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2010-12-23(Thu)

小説・さやか見参!(53)

日が暮れた。

先ほどまで青さの残っていた空は漆黒に染まり、いびつな形の月が煌々と輝いている。

不意に

闇の中に、ぼぅっ、と明かりが灯った。

その光が幻龍城を浮かび上がらせる。

幻龍城のいたる所で松明が点されたのだ。

忍びにとって夜襲は常套である。

つまりこの松明は襲撃への備えであり、臨戦態勢である事を示している。

城門の松明の前には門衛が十名ほどたむろしていた。

城門といっても扉はない。

やはり城と呼べる代物ではないのだ。

青い忍び装束の門衛達は手に手に武器を持って、時折無駄話などしながら周囲を警戒していたが、その内の一人が暗闇に目をやった。

『…誰か来たぞ』

『懲りねぇ奴等だな』

軽口を叩いて身構える。

やがて明かりが、ゆっくりと歩いてくる山吹たけるを照らし出した。

『山吹…たける…?』

忍び達は一瞬驚いて、そして安堵した。

驚いたのは、龍組の次期頭領自らがたった一人で出向いた為だ。

しかも普段の装束ではない。

肩当ての付いた黒い陣羽織。

帯の下には鉄製の腹当て。

脛に巻いた脚半も黒い。

これは、山吹流頭領の戦場での正装であった。

つまりはやはり、たけるは十二組の長、龍組を背負ってこの場に現われたという事だ。

いずれ龍組が来るとは思っていたものの、彼らの予想より遥かに早い。

そこにまず驚いたのだ。

門に近付いたたけるの表情を松明が照らす。

いつものように柔和な笑顔だ。

一見すると、争い事とは無縁に生きてきたようにも思える。

門衛どもが安堵したのはそのせいだ。

彼らは山吹たけるを舐めきっていた。

たけるは人前で技を見せる事がない。

修行すらも見せない。

物腰は柔らかく争いを嫌う。

そんなたけるに対して

『戦の厳しさも知らねぇくせに』

『命のやり取りの怖さも知らねぇ奴が』

『実力もねぇくせに頭領の座が約束されてるなんて、ぼんぼんはいいよなぁ』

などと思っているのだ。

たけるは門衛達の前で立ち止まり一礼した。

顔を上げて、柔らかい笑顔のまま忍び達を見る。

無言ではあるが、くちなわへの目通りを頼んでいるのだ。

青い忍び達は少しうろたえた。

たけるは門衛が反応しないのを見て、会釈しながら門をくぐろうとした。

以前ならば龍組の使いが砦に入る事を止める者などいなかった。

『待てぇ』

門衛達が手にしている武器をたけるの前に突き出した。

『勝手に入られちゃ困るんだよな』

『もう俺達は蛇組じゃねぇ。だから龍組だからって偉そうにはさせないぜ』

『そうよ。俺達は幻龍組よ』

一人が左胸の紋章を見せる。

いまだ龍になりきれぬ半分の龍の顔、
すなわち幻龍が刻まれていた。

そんなやり取りをしている間に門の内側にもぞろぞろと青い忍びが集まってきた。

ざっと三十人はいるだろうか。

刀や槍を構えて行く手を塞いでいる。

門衛達はたけるの喉に、胸に、腕に、足に、刃をぐいっと押し当てた。

『黙って帰らなきゃ、お前、死ぬぜ』

そう言い終わらぬ内に、たけるは押し付けられた刃など気にならぬようにすっと前に進んだ。

気がつくと三十人の敵の壁を越えて屋敷に向かって歩いている。

行く手を阻んでいた青い忍び達はしばらく動かなかったが、やがて一斉に全員の首がぽろりと落ちた。

たけるが刀を抜いた瞬間を誰も見る事は出来なかった。
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コメント

入部

俺!龍組に入部するよ!

>DA!

よし!
すぐに入部届けを持って来るんだ!
プロフィール

武装代表・内野

Author:武装代表・内野
福岡・久留米を中心に、九州全域で活動している『アトラクションチーム武装』の代表です。

1972年生まれ。
1990年にキャラクターショーの世界に入り現在に至る。

2007年に武装を設立。

武装の活動内容は殺陣教室、殺陣指導、オリジナルキャラクターショー等。

現在は関西コレクションエンターテイメント福岡校さんでのアクションレッスン講師もやらせてもらってます。

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