2010-12-22(Wed)
小説・さやか見参!(51)
『くちなわが荊木砦に戻ってきた』
その情報は山吹流を中心とする十二組の里に瞬く間に伝わった。
くちなわに会って事の真偽を質すべく何人もの使者が立ったが、砦は堅牢な柵に囲まれ、その中に立ち入る事さえままならなかった。
事態は何ら進展せず、その間に荊木の砦は要塞の如き体を成すばかりで、
『くちなわが面会に応じない以上、武力行使に訴えるしかあるまい』
という意見が出るのも無理からぬ事であった。
緊急会合の結果、鳥組と虎組の若頭が荊木砦に向かう事になった。
鳥組は交渉を専とする組であり、虎組は斬り込みを任とする組織である。
武力行使を辞さない意思をチラつかせながら強引に面会に応じさせようという腹である。
この策に、山吹たけるだけが危惧を抱いていた。
今のくちなわは以前とは違う。
荊木でみずちの下にいた頃のくちなわと思ってかかると足元をすくわれる。
あの真っ二つにされた女神像は、くちなわがこれまでの自分を捨てたという意思表明に思えて仕方なかった。
たけるは使者に選ばれた虎組の若頭、雷牙と鳥組のはやぶさにそれを伝えたかったが、その暇もなく二人は出発してしまった。
そしてたけるの危惧は的中した。
夜になって瀕死の雷牙がはやぶさを背負って戻ってきたのだ。
すでにはやぶさは息絶えている。
腕に覚えのある雷牙ではあるが、やはり以前のくちなわを知っているが故の油断があったのだろう。
更には不意を突かれて先にはやぶさがやられた。
仲間をかばいながら多勢を相手にしては流石の雷牙とて無事では済まなかったらしい。
這うように戻ってきた雷牙は背からはやぶさの屍を降ろすと、
『たける…くちなわ殿…ありゃもう…鬼だぜ…』
と言って気を失った。
屋敷に戻ったたけるは、一人部屋にこもって紙を折った。
簡単なものから難しいものまで、知り得る限りの折り紙を作った。
これからさやかがお手本に出来るようにと丁寧に、綺麗に。
たけるはさやかの笑顔を思い浮かべる。
さやかの無邪気さ、天真爛漫さ、それは自分とは縁遠いものであった。
自分は山吹の跡継ぎとして、幼い頃から感情を殺すよう教育されてきたのだ。
それに必死で抗っていただけなのだ。
しょせん俺など、感情を殺した兵器にすぎん。
心の中で毒づいてみる。
これからの世に必要なのは、さやか、お前だ。
全ての紙を折り終わったたけるは立ち上がって
『さやか、後を頼むぞ』
とつぶやいて目を閉じた。
そして
ゆっくりと開いたその眼に感情はなかった。
その情報は山吹流を中心とする十二組の里に瞬く間に伝わった。
くちなわに会って事の真偽を質すべく何人もの使者が立ったが、砦は堅牢な柵に囲まれ、その中に立ち入る事さえままならなかった。
事態は何ら進展せず、その間に荊木の砦は要塞の如き体を成すばかりで、
『くちなわが面会に応じない以上、武力行使に訴えるしかあるまい』
という意見が出るのも無理からぬ事であった。
緊急会合の結果、鳥組と虎組の若頭が荊木砦に向かう事になった。
鳥組は交渉を専とする組であり、虎組は斬り込みを任とする組織である。
武力行使を辞さない意思をチラつかせながら強引に面会に応じさせようという腹である。
この策に、山吹たけるだけが危惧を抱いていた。
今のくちなわは以前とは違う。
荊木でみずちの下にいた頃のくちなわと思ってかかると足元をすくわれる。
あの真っ二つにされた女神像は、くちなわがこれまでの自分を捨てたという意思表明に思えて仕方なかった。
たけるは使者に選ばれた虎組の若頭、雷牙と鳥組のはやぶさにそれを伝えたかったが、その暇もなく二人は出発してしまった。
そしてたけるの危惧は的中した。
夜になって瀕死の雷牙がはやぶさを背負って戻ってきたのだ。
すでにはやぶさは息絶えている。
腕に覚えのある雷牙ではあるが、やはり以前のくちなわを知っているが故の油断があったのだろう。
更には不意を突かれて先にはやぶさがやられた。
仲間をかばいながら多勢を相手にしては流石の雷牙とて無事では済まなかったらしい。
這うように戻ってきた雷牙は背からはやぶさの屍を降ろすと、
『たける…くちなわ殿…ありゃもう…鬼だぜ…』
と言って気を失った。
屋敷に戻ったたけるは、一人部屋にこもって紙を折った。
簡単なものから難しいものまで、知り得る限りの折り紙を作った。
これからさやかがお手本に出来るようにと丁寧に、綺麗に。
たけるはさやかの笑顔を思い浮かべる。
さやかの無邪気さ、天真爛漫さ、それは自分とは縁遠いものであった。
自分は山吹の跡継ぎとして、幼い頃から感情を殺すよう教育されてきたのだ。
それに必死で抗っていただけなのだ。
しょせん俺など、感情を殺した兵器にすぎん。
心の中で毒づいてみる。
これからの世に必要なのは、さやか、お前だ。
全ての紙を折り終わったたけるは立ち上がって
『さやか、後を頼むぞ』
とつぶやいて目を閉じた。
そして
ゆっくりと開いたその眼に感情はなかった。
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