2011-01-19(Wed)
小説・さやか見参!2(64)
夜が明けると心太郎の体調はいくぶんか良くなっていた。
とは言え、まだ明らかに熱がある。
それでも心太郎は元気なふりをした。
『さやか殿のおかげで完全に復活したっシュよ!さぁ!鬼退治再開っシュ!!』
火照った顔の心太郎はどう見ても空元気だ。
『無理しないでいいわ。今日は一日休みましょ』
さやかがため息まじりにそう言うと心太郎はむきになった。
『無理なんてしてないっシュ!熱も下がったし、おいら全然元気っシュ!』
さやかはいきなり自分の額を心太郎の額にくっつけた。
心太郎は一瞬うろたえた。
さやかの額がひやりと心地いい。
その感覚が自分の発する熱の高さを再確認させる。
額をつけたまま、焦点も合わないぐらいの至近距離でさやかが詰問した。
『熱が下がったですって?どこが?』
『いや、あの…それは…』
心太郎はしどろもどろに言葉に詰まる。
さやかは心太郎から離れると、くるっと回って反対を向き、
『無理してまた倒れられたら困るのよ。もうあんた担いで歩くのは御免なの』
心太郎はうなだれた。
落ち込んでいる心太郎を、さやかは見飽きるほど見ている。
この6年間、さやかは事ある毎に心太郎をけなし、その度にうなだれた姿を見てきた。
これまで、それが心太郎の性分なのだと思っていた。
しかし今日は何故か、それは違うという気がする。
彼が忍びではなかったら。
修行も戦いもない環境で、他の子供達と野山で遊び回っていたら、もっと元気にのびのびしていたのではないか。
いや、例え忍びだったとしても、教育するのが自分でなかったなら。
兄のような素晴らしい忍びの下でなら、彼はまた違う一面を見せていたのではないか。
さやかは急に申し訳ないような気持ちになった。
しかし、口から出て来るのは相変わらず
『いじけないで。めんどくさいから』
という冷たい言葉だった。
『だから今日は一日おとなしくしてなさい。別に急ぎの調査じゃないんだから一日ぐらい延びたって構わないでしょ』
『でも…これ以上さやか殿に迷惑かけたくないっシュ…』
『あぁもう!…じゃあこうしましょ!あんたは日が暮れるまで身体を休める。夜になったら一緒に鬼を探す。どう?』
『う~ん…それなら…』
心太郎は渋々という顔をした。
まるで選択権を握っているようなその態度にさやかは少しいらっとしたが、受け流して続ける。
『その代わり、夜までは私が独りで動くわよ。いいわね?』
『えぇっ!?そんなの危ないっシュ!さやか殿に何かあったら…』
『う~る~さ~い~』
さやかはぐいっと顔を寄せて心太郎の言葉を遮った。
『何でもあんたの言う通りにはならないの。こうなったのは熱を出したあんたのせいなんだからね!』
『う…それを言われると反論出来ないっシュ…』
『心配なんかしてくれなくても大丈夫。…多分、鬼は夜まで出ないと思うわ。それに、そんなに遠くまでは行かないから。時々あんたの様子を見に戻らなくちゃいけないしね』
さやかはそう言って背中を向けた。
『さやか殿…』
『なに?』
不安げな問い掛けにも答えはそっけない。
『さやか殿…おいらの事…怒ってるっシュか…?』
心太郎がもじもじと訊くと、間髪を入れずさやかが大声を出した。
『怒ってるわよ!めちゃめちゃ怒ってるに決まってるでしょ!あんたが足を引っ張ってくれたお陰で私の予定は狂いっぱなしよ!本当ならとっくに鬼の正体を暴いて里に帰ってるはずだったのよ!もう!馬鹿忍者!駄目忍者!三流忍者!!』
罵声を一気にまくし立てると、深く呼吸した。
そして涙目の心太郎の顔を見て、落ち着いた声で、ゆっくりと言った。
『だから、これ以上迷惑をかけたくなかったら、日が暮れるまではおとなしく休んでて。…お願いだから…』
