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2011-03-23(Wed)

小説・さやか見参!2(82)

さて、山吹さやかと幻龍イバラキの宿命の対決はどうなったのであろうか。

こちらの決着は断と封が天空の前から立ち去るよりもずっと早くついていた。


激しく火花を散らすさやかとイバラキの戦いに、心太郎は介入すべきか迷っていた。

さやかが横なぎに払う刀を跳躍して躱したイバラキは、そのまま側面の岩場に着地する。

地面と平行に立つ事など忍びなれば造作もないのだ。

イバラキは岩場の上に向かって走った。

さやかはそれを追い、やはり重力に逆らって駆け上がる。

心太郎も必死で岩場を登る。

少し遅れて狭い頂に辿り着いた心太郎の視界に飛び込んできたのは、

黒い海

黒い空

そして、

片膝をついてイバラキの刀を受けているさやかの姿だった。

『さやか殿っ!』

心太郎は思わずイバラキに飛び掛かる。

イバラキはさやかを足蹴にして突き放すと、そのまま回転して空中の心太郎にも蹴りを放った。

勢いよく振り回した踵が心太郎の肩にめり込む。

『心太郎っ!』

さやかが叫んだ時、吹っ飛ばされた心太郎は一度地面にぶつかって跳ね、海側の崖に吸い込まれていった。

『心太郎っ!!』

さやかがもう一度叫んだ。

崖に駆け寄ろうとするが、次々と繰り出されるイバラキの攻撃がそれを許さない。

『目障りな奴が消えて戦い易うなったな』

『イバラキィ!あんたっ!』

『出来の悪い弟子に閉口しておったのだろう。良かったではないか』

鉄仮面の下でイバラキの口元が嘲笑を浮かべる。

それを見たさやかの眉が吊り上がった。

『心太郎は私の大切な弟子よ!!』

少女の怒りを込めた攻撃が間断なく打ち込まれ、白刃は月光を反射してギラギラと光った。

しかしイバラキはそれを全て難なく受け止める。

『くっ!』

悔しそうな声を洩らし、さやかは渾身の力で刀を振り下ろした。

『固い』

イバラキは嘲りながら、下から打ち込むように受け、さやかの右側面に入り込む。

さやかの刀はイバラキの刃の上を滑り前方へ流された。

体勢が崩れる。

イバラキは返す刀でさやかの肩を斬った。

『つぅッ!』

とっさに躱したものの肩の皮膚が裂け血飛沫が飛ぶ。

革の肩当てがなかったらもっと深手を負っていたに違いない。

斬撃の威力を半減する為に回転して躱したさやかにイバラキが迫る。

さやかは回転ざまに敵の胴体を突いた。

回転の勢いを殺さぬ見事な攻撃である。

しかしこれもイバラキは躱した。

すい、と側面に入り込み、突いたばかりの細腕を捕らえると華奢なみぞおちに爪先をえぐり込む。

『ぅぐぇっ!』

息が詰まり、さやかの動きが止まった。

刀がはじき飛ばされる。

武器を失ったさやかは地面でのたうった。

『今日は再会の日、そして別れの日だな』

イバラキの黒い足袋がさやかに近付く。

その瞬間―

イバラキが後ろに飛び退いた。

振り上げていた刀を幾度か振ると何度か金属のぶつかる音がした。

手裏剣だ。

どこから飛んできた?

ここは山頂である。

しかもイバラキとさやか以外に人影はない。

さしもの幻龍イバラキも意表を突かれた。

構え直して周囲を見ると―

その手裏剣は海から、

いや、

海側の崖下から向かって来ていたのである。

垂直に浮上し、軌道を直角に変えてイバラキを狙ってきたのである。

『あのガキか!?』

一瞬そう思ったが、あの小僧にこんな芸当は出来ぬ。

と言うよりも、このような手裏剣の打ち方が可能だとは―

『さやか、どうやらおぬしには凄まじい手練れが付いておるようだな』

イバラキはにやりと笑うと海とは反対の、祠の方へ飛び降りた。

何が起きたか分からぬ内に戦いは終わったようだ。

さやかは這うように進み、海側の崖下を覗きこむ。

『心太郎っ!』

呼び掛けるが返事はない。

高さ自体はさほどないが、転落すれば命はないであろう。

目をこらすが心太郎の姿は見えなかった。
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プロフィール

武装代表・内野

Author:武装代表・内野
福岡・久留米を中心に、九州全域で活動している『アトラクションチーム武装』の代表です。

1972年生まれ。
1990年にキャラクターショーの世界に入り現在に至る。

2007年に武装を設立。

武装の活動内容は殺陣教室、殺陣指導、オリジナルキャラクターショー等。

現在は関西コレクションエンターテイメント福岡校さんでのアクションレッスン講師もやらせてもらってます。

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