2011-03-16(Wed)
小説・さやか見参!(78)
輪となって断と封を取り囲んだ幻龍組の中忍下忍およそ数十名は一斉に2人に打ちかかった。
半数は側面から、半数は跳躍して上空から。
これならば中にいる敵に逃げ場はない。
しかし次の瞬間、瓦礫が倒壊するように輪が崩れた。
空中で体勢を崩した者達がばらばらと着地し体勢を整えている。
地上でなぎ倒された者達は慌てて構え直している。
その混沌の中に断と封は涼しげに立っていた。
二人はどうやって窮地を逃れたのか?
いや、逃れたなどという生易しいものではない。
絶体絶命の危機を瞬時に逆転したのだ。
しかし断と封にとっては造作もない事であった。
二人はただ、目の前にいた忍びの攻撃を払っただけなのだ。
断は地上の敵を、封は空中の敵を。
忍び達の刀が届く直前、二人は同時に蹴りを放った。
異国の武術で多用される、円を描くように脚を振り回す蹴りだ。
これならば狭い範囲でも威力を減少させずに当てる事が出来る。
二人の蹴りは見事に敵の腕を捕らえた。
地上の一人は右に、空中の一人は左にそれぞれ吹っ飛んだ。
こうなると密着せんばかりに円陣を組んでいたのが仇となる。
吹っ飛んだ忍びは隣りの忍びに、隣りの忍びは更に隣りにぶつかって一瞬で瓦解を招いたのだ。
封は蹴り終わったまま空中に上げていた長い脚をすっと降ろして冷たい眼で笑う。
『馬鹿ね、あんた達。逃げ場を塞いだつもりだったんでしょうけど』
『そんなに密着してちゃ危ないぜ。一点を崩せば全体が崩れちまう』
そういいながら断は、にやにやと下忍の一人に近付いた。
『身をもって分かったろ』
鼻が触れんばかりに顔を寄せた断に下忍が刀を突き出した。
断はわずかに身をかたむけ刃先をかわす。
右手で軽く下忍の腕を捌くと、その腕をすかさず左手で掴む。
断が掴んだ親指に力を入れると下忍は
『ぐっ!』
と妙な声を出した。
その瞬間に断の右手は敵の腕のつけねに移動し、やはり親指でぐいと掴んでいた。
下忍は目を見開いて倒れ、それから動く事はなかった。
『一点が崩れれば全体が崩れるように』
断がゆるりと立ち上がった。
幻龍組の刺客達はその姿にたじろいだ。
戦闘に長けた忍びを軽く触れただけで絶命させた不気味な男の眼は、
『一点の気の流れが止まれば身体全部が止まっちまう』
まるで獲物を屠る直前の獣のようだったからだ。
恐怖に駆られた数名が断に打ちかかっていったが、同じ様に軽く触れられて命を落とした。
断はめんどくさそうに呟く。
『気を断つのが俺の得意技でね』
一方、
封にも数名が斬りかかっていた。
断の技に怖れをなした臆病者共が
『女の方が容易かろう』
という甘い考えで向かって行ったのだ。
しかし結果は似たようなものだった。
攻撃を舞うように避けた封は、敵の身体を撫でるように突いた。
封に触れられた者達が瞬時に命を落とす事はなかった。
しかし一拍置いて、全員がもがき苦しみながら昏倒したのだ。
倒れた者達は胸や喉をかきむしりながら悶絶している。
追撃しようとしていた忍び達が青ざめて踏み止どまり、まるで化け物を見るかのように封に視線を送った。
『殺すのは好きじゃないの』
月に照らされた長い黒髪が風にそよぐ。
『でも、気を封じれば身体の機能は止まる』
封の瞳に、少しだけ妖しい光が灯った。
『機能が止まったら苦しい?…苦しいわよね』
断と封、
その名は各々の技に由来していたのだ。
半数は側面から、半数は跳躍して上空から。
これならば中にいる敵に逃げ場はない。
しかし次の瞬間、瓦礫が倒壊するように輪が崩れた。
空中で体勢を崩した者達がばらばらと着地し体勢を整えている。
地上でなぎ倒された者達は慌てて構え直している。
その混沌の中に断と封は涼しげに立っていた。
二人はどうやって窮地を逃れたのか?
いや、逃れたなどという生易しいものではない。
絶体絶命の危機を瞬時に逆転したのだ。
しかし断と封にとっては造作もない事であった。
二人はただ、目の前にいた忍びの攻撃を払っただけなのだ。
断は地上の敵を、封は空中の敵を。
忍び達の刀が届く直前、二人は同時に蹴りを放った。
異国の武術で多用される、円を描くように脚を振り回す蹴りだ。
これならば狭い範囲でも威力を減少させずに当てる事が出来る。
二人の蹴りは見事に敵の腕を捕らえた。
地上の一人は右に、空中の一人は左にそれぞれ吹っ飛んだ。
こうなると密着せんばかりに円陣を組んでいたのが仇となる。
吹っ飛んだ忍びは隣りの忍びに、隣りの忍びは更に隣りにぶつかって一瞬で瓦解を招いたのだ。
封は蹴り終わったまま空中に上げていた長い脚をすっと降ろして冷たい眼で笑う。
『馬鹿ね、あんた達。逃げ場を塞いだつもりだったんでしょうけど』
『そんなに密着してちゃ危ないぜ。一点を崩せば全体が崩れちまう』
そういいながら断は、にやにやと下忍の一人に近付いた。
『身をもって分かったろ』
鼻が触れんばかりに顔を寄せた断に下忍が刀を突き出した。
断はわずかに身をかたむけ刃先をかわす。
右手で軽く下忍の腕を捌くと、その腕をすかさず左手で掴む。
断が掴んだ親指に力を入れると下忍は
『ぐっ!』
と妙な声を出した。
その瞬間に断の右手は敵の腕のつけねに移動し、やはり親指でぐいと掴んでいた。
下忍は目を見開いて倒れ、それから動く事はなかった。
『一点が崩れれば全体が崩れるように』
断がゆるりと立ち上がった。
幻龍組の刺客達はその姿にたじろいだ。
戦闘に長けた忍びを軽く触れただけで絶命させた不気味な男の眼は、
『一点の気の流れが止まれば身体全部が止まっちまう』
まるで獲物を屠る直前の獣のようだったからだ。
恐怖に駆られた数名が断に打ちかかっていったが、同じ様に軽く触れられて命を落とした。
断はめんどくさそうに呟く。
『気を断つのが俺の得意技でね』
一方、
封にも数名が斬りかかっていた。
断の技に怖れをなした臆病者共が
『女の方が容易かろう』
という甘い考えで向かって行ったのだ。
しかし結果は似たようなものだった。
攻撃を舞うように避けた封は、敵の身体を撫でるように突いた。
封に触れられた者達が瞬時に命を落とす事はなかった。
しかし一拍置いて、全員がもがき苦しみながら昏倒したのだ。
倒れた者達は胸や喉をかきむしりながら悶絶している。
追撃しようとしていた忍び達が青ざめて踏み止どまり、まるで化け物を見るかのように封に視線を送った。
『殺すのは好きじゃないの』
月に照らされた長い黒髪が風にそよぐ。
『でも、気を封じれば身体の機能は止まる』
封の瞳に、少しだけ妖しい光が灯った。
『機能が止まったら苦しい?…苦しいわよね』
断と封、
その名は各々の技に由来していたのだ。
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