2010-12-20(Mon)
小説・さやか見参!(49)
着替えを済ませた血讐が屋敷を出ると、表で断と封が待っていた。
『なんじゃ。おぬしらも帰っておったのか』
血讐の問いに、井戸に腰かけた断がぞんざいに答える。
『ついさっきね』
『わしを待っておったのか?先に行っておれば良かったものを』
そう言われて断はバツの悪そうな顔をした。
それを見た封が、ふふんと笑う。
『どうにもね、怖いみたいなのよ』
血讐もふふんと笑う。
『なるほどな。ならば共に行くか』
血讐と封が並んで歩き出す。
『お、おい、ちょっと待てよ!俺は怖いなんて言ってねぇだろうがよ!』
置いていかれた断が慌てて2人を追いかける。
3人の足は塔に向かっていた。
『断、あんたそんなに怖いの?新しい頭領の事が』
『別に怖くねぇって』
『ふふ、あの頭領の事はわしにもまだ読めぬからな。お前ごときが恐れるのも無理はない』
『だからびびってねぇっつーの!』
三人の会話から分かるように、一角衆は数年前に頭領が変わったばかりであった。
この頭領がどのような人物なのか、
それは徐々に明かされるに違いない。
同じ頃、山吹たけるは荊木砦のはずれを一人歩いていた。
叔父の所から戻ってきた龍組頭領、武双によって先程まで十二組頭領による緊急会合が行われていたのだ。
そこには蛇組頭領たるくちなわの姿はなかった。
くちなわだけではない。
荊木流の誰一人として姿を現さなかったのだ。
組が揃わぬとは、十二組の歴史が始まって初めての事である。
この事によって会合を開くまでもなく一つの結論が導き出された。
『疑わしきは蛇組頭領くちなわである』
と。
ここ数日、各流派の忍びが相次いで殺害されていた。
その手口は鮮やかで、誰に目撃される事もなく証拠も残さず、全員が反撃の間もないほど見事な一撃で仕留められていた。
暗殺は蛇組の最も得意とするところだ。
全員が口には出さずともくちなわを思い浮かべた。
しかしまだ断定は出来ない。
たけるはもう一つの可能性、つまり一角衆の存在について頭領達に語った。
くちなわの妻かすみは幼少の頃に送り込まれた一角衆の間者であり、それ故にくちなわに殺害された事。
だとしたら、みずちの不自然な病死、
三十数年ぶりにうかが戻ってきた事、
そのうかとかがちを、くちなわが相次いで殺害した事、
それらの陰にも一角衆の存在があるのかもしれない。
更には武双の留守中、自分の油断が原因で、山吹の忍びが一角衆に操られくちなわを襲った事…
たけるは一連の殺害がくちなわの仕業ではないと信じたかったのだ。
だがたけるの話は一角衆の存在を感じさせると同時に、
『やはり犯人はくちなわである』
という疑念を頭領達に抱かせる結果となってしまった。
一角衆の策略にはまり山吹を恨むよう仕向けられたのは明白で、それ故十二組の殺害を行なっている、と全員がそう確信したのだ。
くちなわがかねてより蛇組という立場に不満を抱いていた事は誰もが知るところだった。
そこに付け込まれたのであれば同情の余地もない。
それが頭領達の見解である。
とにかく、まずはくちなわを探し出す事。
これに尽きた。
たけるはくちなわを探して荊木砦のはずれを歩いていたのだ。
この先には、あの小さな女神様の像があるはずだ。
くちなわにとっては人の優しさの象徴だった。
それは愛しい妻であり、愛する母であった。
たけるは足を止めて像を見る。
小さな女神はその胴を真一文字に斬られ、上半身を失って立ち尽くしていた。
たけるは
しばらくの間、動く事が出来なかった。
『なんじゃ。おぬしらも帰っておったのか』
血讐の問いに、井戸に腰かけた断がぞんざいに答える。
『ついさっきね』
『わしを待っておったのか?先に行っておれば良かったものを』
そう言われて断はバツの悪そうな顔をした。
それを見た封が、ふふんと笑う。
『どうにもね、怖いみたいなのよ』
血讐もふふんと笑う。
『なるほどな。ならば共に行くか』
血讐と封が並んで歩き出す。
『お、おい、ちょっと待てよ!俺は怖いなんて言ってねぇだろうがよ!』
置いていかれた断が慌てて2人を追いかける。
3人の足は塔に向かっていた。
『断、あんたそんなに怖いの?新しい頭領の事が』
『別に怖くねぇって』
『ふふ、あの頭領の事はわしにもまだ読めぬからな。お前ごときが恐れるのも無理はない』
『だからびびってねぇっつーの!』
三人の会話から分かるように、一角衆は数年前に頭領が変わったばかりであった。
この頭領がどのような人物なのか、
それは徐々に明かされるに違いない。
同じ頃、山吹たけるは荊木砦のはずれを一人歩いていた。
叔父の所から戻ってきた龍組頭領、武双によって先程まで十二組頭領による緊急会合が行われていたのだ。
そこには蛇組頭領たるくちなわの姿はなかった。
くちなわだけではない。
荊木流の誰一人として姿を現さなかったのだ。
組が揃わぬとは、十二組の歴史が始まって初めての事である。
この事によって会合を開くまでもなく一つの結論が導き出された。
『疑わしきは蛇組頭領くちなわである』
と。
ここ数日、各流派の忍びが相次いで殺害されていた。
その手口は鮮やかで、誰に目撃される事もなく証拠も残さず、全員が反撃の間もないほど見事な一撃で仕留められていた。
暗殺は蛇組の最も得意とするところだ。
全員が口には出さずともくちなわを思い浮かべた。
しかしまだ断定は出来ない。
たけるはもう一つの可能性、つまり一角衆の存在について頭領達に語った。
くちなわの妻かすみは幼少の頃に送り込まれた一角衆の間者であり、それ故にくちなわに殺害された事。
だとしたら、みずちの不自然な病死、
三十数年ぶりにうかが戻ってきた事、
そのうかとかがちを、くちなわが相次いで殺害した事、
それらの陰にも一角衆の存在があるのかもしれない。
更には武双の留守中、自分の油断が原因で、山吹の忍びが一角衆に操られくちなわを襲った事…
たけるは一連の殺害がくちなわの仕業ではないと信じたかったのだ。
だがたけるの話は一角衆の存在を感じさせると同時に、
『やはり犯人はくちなわである』
という疑念を頭領達に抱かせる結果となってしまった。
一角衆の策略にはまり山吹を恨むよう仕向けられたのは明白で、それ故十二組の殺害を行なっている、と全員がそう確信したのだ。
くちなわがかねてより蛇組という立場に不満を抱いていた事は誰もが知るところだった。
そこに付け込まれたのであれば同情の余地もない。
それが頭領達の見解である。
とにかく、まずはくちなわを探し出す事。
これに尽きた。
たけるはくちなわを探して荊木砦のはずれを歩いていたのだ。
この先には、あの小さな女神様の像があるはずだ。
くちなわにとっては人の優しさの象徴だった。
それは愛しい妻であり、愛する母であった。
たけるは足を止めて像を見る。
小さな女神はその胴を真一文字に斬られ、上半身を失って立ち尽くしていた。
たけるは
しばらくの間、動く事が出来なかった。
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