2010-12-23(Thu)
小説・さやか見参!(54)
青き屍の山を築きながら山吹たけるが進む。
ただ歩いているようにしか見えぬが、そこに近付いて生きている者はいなかった。
前後左右、空中といえども一定の範囲に入った敵は一瞬で首を刎ねられていた。
これこそが天才と言われた殺人兵器の本領なのだ。
もちろんたけるの望む所ではない。
しかし一旦動き出せば個人の感情など関係ない。
ただやり遂げるのみ。
たけるとて鬼神の一人には違いなかったのだ。
突然、夜空が白く染まった。
まるで上空に白壁が出来たようだ。
そしてその壁は幻龍城を覆った瞬間に瓦解した。
何が起きたのか?
無数の鳥が飛来したのだ。
全ての鳥が紙を咥えていた。
白い紙を咥えた鳥が空を覆ったが故に白壁と錯覚せしめたのである。
そして鳥達は幻龍城の上空で一斉に咥えていた紙を舞い散らせたのだ。
この紙にはたっぷりと油が染み込ませてある。
ひらりひらりと舞い落ちたそれは幻龍城のあちこちに張り付いた。
壁に、屋根に、屍どもにもぴたりと張り付いたのだ。
そしてそれは各所の松明の炎を広がらせた。
幻龍城はあっと言う間に火の海となった。
無数の鳥を操ったのは言わずもがな山吹たけるである。
獣を使えるのは一角衆だけではないのだ。
炎に照らされて屋敷に向かうたけるの表情にはすでに笑みはない。
屋敷の前で足を止めた瞬間、物陰に潜んでいた忍びが飛び出した。
右から二人、左から二人、屋根の上から二人、
六人が同時にたけるに躍りかかる。
しかし全員、地面を蹴った瞬間に首から上を失くして不様に崩れ落ちた。
たけるは関心もなさげに屋敷を眺めていたが、急に方向を変えて歩き始めた。
池の脇を通り、社を突っ切り、小さな小屋に辿り着くと、いきなり戸を開ける。
小さな小屋の中にはくちなわが腰掛けていた。
『よく分かったな。屋敷へは行かなんだか?』
『くちなわ殿ならこちらにいらっしゃると思いました』
『なぜ』
『かすみ殿との想い出を簡単に吹っ切れるくちなわ殿ではありますまい』
そう。
この小屋はくちなわとかすみが長年暮らした場所なのだ。
『聞いた風な事を。ふん、屋敷に仕掛けておいた罠も無駄になったか。』
くちなわは立ち上がった。
『たける、覚えておけ。荊木流のくちなわはもうおらん。俺は幻龍組頭領、幻龍イバラキだ』
くちなわ、いや、イバラキが素早く抜刀したけるに斬りかかった。
たけるも刀を抜き、その刃を顔前で受け止める。
刃と刃がぶつかり火花が散る。
その瞬間、
たけるが胃の腑に溜めていた液体を口から吹き出した。
微かな火花が業火となりイバラキの顔を包んだ。
『ぐああぁぁっ!!』
イバラキは顔を焼かれながら悲鳴を上げてもがく。
たけるが吹き出したのは可燃性の強い液体である。
これは揮発性の為、密封しておかないと効力が薄くなる。
たけるは半日以上かけて特殊な薬品を飲み続けて食道や内臓の内側に薄い膜を作り、この液体の揮発を防いだのだ。
しかし呼吸をしたり喋ったりしても揮発してしまう為、たけるは山吹の里からここまでずっと呼吸を止めていた。
先ほどイバラキと二、三言話すまでは呼吸をしていなかったのである。
無数の下忍達を斬り殺す間も。
調息を極めたたけるならではの芸当であった。
全てはイバラキの不意を突く為。
たけるほどの腕がありながら卑怯とも思える策を弄する。
これこそが忍びなのだ。
目の前で炎に包まれて苦しむイバラキに向かって、たけるは刀を振り上げた。
ただ歩いているようにしか見えぬが、そこに近付いて生きている者はいなかった。
前後左右、空中といえども一定の範囲に入った敵は一瞬で首を刎ねられていた。
これこそが天才と言われた殺人兵器の本領なのだ。
もちろんたけるの望む所ではない。
しかし一旦動き出せば個人の感情など関係ない。
ただやり遂げるのみ。
たけるとて鬼神の一人には違いなかったのだ。
突然、夜空が白く染まった。
まるで上空に白壁が出来たようだ。
そしてその壁は幻龍城を覆った瞬間に瓦解した。
何が起きたのか?
