2010-12-22(Wed)
小説・さやか見参!(52)
鳥組のはやぶさが命を落とした翌朝―
山の中腹にはいつも以上に白いもやがかかっている。
霧散する気体が、差し始めた日光を乱反射してますます風景を溶かしていく。
その一面の白さの中に、突如として巨大な青黒い影が浮かんだ。
幻龍城―
かつての荊木砦を、くちなわはこう呼んだ。
堀を造り塀を建て、戦を想定して増築された砦は以前よりも威圧感を与えるが、決して城などと呼べる代物ではない。
だがくちなわはあえて呼んだ。
この場所を、己が天下を治める拠点と周囲に知らしめる為である。
ほぼ木造の幻龍城が青黒く見えたのには訳があった。
城の周囲を、屋敷の壁を、屋根を、青装束の忍び達がびっしりと埋め尽くしていたのである。
昨夜、一人を生かして帰したのは宣戦布告だ。
これで間違いなく戦が始まる。
まずはこの里の忍者どもを殲滅してやる。
古のしきたりに縛られ諾々と生きているだけのつまらぬ連中を。
十二組という制度が本当に正しいのか、本当に役に立っているのか自分には分からない。
ただ争いを避けて妥協点を見つける為だけが目的にも思える。
十二組の頂点たる龍組が決まれば皆がその命に従い、各々の意思など飲み込んでしまう。
つまらぬ連中。
やはりそう思う。
だが俺は違う。
何が正しいか、何をやるべきか、それは俺の中にあるものだ。
だから俺は俺の意思のままに生きる。
俺が正しいと思う世の中を作る。
地位や肩書き、制度に縛られる事のない世界。
そんなものがあるから父は陽の目を見なかった。
母は理性を失った。
愛などという偽りのない世界。
妻はそれを利用した。
そのまやかしのせいで自分は愛する者を殺す事となった…
そして山吹たける…
奴は笑顔で愛を語りながら卑劣な罠を仕掛けてきた…
俺は俺の天下を築く。
そしてお前達が間違っていた事を思い知らせてやる。
さぁいつでも来い、
薄汚い忍者ども。
朝の修行を終えたさやかが山吹の屋敷に戻ると、すでにたけるの姿はなかった。
ただ、文机にたくさんの折り紙が置かれているばかりである。
しばらく待ったが帰る気配もないので、さやかも紙を折り始めた。
たけるの折り紙を手本にしながら鶴を作った。
たけるが帰ってきたら驚かせようと、時間をかけて、丁寧に折った。
『えっ!これさやかが折ったのか!?』
兄の驚く顔を想像する。
『すごいなぁ、上手になったじゃないか!さやか!』
褒めてくれる兄の笑顔を想像する。
さやかは、ふふっ、と笑いながら鶴を折った。
羽根を広げ息を軽く吹き込むと…
美しい鶴が完成した。
たけるに負けない出来である。
さやかは、鶴を眺めながら兄の帰りを待った。
たけるの反応を想像しながら眩しいほどの笑顔で待ち続けた。
たけるがそれを見る事は、もう出来ないとも知らずに…
山の中腹にはいつも以上に白いもやがかかっている。
霧散する気体が、差し始めた日光を乱反射してますます風景を溶かしていく。
その一面の白さの中に、突如として巨大な青黒い影が浮かんだ。
幻龍城―
かつての荊木砦を、くちなわはこう呼んだ。
堀を造り塀を建て、戦を想定して増築された砦は以前よりも威圧感を与えるが、決して城などと呼べる代物ではない。
だがくちなわはあえて呼んだ。
この場所を、己が天下を治める拠点と周囲に知らしめる為である。
ほぼ木造の幻龍城が青黒く見えたのには訳があった。
城の周囲を、屋敷の壁を、屋根を、青装束の忍び達がびっしりと埋め尽くしていたのである。
昨夜、一人を生かして帰したのは宣戦布告だ。
これで間違いなく戦が始まる。
まずはこの里の忍者どもを殲滅してやる。
古のしきたりに縛られ諾々と生きているだけのつまらぬ連中を。
十二組という制度が本当に正しいのか、本当に役に立っているのか自分には分からない。
ただ争いを避けて妥協点を見つける為だけが目的にも思える。
十二組の頂点たる龍組が決まれば皆がその命に従い、各々の意思など飲み込んでしまう。
つまらぬ連中。
やはりそう思う。
だが俺は違う。
何が正しいか、何をやるべきか、それは俺の中にあるものだ。
だから俺は俺の意思のままに生きる。
俺が正しいと思う世の中を作る。
地位や肩書き、制度に縛られる事のない世界。
そんなものがあるから父は陽の目を見なかった。
母は理性を失った。
愛などという偽りのない世界。
妻はそれを利用した。
そのまやかしのせいで自分は愛する者を殺す事となった…
そして山吹たける…
奴は笑顔で愛を語りながら卑劣な罠を仕掛けてきた…
俺は俺の天下を築く。
そしてお前達が間違っていた事を思い知らせてやる。
さぁいつでも来い、
薄汚い忍者ども。
朝の修行を終えたさやかが山吹の屋敷に戻ると、すでにたけるの姿はなかった。
ただ、文机にたくさんの折り紙が置かれているばかりである。
しばらく待ったが帰る気配もないので、さやかも紙を折り始めた。
たけるの折り紙を手本にしながら鶴を作った。
たけるが帰ってきたら驚かせようと、時間をかけて、丁寧に折った。
『えっ!これさやかが折ったのか!?』
兄の驚く顔を想像する。
『すごいなぁ、上手になったじゃないか!さやか!』
褒めてくれる兄の笑顔を想像する。
さやかは、ふふっ、と笑いながら鶴を折った。
羽根を広げ息を軽く吹き込むと…
美しい鶴が完成した。
たけるに負けない出来である。
さやかは、鶴を眺めながら兄の帰りを待った。
たけるの反応を想像しながら眩しいほどの笑顔で待ち続けた。
たけるがそれを見る事は、もう出来ないとも知らずに…
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