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2011-02-05(Sat)

小説・さやか見参!2(75)

さやかは地面を蹴って鬼に向かった。

瞬息の間に距離を詰める。

恐るべき速さだ。

(さやか殿が鬼を捕らえた)

心太郎がそう思うと同時に鬼の姿が消えた。

怪火と共に闇に溶ける。

またも取り逃がしてしまうのか?

いや、

さやかは速度を落とさず走り抜けている。

鬼が消える事など想定内だ。

二度も同じ手は喰わぬ。

強い意志が昨夜以上の速さを生んでいる。

突然さやかが止まった。

鬼の前方に回り込んだのだ。

『心太郎!』

さやかは叫びながら振り返ると、心太郎に向かって無数の手裏剣を打った。

『はいっシュ!』

答えた心太郎もさやかに向かって手裏剣を投げる。

二人の間に敵がいるのなら挟み撃ちだ。

しかし、回避不可能と思われるこの攻撃を鬼はかわした。

二人が放った無数の手裏剣は空を切りぶつかり合って地面に刺さった。

鬼の能力もさる事ながら、驚愕すべきは師弟の阿吽の呼吸ではなかろうか。

無数の手裏剣が全てぶつかり合ったと言う事は、瞬時に打った数と位置がぴたり同じだったという事になる。

一心同体、そう言っても過言ではない。

手裏剣を打ったさやかと心太郎はすかさず抜刀して跳び上がっていた。

鬼が先ほどの攻撃を躱すとしたら跳ぶしかない。

息つく間もなく空中に追い討ちをかける。

暗闇で、きん、という音が響く。

金属がぶつかる音だ。

目に見えぬ格闘が行われている。

小さな火花が弾ける。

さやかと心太郎は落下しながら互いの足裏を蹴り合い、数間離れて地面に降りた。

着地した二人の間には手裏剣が散らばっている。

地に刺さったそれは無数のマキビシとなっているのだ。

そこに鬼が落ちた。

ただでは済むまい。

音もなく落ちた左腕は地面に垂直に突き刺さっている。

やったか!?

心太郎は近付こうとした。

だが―

鬼の首は落ちてはいなかった。

四本の角を持つそれは自らの腕の隣りで逆さに浮いていた。

『ひっ』

心太郎がひるんだ。

生首が天地を逆にしたまま心太郎を見ていたからだ。

心太郎は刀を構えて半歩退く。

鬼の首はゆっくりと振り向いてさやかを見た。

さやかは動じない。

鬼がにやりと笑った。

そして、ようやく声を発した。

『速くなったな』

『…鬼が…しゃべったっシュ…』

心太郎が驚く。

しかしさやかは平然としたまま

『当たり前でしょ。成長してんのよ。若いんだから。老いてくばかりのあんたと違って』

まるで昔馴染と話すような口振りで話している。

『ふん。拙者が老体なら山吹の頭領など死に損ないではないか。拙者の腕はますます冴え渡っておるぞ』

鬼の首は楽しそうにそう言うと宙に飛んだ。

その瞬間、闇に包まれていた視界に光が焚かれた。

さやかは鬼を追って走る際、火薬を仕込んだクナイを十数本、沼の両側の岩壁に打ち込んでいたのである。
発火した火薬がその場を照らす。

一瞬目が眩んだ心太郎に何かが迫った。

たった今まで地面に刺さっていた無数の手裏剣がさやかと心太郎を襲ったのだ。

『ぅわっ!』

心太郎は必死に身を翻してそれをかわした。

さやかは最小限の動きで全てを避けた。

そのさやかの視線の先には鬼が―

鬼が全身を現し立っていた。

鈍色の顔、鈍色の左腕。

四本の角、赤く光る四つの眼。

黒い肩当ての付いた黒い羽織り。

そして、

鍔に山吹紋が刻まれた忍者刀。


さやかは不敵に立つ鬼、

鬼と呼ばれていた者から目をそらさずに大きな声を出した。

『ね、心太郎、言ったでしょ?鬼なんかいないって』

心太郎はその威圧感にかすかに震えている。

確かに鬼ではない。

これは、人だ。

しかし、ならば―

『こいつは…こいつは一体何者っシュ!?』

心太郎が叫んだ。

『心太郎、よぉく覚えておきなさい。こいつが』

さやかはまるで世間話でもするかのように

『かつてくちなわと呼ばれた忍び、幻龍組頭領、幻龍イバラキよ』

と言った。

十年ぶりの、
血塗られた邂逅であった。
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プロフィール

武装代表・内野

Author:武装代表・内野
福岡・久留米を中心に、九州全域で活動している『アトラクションチーム武装』の代表です。

1972年生まれ。
1990年にキャラクターショーの世界に入り現在に至る。

2007年に武装を設立。

武装の活動内容は殺陣教室、殺陣指導、オリジナルキャラクターショー等。

現在は関西コレクションエンターテイメント福岡校さんでのアクションレッスン講師もやらせてもらってます。

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