心太郎は、さやかが本気で心配している事を知って、こくんとうなずいた。
とは言え、まだ明らかに熱がある。
それでも心太郎は元気なふりをした。
『さやか殿のおかげで完全に復活したっシュよ!さぁ!鬼退治再開っシュ!!』
火照った顔の心太郎はどう見ても空元気だ。
『無理しないでいいわ。今日は一日休みましょ』
さやかがため息まじりにそう言うと心太郎はむきになった。
『無理なんてしてないっシュ!熱も下がったし、おいら全然元気っシュ!』
さやかはいきなり自分の額を心太郎の額にくっつけた。
心太郎は一瞬うろたえた。
さやかの額がひやりと心地いい。
その感覚が自分の発する熱の高さを再確認させる。
額をつけたまま、焦点も合わないぐらいの至近距離でさやかが詰問した。
『熱が下がったですって?どこが?』
『いや、あの…それは…』
心太郎はしどろもどろに言葉に詰まる。
さやかは心太郎から離れると、くるっと回って反対を向き、
『無理してまた倒れられたら困るのよ。もうあんた担いで歩くのは御免なの』
心太郎はうなだれた。
落ち込んでいる心太郎を、さやかは見飽きるほど見ている。
この6年間、さやかは事ある毎に心太郎をけなし、その度にうなだれた姿を見てきた。
これまで、それが心太郎の性分なのだと思っていた。
しかし今日は何故か、それは違うという気がする。
彼が忍びではなかったら。
修行も戦いもない環境で、他の子供達と野山で遊び回っていたら、もっと元気にのびのびしていたのではないか。
いや、例え忍びだったとしても、教育するのが自分でなかったなら。
兄のような素晴らしい忍びの下でなら、彼はまた違う一面を見せていたのではないか。
さやかは急に申し訳ないような気持ちになった。
しかし、口から出て来るのは相変わらず
『いじけないで。めんどくさいから』
という冷たい言葉だった。
『だから今日は一日おとなしくしてなさい。別に急ぎの調査じゃないんだから一日ぐらい延びたって構わないでしょ』
『でも…これ以上さやか殿に迷惑かけたくないっシュ…』
『あぁもう!…じゃあこうしましょ!あんたは日が暮れるまで身体を休める。夜になったら一緒に鬼を探す。どう?』
『う~ん…それなら…』
心太郎は渋々という顔をした。
まるで選択権を握っているようなその態度にさやかは少しいらっとしたが、受け流して続ける。
『その代わり、夜までは私が独りで動くわよ。いいわね?』
『えぇっ!?そんなの危ないっシュ!さやか殿に何かあったら…』
『う~る~さ~い~』
さやかはぐいっと顔を寄せて心太郎の言葉を遮った。
『何でもあんたの言う通りにはならないの。こうなったのは熱を出したあんたのせいなんだからね!』
『う…それを言われると反論出来ないっシュ…』
『心配なんかしてくれなくても大丈夫。…多分、鬼は夜まで出ないと思うわ。それに、そんなに遠くまでは行かないから。時々あんたの様子を見に戻らなくちゃいけないしね』
さやかはそう言って背中を向けた。
『さやか殿…』
『なに?』
不安げな問い掛けにも答えはそっけない。
『さやか殿…おいらの事…怒ってるっシュか…?』
心太郎がもじもじと訊くと、間髪を入れずさやかが大声を出した。
『怒ってるわよ!めちゃめちゃ怒ってるに決まってるでしょ!あんたが足を引っ張ってくれたお陰で私の予定は狂いっぱなしよ!本当ならとっくに鬼の正体を暴いて里に帰ってるはずだったのよ!もう!馬鹿忍者!駄目忍者!三流忍者!!』
罵声を一気にまくし立てると、深く呼吸した。
そして涙目の心太郎の顔を見て、落ち着いた声で、ゆっくりと言った。
『だから、これ以上迷惑をかけたくなかったら、日が暮れるまではおとなしく休んでて。…お願いだから…』
心太郎は、さやかが本気で心配している事を知って、こくんとうなずいた。
スポンサーサイト