2010-12-24(Fri)
小説・さやか見参!(55)
たけるが刀を振り上げた瞬間、開け放ったままの戸口から青装束の忍びが飛び込んできた。
それを合図に、小屋の隠し戸が一斉に開き、そこからも刺客が飛び出す。
天井から二人、
壁から三人、
床から二人。
上下の敵は刀を手にしているが、残りは少しでも距離を取ろうと槍を構えていた。
しかしたけるの必殺の間合いは刀を槍に変えた程度でどうにかなるものではない。
姿を現したと思った刹那に全て首を落とされていた。
たけるとイバラキを囲むように八つの頭部が転がる。
残された身体はばたばたと倒れ、足下の二体はまた隠し戸の中に落ちていった。
くちなわは顔面を炎に包まれながらも初めて見たたけるの技に驚愕していた。
いや、むしろ恐怖さえ覚えていた。
『た、たける!おまえはっ!』
身を焼かれながらでは言葉にならない。
炎を吸えば肺が焼けるのだ。
『感情を捨てる事は出来ませんでしたが、殺人兵器として育てられましたゆえ…悲しき事です』
『くぅっ!』
イバラキはもがきながらも腰に巻いた鎖分銅を放とうとした。
だが腰に手をかけた瞬間に鎖は切断されていた。
続いてくちなわの刀が突然弾き飛ばされて壁に突き刺さる。
たけるが動いた気配は感じられなかった。
刀の刺さった板壁がぱちぱちと音を立てる。
この小屋にも火が回り始めている。
まだ顔を覆う炎を消そうとしているイバラキの腹部にたけるの鋭い蹴りがねじ込まれる。
イバラキはぐぇっとつぶされたような声を上げて吹っ飛んだ。
倒れた拍子に、顔面の炎は壁際に積まれた藁に引火して勢いを増す。
苦しむイバラキを、たけるは無表情に見つめていた。
イバラキは暴れながら井戸水を汲み置いた桶にぶつかり、それに頭を突っ込んだ。
じゅっという音がして炎が消える。
隙だらけで呼吸を荒げているイバラキにたけるが語りかける。
『くちなわ殿…私は責任を感じている…私の油断が一角衆に付け入る隙を与えてしまった…そしてそれがあなたを追い込む事になってしまった…』
『まだそのような…!俺は…』
桶の水を飛沫かせながら振り向いたイバラキの顔は、原形をとどめぬ程に焼け崩れていた。
しかしたけるはそれを見ても平然としている。
『あなたが私を信用していない事は分かっています。
私はあなたに信じてもらう事が出来なかった。
だから責任を感じているのです』
イバラキは焼けただれた顔を押さえてうずくまりながら毒づいた。
『ふん、今さら…こうなった以上責任の所在などどうでもいいわ。この世には騙す奴と騙される奴がいて俺は後者だった。それだけの話だ』
小屋が燃える。
炎が二人を包む。
『ではこれからどうします』
壁が爆ぜる。
『俺を騙した者、俺を裏切った者を倒す。そしていずれは天下を治める』
炎がイバラキの崩れた顔を紅く染めた。
不規則な明滅がそう見せるのか、イバラキの表情はどこか悲愴に感じられた。
それを合図に、小屋の隠し戸が一斉に開き、そこからも刺客が飛び出す。
天井から二人、
壁から三人、
床から二人。
上下の敵は刀を手にしているが、残りは少しでも距離を取ろうと槍を構えていた。
しかしたけるの必殺の間合いは刀を槍に変えた程度でどうにかなるものではない。
姿を現したと思った刹那に全て首を落とされていた。
たけるとイバラキを囲むように八つの頭部が転がる。
残された身体はばたばたと倒れ、足下の二体はまた隠し戸の中に落ちていった。
くちなわは顔面を炎に包まれながらも初めて見たたけるの技に驚愕していた。
いや、むしろ恐怖さえ覚えていた。
『た、たける!おまえはっ!』
身を焼かれながらでは言葉にならない。
炎を吸えば肺が焼けるのだ。
『感情を捨てる事は出来ませんでしたが、殺人兵器として育てられましたゆえ…悲しき事です』
『くぅっ!』
イバラキはもがきながらも腰に巻いた鎖分銅を放とうとした。
だが腰に手をかけた瞬間に鎖は切断されていた。
続いてくちなわの刀が突然弾き飛ばされて壁に突き刺さる。
たけるが動いた気配は感じられなかった。
刀の刺さった板壁がぱちぱちと音を立てる。
この小屋にも火が回り始めている。
まだ顔を覆う炎を消そうとしているイバラキの腹部にたけるの鋭い蹴りがねじ込まれる。
イバラキはぐぇっとつぶされたような声を上げて吹っ飛んだ。
倒れた拍子に、顔面の炎は壁際に積まれた藁に引火して勢いを増す。
苦しむイバラキを、たけるは無表情に見つめていた。
イバラキは暴れながら井戸水を汲み置いた桶にぶつかり、それに頭を突っ込んだ。
じゅっという音がして炎が消える。
隙だらけで呼吸を荒げているイバラキにたけるが語りかける。
『くちなわ殿…私は責任を感じている…私の油断が一角衆に付け入る隙を与えてしまった…そしてそれがあなたを追い込む事になってしまった…』
『まだそのような…!俺は…』
桶の水を飛沫かせながら振り向いたイバラキの顔は、原形をとどめぬ程に焼け崩れていた。
しかしたけるはそれを見ても平然としている。
『あなたが私を信用していない事は分かっています。
私はあなたに信じてもらう事が出来なかった。
だから責任を感じているのです』
イバラキは焼けただれた顔を押さえてうずくまりながら毒づいた。
『ふん、今さら…こうなった以上責任の所在などどうでもいいわ。この世には騙す奴と騙される奴がいて俺は後者だった。それだけの話だ』
小屋が燃える。
炎が二人を包む。
『ではこれからどうします』
壁が爆ぜる。
『俺を騙した者、俺を裏切った者を倒す。そしていずれは天下を治める』
炎がイバラキの崩れた顔を紅く染めた。
不規則な明滅がそう見せるのか、イバラキの表情はどこか悲愴に感じられた。
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