2011-03-16(Wed)
小説・さやか見参!(79)
普段は人の気配すらない高陵山で、二つの戦いが行われていた。
鬼神を奉じた祠の前では山吹さやかと幻龍イバラキが。
そこから離れた岩場ではイバラキの配下と一角衆の断と封が。
月明りを遮るものすらない狭い岩場にいくつもの骸が転がる。
断と封は舞う様にふわりと動くだけで敵を倒していった。
傍から見たならば、幻龍の忍びがばたばたとせわしく動いた挙句に自滅したとしか思えないだろう。
残り十名足らずの忍び達は断と封に完全に呑まれていた。
常に隙を探して刀を右へ左へ、上へ下へと動かして牽制を繰り返す。
二人が動けばびくついて後退る。
これでは素人も同然だ。
万が一にも勝てる見込みはない。
月を背負った封が言った。
『断、どうする?最後までやる?私は飽きたから逃してもいいけど』
それに答える断は正面から月の光を浴びている。
『俺も飽きてるけどさぁ。逃がすのも癪なんだよね』
言葉を交わした二人の間を
びゅん!
と何かが斬った。
飛び退いて離れた二人は初めて驚きの表情を見せた。
『おいおい…ここまで油断させといて狡いぜ』
『大鉈でも飛んできたかと思ったわよ』
断と封が顔を向けた先には、
男がいた。
袖のない黒装束から伸びたむき出しの両腕は異様な太さで、筋肉の繊維がありありと見て取れた。
短く刈り込んだ髪。
口元だけが覆面で隠され、光のない瞳から思考を読む事は出来ない。
『おまえ、いきなりどこから出てきやがったよ』
口を開いた断の目の前で空気が真一文字に斬り裂かれた。
断と封がさらに退がる。
その隙に下忍達は姿を消した。
突如現われた黒衣の男はたった一人で断と封を圧倒している。
封は珍しく額に汗がにじむのを感じた。
『驚いた…大鉈どころか…』
男が右脚をすっと上げた。
封が言葉を止める。
そう。
この二人をして二度も驚愕させた大鉈とは男の脚、つまり鋭い蹴りだったのだ。
『なんだよその蹴り…国でも見た事ないぜ…』
国、とは海を隔てた二人の故郷である。
『そんな技が…ってか、おまえみたいな遣い手がいるなんてな…』
『あんたも、幻龍組なの…?』
問われた男の目が形ばかり笑った。
『そう。幻龍組の、邪衆院 天空』
覆面越しの声は場違いに明るかった。
鬼神を奉じた祠の前では山吹さやかと幻龍イバラキが。
そこから離れた岩場ではイバラキの配下と一角衆の断と封が。
月明りを遮るものすらない狭い岩場にいくつもの骸が転がる。
断と封は舞う様にふわりと動くだけで敵を倒していった。
傍から見たならば、幻龍の忍びがばたばたとせわしく動いた挙句に自滅したとしか思えないだろう。
残り十名足らずの忍び達は断と封に完全に呑まれていた。
常に隙を探して刀を右へ左へ、上へ下へと動かして牽制を繰り返す。
二人が動けばびくついて後退る。
これでは素人も同然だ。
万が一にも勝てる見込みはない。
月を背負った封が言った。
『断、どうする?最後までやる?私は飽きたから逃してもいいけど』
それに答える断は正面から月の光を浴びている。
『俺も飽きてるけどさぁ。逃がすのも癪なんだよね』
言葉を交わした二人の間を
びゅん!
と何かが斬った。
飛び退いて離れた二人は初めて驚きの表情を見せた。
『おいおい…ここまで油断させといて狡いぜ』
『大鉈でも飛んできたかと思ったわよ』
断と封が顔を向けた先には、
男がいた。
袖のない黒装束から伸びたむき出しの両腕は異様な太さで、筋肉の繊維がありありと見て取れた。
短く刈り込んだ髪。
口元だけが覆面で隠され、光のない瞳から思考を読む事は出来ない。
『おまえ、いきなりどこから出てきやがったよ』
口を開いた断の目の前で空気が真一文字に斬り裂かれた。
断と封がさらに退がる。
その隙に下忍達は姿を消した。
突如現われた黒衣の男はたった一人で断と封を圧倒している。
封は珍しく額に汗がにじむのを感じた。
『驚いた…大鉈どころか…』
男が右脚をすっと上げた。
封が言葉を止める。
そう。
この二人をして二度も驚愕させた大鉈とは男の脚、つまり鋭い蹴りだったのだ。
『なんだよその蹴り…国でも見た事ないぜ…』
国、とは海を隔てた二人の故郷である。
『そんな技が…ってか、おまえみたいな遣い手がいるなんてな…』
『あんたも、幻龍組なの…?』
問われた男の目が形ばかり笑った。
『そう。幻龍組の、邪衆院 天空』
覆面越しの声は場違いに明るかった。
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