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2011-05-09(Mon)

小説・さやか見参!2(94)

『奥義の在処を突き止める事は出来なんだが、みずちの息の根を止めただけでも上出来じゃ』

血讐はおだやかな口調でかすみを労った。

『前から気になってたんですけど…』

断が口を開いた。

『血讐様ってみずちと何かあったんですか』

『答えとうない』

穏やかに声で短く吐き捨てた血讐はどことなく不機嫌に思えた。

感情を見せるなど珍しい、と封は思った。

しかし断は血讐の感情の機微を読めなかったようだ。

『って事はやっぱり何かあったんですよね。気になるなぁ』

『断、血讐様にだって秘めた想い出ぐらいあるわよ』

封が冗談ぽい口調で諫める。

厳しく言えば角が立つかもしれない。

封はこんな時、ついつい丸く納めようとしてしまう。

殺戮を生業とする者とは思えぬ気の遣いようだ。

血讐は封の心理を看破して

『ふふ』

と笑った。

やはりおなごの方が読心の術に長けておるようだ。

それに比べて断などのほほんとしている。

自分の言葉にひやひやした封の気持ちを察する事など出来ぬのであろう。

これと組んでいては封も苦労が絶えまい。

いや、互いの性分が違うからこそ調和が取れているのかもしれぬ。

そんな事を考えながら断と封を交互に見る。

血讐の視線を感じた断は目をそらし、

『秘めた想い出ねぇ』

と蒸し返しながら立ち上がった。

『断、』

その先の言葉を制そうと封が立ち上がる。

その時だった。

『ん?』

と断が声をあげたのは。

『ど、どうしたの?』


横顔に向かって問い掛けると、珍しく真顔の断が身体ごと振り向いて

『あれ、違ったのかな』

と、やや興奮気味に言葉を発した。

『あれ?』

『おふう見てないか?イバラキが身に付けてた巾着』

『え?…あぁ、うぐいす色の?』

『それだよ!』

断の力強い言葉の後に間の抜けた沈黙が流れた。

そしてやはり封の返事も間の抜けたものだった。

『…なにが?』

『だーっ!だからよ!あれに入ってんじゃないかって言ってんだよ!』

断はもどかしそうに頭をくしゃくしゃと掻いて

『荊木の奥義が!』

はっきりとそう言った。

予想外の展開に一瞬刻が止まる。

『…あれ、に?』

封が記憶を辿る。

『まさかぁ!奥義を納めるには小さすぎるでしょ』

確かにイバラキは常に巾着を身に付けていた。

しかしそれは赤子の拳ぐらいの大きさで、一派の奥義を隠せるような物とは思えなかった。

だから封も対象から外して考えていたのだ。

『奥義が元々何に記されてたかは分からねぇけどよ、口伝の部分は棄てて、最も重要な記述だけ残していたら?それだけならあの袋に入らねぇかな?』

『そ…』

否定しようとして同時に可能性を探り言葉に詰まる。

『そんな事するかしら?奥義のほとんどを棄ててしまえば、術の伝承に支障が出るかもしれないのよ?』

『イバラキほどの奴なら全部覚えてるんじゃねぇか?』

『それはあんたの想像でしょ』

断と封のやり取りに血讐が割って入った。

『あの男が、幻龍組を誰かに継がせるだろうか…?』

断と封が同時に血讐を見る。

血讐もゆらりと立ち上がった。

『術を継がせるという事は、その相手を信頼し受け入れるという事だ。我らの策略により怨念の塊となった幻龍イバラキが誰かに跡目を託すとは思えん。ならば…』

血讐の後を受けて断が呟く。

『すでに会得した奥義は棄てても問題ない…』

『どちらにしても、我らが求める奥義の大半は失われたという事に…』

封の顔に動揺が浮かんだ。

『まぁ落ち着け』

そう言ったのは血讐だ。

『その巾着に入っているのが奥義の一部だったとして…イバラキがいまだ会得出来ぬほどの秘技か、あるいは会得しても棄てられぬほどの極意か、どちらかの可能性もある』

『分かりました』

封が背筋を伸ばした。

目付きが鋭くなっている。

『とりあえずあれを手に入れりゃあいいんだな』

断は不敵な笑みを浮かべ、無精髭をさすった。

そして軽く地面を蹴ると―

二人の姿は同時に消えた。

それを見て

『ふっ』

と笑い、血讐はまた縁側に腰掛けた。

血飛沫鬼、血塗呂の兄弟はいつの間にか姿を消していたが、それに気付いていたのは老忍者ただ一人だった。
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プロフィール

武装代表・内野

Author:武装代表・内野
福岡・久留米を中心に、九州全域で活動している『アトラクションチーム武装』の代表です。

1972年生まれ。
1990年にキャラクターショーの世界に入り現在に至る。

2007年に武装を設立。

武装の活動内容は殺陣教室、殺陣指導、オリジナルキャラクターショー等。

現在は関西コレクションエンターテイメント福岡校さんでのアクションレッスン講師もやらせてもらってます。

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