の光を照り返している。
川上から吹いた風が、さやかの肌をひやりと撫でた。
膝を抱える腕に思わず力が入る。
さやかは膝を抱えた姿勢のまま、ごろんと横になった。
太陽の熱は寒風にかき消され、身体の下の虎皮の敷き物だけが温かい。
この温かさは雷牙の温かさだ。
雷牙が虎組の頭領となってからも何かとさやかの面倒を見てくれたが、さすがに以前のように会う時間はなくなってしまった。
庭のサンサカの前で三人で話した事を思い出す。
自分と、
雷牙と、
兄、山吹たけると。
おそらくあの時も、今のように冷たい風が吹いていたのだろう。
しかし寒さを感じた記憶がない。
幼い頃は多少の寒さなど、ものともしないのかもしれない。
寒さを感じぬくらい、心が満たされていたのかもしれない。
そう、確かにあの頃は満たされていた。
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