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2011-04-27(Wed)

小説・さやか見参!2(92)

一角衆の砦には活気や生活感というものがない。

大勢が暮らしているのに、どこか寂れた雰囲気が漂っている。

午後の陽射しを受けながら、屋敷の縁側に座っている男が一人。

断である。

やや短めの髪はぼさぼさで、本来精悍な顔に精気は感じられなかった。

高陵山での敗北をいまだに引きずっているのである。

断は片手で手裏剣をもてあそびながら、十数間先の柿の木を眺めていた。

熟していない実がまばらに生っている。

断はつまらなそうな顔で数枚の手裏剣を打った。

打ち手の表情とは裏腹に鋭く飛んだ手裏剣は、柿の実を見事に枝から切り離した。

拘束から解き放たれた果実達が一斉に地表に向かう。

しかし大地の抱擁を受ける事は出来なかった。

一旦飛び去った手裏剣が弧を描いて戻り、地面に落ちる寸前の実を真っ二つに斬り裂いたからだ。

十四の破片が鮮やかに散らばった時には、七枚の手裏剣が断の手に戻っていた。

断は相変わらず呆けた顔をしていた。

『おまえはじじぃか!』

突然罵声が響く。

断は振り向きもせず、

『うっせぇよ、血飛沫鬼』

と答えた。

しかして姿をあらわしたのは白装束の血飛沫鬼と赤装束の血塗呂、それに黒髪をなびかせた封の三人だった。

『おふう、こんなうるせぇガキ共を連れてくんなよ』

『別に私が連れてきたわけじゃないわよ』

血飛沫鬼が断の隣りに腰掛ける。

血飛沫鬼も十六になり、身体は断よりも大きくなっていた。

しかし血塗呂ともども身軽さは失っていない。

断は嫌そうな顔をした。

『いいよ来なくて』

離れようとしたが、断を挟むように血塗呂が座ったので動けない。

『なんで俺を挟むんだよ!』

血塗呂はにやにやと笑っている。

その光景を見て封が吹き出した。

『あんた達、三人並んで仲良さそうじゃないか』

『仲良くねぇよ!』

憤る断の肩に血塗呂が手を回す。

『勝手に肩組むなよ!仲良くねぇつってんだろ!』

手を振り払われて血塗呂がけたけたと笑った。

血飛沫鬼も笑う。

封も楽しげに笑っている。

『なぁ、幻龍の手練れにやられたんだって?』

血飛沫鬼が楽しそうに聞いた。

『やっぱりその話かよ…でもな、やられたのは俺だけじゃねぇぞ。おふうだって』

『あんたを担いで帰ってやったのは私だよ?』

『そりゃおまえ、あいつが手加減したから…』

必死に弁解する断の足元に突然血塗呂が寝転がり、目を見開いて口をパクパクさせた。

邪衆院天空に倒された断の真似だ。

それを見て血飛沫鬼と封が笑う。

断は顔を真っ赤にした。

『おふう!てめぇこんなネタまで仕込みやがって!』

『だって面白かったんだも~ん』

屈託なく笑う封は、ただただ美しかった。

恐ろしいほどの殺人技術を持つ事を忘れさせるほどの器量良しである。

そこへ

『楽しそうではないか』

と、隻眼の老忍者、血讐が歩いてきた。

『父上!』

血飛沫鬼と血塗呂が駆け寄る。

封は笑顔のまま背筋を伸ばし、断は座ったまま、バツが悪そうに顔をそむけた。

『断、どうした。顔が真っ赤だぞ』

『分かってて聞かないで下さいよ。…みんな意地が悪いぜ…』

『すまんすまん。どうだ、もう傷は癒えたのか?』

老忍者のねぎらいに断が答えようとすると、先に封が口を開いた。

『とっくに完治してますよ。もういつでも動けます。ねぇ?断』

『勝手に答えるなよ。…でもまぁ確かに、いつでも動けますよ』

『そうか。それは良かった』

そう言いながら血讐は、先ほどまで血飛沫鬼が座っていた場所に腰掛けた。

『ほれ、おふうも』

手招きして封を隣りに座らせる。

封は少しだけ間を空けて血讐の隣りに腰をおろす。

『なんじゃ、そんなに毛嫌いせずとも良かろうに。どうせ老い先短いこの身じゃ。もっと寄り添ってくれい』

普段の血讐はいつもこの調子だ。

封はくすりと笑って

『あらやだ、血讐様は私達より長生きしそうですけどね』

と言いながら血讐にすいと身を寄せた。

『亡くなる気がしませんわ』

血讐はそう言われてかかかと笑った。

『おふう、人を妖怪みたいに』

その隣りでそっぽを向いた断が聞こえよがしに呟く。

『妖怪みたいなもんだろうがよ。好色じじぃ』

明らかに罵倒の文句だが、それも血讐には応えないらしい。

またもかかかと笑っている。

『然り。好色こそ拙者の最大の奥義よ』

ひとしきり笑った後で血讐は声を少し落とした。

『それで、例の件だが』

ほんの短い一言だが、それで空気ががらりと変わる。

先ほどまでの穏やかな雰囲気が研ぎ澄まされた気がする。

これこそが本来の、
一角衆武術教練、血讐が放つ霊気なのだ。

すでに断と封も、鋭い忍びの顔になっていた。
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プロフィール

武装代表・内野

Author:武装代表・内野
福岡・久留米を中心に、九州全域で活動している『アトラクションチーム武装』の代表です。

1972年生まれ。
1990年にキャラクターショーの世界に入り現在に至る。

2007年に武装を設立。

武装の活動内容は殺陣教室、殺陣指導、オリジナルキャラクターショー等。

現在は関西コレクションエンターテイメント福岡校さんでのアクションレッスン講師もやらせてもらってます。

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