無数の鳥が飛来したのだ。
全ての鳥が紙を咥えていた。
白い紙を咥えた鳥が空を覆ったが故に白壁と錯覚せしめたのである。
そして鳥達は幻龍城の上空で一斉に咥えていた紙を舞い散らせたのだ。
この紙にはたっぷりと油が染み込ませてある。
ひらりひらりと舞い落ちたそれは幻龍城のあちこちに張り付いた。
壁に、屋根に、屍どもにもぴたりと張り付いたのだ。
そしてそれは各所の松明の炎を広がらせた。
幻龍城はあっと言う間に火の海となった。
無数の鳥を操ったのは言わずもがな山吹たけるである。
獣を使えるのは一角衆だけではないのだ。
炎に照らされて屋敷に向かうたけるの表情にはすでに笑みはない。
屋敷の前で足を止めた瞬間、物陰に潜んでいた忍びが飛び出した。
右から二人、左から二人、屋根の上から二人、
六人が同時にたけるに躍りかかる。
しかし全員、地面を蹴った瞬間に首から上を失くして不様に崩れ落ちた。
たけるは関心もなさげに屋敷を眺めていたが、急に方向を変えて歩き始めた。
池の脇を通り、社を突っ切り、小さな小屋に辿り着くと、いきなり戸を開ける。
小さな小屋の中にはくちなわが腰掛けていた。
『よく分かったな。屋敷へは行かなんだか?』
『くちなわ殿ならこちらにいらっしゃると思いました』
『なぜ』
『かすみ殿との想い出を簡単に吹っ切れるくちなわ殿ではありますまい』
そう。
この小屋はくちなわとかすみが長年暮らした場所なのだ。
『聞いた風な事を。ふん、屋敷に仕掛けておいた罠も無駄になったか。』
くちなわは立ち上がった。
『たける、覚えておけ。荊木流のくちなわはもうおらん。俺は幻龍組頭領、幻龍イバラキだ』
くちなわ、いや、イバラキが素早く抜刀したけるに斬りかかった。
たけるも刀を抜き、その刃を顔前で受け止める。
刃と刃がぶつかり火花が散る。
その瞬間、
たけるが胃の腑に溜めていた液体を口から吹き出した。
微かな火花が業火となりイバラキの顔を包んだ。
『ぐああぁぁっ!!』
イバラキは顔を焼かれながら悲鳴を上げてもがく。
たけるが吹き出したのは可燃性の強い液体である。
これは揮発性の為、密封しておかないと効力が薄くなる。
たけるは半日以上かけて特殊な薬品を飲み続けて食道や内臓の内側に薄い膜を作り、この液体の揮発を防いだのだ。
しかし呼吸をしたり喋ったりしても揮発してしまう為、たけるは山吹の里からここまでずっと呼吸を止めていた。
先ほどイバラキと二、三言話すまでは呼吸をしていなかったのである。
無数の下忍達を斬り殺す間も。
調息を極めたたけるならではの芸当であった。
全てはイバラキの不意を突く為。
たけるほどの腕がありながら卑怯とも思える策を弄する。
これこそが忍びなのだ。
目の前で炎に包まれて苦しむイバラキに向かって、たけるは刀を振り上げた。
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