2011-04-15(Fri)
小説・さやか見参!2(89)
武双の懸念は、
『さやかが師になりきれない事』
であった。
心太郎とさやかを師弟に定めたのは武双である。
そこには『兄・たけるを超えてほしい』というさやかへの願いが込められていた。
知っての通り、たけるとさやかは兄妹であり師弟である。
さやかにとってたけるは最高の兄であり最高の師であった。
それ故、たける亡き今も彼の背中を追い続けているのだ。
武双は思う。
さやかが心太郎の師になりきれない理由、
それは、さやかが今でもたけるの弟子でいるからだ。
もちろん無意識には違いない。
だが現状さやかにとっての心太郎は兄との比較対象に過ぎない。
心太郎の未熟さをあげつらう事で兄の優長を再確認し、悦に入ってる。
本当に自慢の兄、自慢の師であったのだ。
それを思うと少しばかり心が痛む。
たけるを死なせてしまったのは頭領たる自分の力不足ではなかったか。
しかし、それを悔いたとてもうどうにもならぬ。
今は、さやかを山吹の後継に相応しく導く事を考えなければ。
『…三流…か』
武双がつぶやいた。
さやかは心太郎を評して『三流』と呼ぶ。
しかし本来ならば、弟子の技量が三流という事は師の教育が三流という事なのだ。
それに気付く事がさやかが師へ至る第一歩なのだろう。
今のさやかには難しいかもしれない。
だが、心太郎と共に成長する事で必ずや壁を乗り越えられる日が来る。
武双はそう信じている。
『頼むぞ、心太郎』
声には出さなかったが力強い想いであった。
武双にとって心太郎は『三流』どころか『運命の子』だったのだ。
心太郎の出生にはどのような秘密があるのか、
さやかがそれを知るのはまだまだ先の話である。
道場を出た武双を夕陽が照らした。
景色が黄金に染まって見える。
同じ頃、高陵山は薄闇に包まれようとしていた。
数日前、さやかとイバラキが邂逅を果たした場所である。
そこに蠢いているのは数十名の忍び、イバラキの手下達であった。
これより高陵山を降りて次の砦を探す。
その為に目立たぬよう百姓姿に着替えているのだ。
それぞれが軽口を叩いたり笑ったして砕けた雰囲気である。
今は特に任務があるわけではない。
頭領イバラキからも
『日が暮れてから出発する故、ゆるりと支度せよ』
と言われている。
その光景を見る限り、忍びも百姓も違いはない。
技があって、命令があってこその忍びなのだろう。
楽しげな集団を少し離れた場所から見ている男が一人。
邪衆院天空だ。
この男もこれからの移動に合わせて着替えている。
百姓、というよりは樵、であろうか。
確かに天空の鍛えられた肉体は樵の方が馴染む。
しかしながら、
天空はただ一人、幻龍組の雰囲気に馴染んでいないように思えた。
もしかすると、敢えて馴染もうとしていなかったのかもしれない。
実はこの邪衆院天空、本来は流浪の武術家で幻龍組の忍びではない。
由来は謎だが、異国を巡り武術体術を会得。
この国に戻ってからも各地を転々としながら腕を磨いていたらしい。
縁あってイバラキの下に付いたのは数年前である。
イバラキは天空の技量を高く評価し、幻龍組の武術教練に任命した。
生来の性分が流浪ゆえ、天空はいずれ幻龍組を離れるつもりでいるが、今はまだここにいる。
そしてイバラキもそれを知りながら天空を傍らに置いていた。
それゆえ天空は幻龍組の一員ではなく客人扱いなのである。
野良着姿で冗談を言い合う幻龍の忍び達に彼が馴染めぬ理由はそこにあるのかもしれない。
『さやかが師になりきれない事』
であった。
心太郎とさやかを師弟に定めたのは武双である。
そこには『兄・たけるを超えてほしい』というさやかへの願いが込められていた。
知っての通り、たけるとさやかは兄妹であり師弟である。
さやかにとってたけるは最高の兄であり最高の師であった。
それ故、たける亡き今も彼の背中を追い続けているのだ。
武双は思う。
さやかが心太郎の師になりきれない理由、
それは、さやかが今でもたけるの弟子でいるからだ。
もちろん無意識には違いない。
だが現状さやかにとっての心太郎は兄との比較対象に過ぎない。
心太郎の未熟さをあげつらう事で兄の優長を再確認し、悦に入ってる。
本当に自慢の兄、自慢の師であったのだ。
それを思うと少しばかり心が痛む。
たけるを死なせてしまったのは頭領たる自分の力不足ではなかったか。
しかし、それを悔いたとてもうどうにもならぬ。
今は、さやかを山吹の後継に相応しく導く事を考えなければ。
『…三流…か』
武双がつぶやいた。
さやかは心太郎を評して『三流』と呼ぶ。
しかし本来ならば、弟子の技量が三流という事は師の教育が三流という事なのだ。
それに気付く事がさやかが師へ至る第一歩なのだろう。
今のさやかには難しいかもしれない。
だが、心太郎と共に成長する事で必ずや壁を乗り越えられる日が来る。
武双はそう信じている。
『頼むぞ、心太郎』
声には出さなかったが力強い想いであった。
武双にとって心太郎は『三流』どころか『運命の子』だったのだ。
心太郎の出生にはどのような秘密があるのか、
さやかがそれを知るのはまだまだ先の話である。
道場を出た武双を夕陽が照らした。
景色が黄金に染まって見える。
同じ頃、高陵山は薄闇に包まれようとしていた。
数日前、さやかとイバラキが邂逅を果たした場所である。
そこに蠢いているのは数十名の忍び、イバラキの手下達であった。
これより高陵山を降りて次の砦を探す。
その為に目立たぬよう百姓姿に着替えているのだ。
それぞれが軽口を叩いたり笑ったして砕けた雰囲気である。
今は特に任務があるわけではない。
頭領イバラキからも
『日が暮れてから出発する故、ゆるりと支度せよ』
と言われている。
その光景を見る限り、忍びも百姓も違いはない。
技があって、命令があってこその忍びなのだろう。
楽しげな集団を少し離れた場所から見ている男が一人。
邪衆院天空だ。
この男もこれからの移動に合わせて着替えている。
百姓、というよりは樵、であろうか。
確かに天空の鍛えられた肉体は樵の方が馴染む。
しかしながら、
天空はただ一人、幻龍組の雰囲気に馴染んでいないように思えた。
もしかすると、敢えて馴染もうとしていなかったのかもしれない。
実はこの邪衆院天空、本来は流浪の武術家で幻龍組の忍びではない。
由来は謎だが、異国を巡り武術体術を会得。
この国に戻ってからも各地を転々としながら腕を磨いていたらしい。
縁あってイバラキの下に付いたのは数年前である。
イバラキは天空の技量を高く評価し、幻龍組の武術教練に任命した。
生来の性分が流浪ゆえ、天空はいずれ幻龍組を離れるつもりでいるが、今はまだここにいる。
そしてイバラキもそれを知りながら天空を傍らに置いていた。
それゆえ天空は幻龍組の一員ではなく客人扱いなのである。
野良着姿で冗談を言い合う幻龍の忍び達に彼が馴染めぬ理由はそこにあるのかもしれない。
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