2010-12-20(Mon)
小説・さやか見参!(48)
さて、
拝猫殿の背後に樹海が控えている事は既に説明したが、その樹海の中心にはさらに奇妙なものがある事を知っていてもらわねばならない。
この樹海は一度迷えば二度と出られぬと言われるほど巨大なものだが、その中心部には誰にも知られぬ集落があるのだ。
三層からなる塔のような屋敷を、大小様々な屋敷や小屋が囲んでいる。
この集落が誰にも見つかる事がないのにはいくつかの理由があるのだが、それは追々語る事にしよう。
その集落に入ってくる人影が見えた。
小柄な若い男と髪の長い痩せた女。
断と封である。
断は鼻歌など鳴らしながらまっすぐに塔に向かって歩いている。
と、断よりも更に小さな影が屋根より降ってきた。
影は地面に当たった瞬間、跳ねるように横に飛ぶ。
影がぶつかった部分には一瞬遅れて手裏剣が突き刺さった。
断は声をあげた。
『血飛沫鬼ィ!血塗呂ォ!おめぇら目障りなんだよ』
その目の前に赤い影が降ってきてぴたりと止まる。
血塗呂だ。
断と封を見てにやりと笑った。
『目障りとか言うな。ちび』
断の背後から血飛沫鬼の声がした。
どうやら血飛沫鬼と血塗呂はいつものようにじゃれ合って追いかけっこでもしていたらしい。
本気で手裏剣を打つような危険な遊びだが、本人達は楽しげだ。
断は振り返りもせずに
『おめぇの方がちびだろが。どちび』
と悪態を突いた。
その反応に封が呆れる。
『あんた、子供と張り合ってどうすんのよ。血飛沫鬼、血讐様も帰ってんのかい?』
『さっき帰ってきたところさ。今は屋敷で着替えてる』
それを聞いて断が憎々しげな顔をした。
『じじぃ、また女どもをはべらせてやがるな』
それを聞いて封が嘲笑を浮かべる。
『ひがんでんの?あんたモテないからねぇ』
『うっせぇよ、封』
そう。
この集落こそ一角衆の砦なのだ。
そして化け猫を祠る宗教とは、一角衆が人心を誑かす為に作ったものだったのだ。
正式な名称ではないようだが、信者達からは
『庚申教』
と呼ばれていた。
どうやら教祖に退治されたという化け猫は庚申山に巣くう妖怪だったらしい。
庚申教がここまで発展したのは、教祖を名乗る血讐の力による所が大きかった。
血讐は幼少の頃より不思議な力を持っていた。
その声と語り口で数多の女を惹きつけてしまうのだ。
全ての女性を、というワケではないが、狂信的に彼に従う女は数えきれないほどいた。
屋敷に戻った血讐を出迎え、我先に着替えを手伝う女達は血讐個人の信者とも言える。
女達にはきっちりと順位が付けられており、直接血讐の世話をしていいのはほんの数名。
残りは傍らでかしずく事しか許されない。
直接の世話をする女の中でも厳然たる地位の格差があるのだが、全ての女に共通しているのは、血讐の命令には絶対服従、という事である。
正確に言えば服従とは違うかもしれない。
彼女らが血讐の言葉を疑う事はないのだ。
疑わないからためらわない。
今すぐに死ねと言われれば何事もないように命を絶つし、人前でも脱げと言われれば迷わず全てを脱ぎ捨てる。
血讐はこれを信者として、くのいちとして、そして側女として自在に使っていた。
血飛沫鬼と血塗呂もこの女達に産ませた子である。
血讐の血を継ぐ子らは存外に多い。
断が言った『女をはべらせている』というのはこの事を指しているのだ。
拝猫殿の背後に樹海が控えている事は既に説明したが、その樹海の中心にはさらに奇妙なものがある事を知っていてもらわねばならない。
この樹海は一度迷えば二度と出られぬと言われるほど巨大なものだが、その中心部には誰にも知られぬ集落があるのだ。
三層からなる塔のような屋敷を、大小様々な屋敷や小屋が囲んでいる。
この集落が誰にも見つかる事がないのにはいくつかの理由があるのだが、それは追々語る事にしよう。
その集落に入ってくる人影が見えた。
小柄な若い男と髪の長い痩せた女。
断と封である。
断は鼻歌など鳴らしながらまっすぐに塔に向かって歩いている。
と、断よりも更に小さな影が屋根より降ってきた。
影は地面に当たった瞬間、跳ねるように横に飛ぶ。
影がぶつかった部分には一瞬遅れて手裏剣が突き刺さった。
断は声をあげた。
『血飛沫鬼ィ!血塗呂ォ!おめぇら目障りなんだよ』
その目の前に赤い影が降ってきてぴたりと止まる。
血塗呂だ。
断と封を見てにやりと笑った。
『目障りとか言うな。ちび』
断の背後から血飛沫鬼の声がした。
どうやら血飛沫鬼と血塗呂はいつものようにじゃれ合って追いかけっこでもしていたらしい。
本気で手裏剣を打つような危険な遊びだが、本人達は楽しげだ。
断は振り返りもせずに
『おめぇの方がちびだろが。どちび』
と悪態を突いた。
その反応に封が呆れる。
『あんた、子供と張り合ってどうすんのよ。血飛沫鬼、血讐様も帰ってんのかい?』
『さっき帰ってきたところさ。今は屋敷で着替えてる』
それを聞いて断が憎々しげな顔をした。
『じじぃ、また女どもをはべらせてやがるな』
それを聞いて封が嘲笑を浮かべる。
『ひがんでんの?あんたモテないからねぇ』
『うっせぇよ、封』
そう。
この集落こそ一角衆の砦なのだ。
そして化け猫を祠る宗教とは、一角衆が人心を誑かす為に作ったものだったのだ。
正式な名称ではないようだが、信者達からは
『庚申教』
と呼ばれていた。
どうやら教祖に退治されたという化け猫は庚申山に巣くう妖怪だったらしい。
庚申教がここまで発展したのは、教祖を名乗る血讐の力による所が大きかった。
血讐は幼少の頃より不思議な力を持っていた。
その声と語り口で数多の女を惹きつけてしまうのだ。
全ての女性を、というワケではないが、狂信的に彼に従う女は数えきれないほどいた。
屋敷に戻った血讐を出迎え、我先に着替えを手伝う女達は血讐個人の信者とも言える。
女達にはきっちりと順位が付けられており、直接血讐の世話をしていいのはほんの数名。
残りは傍らでかしずく事しか許されない。
直接の世話をする女の中でも厳然たる地位の格差があるのだが、全ての女に共通しているのは、血讐の命令には絶対服従、という事である。
正確に言えば服従とは違うかもしれない。
彼女らが血讐の言葉を疑う事はないのだ。
疑わないからためらわない。
今すぐに死ねと言われれば何事もないように命を絶つし、人前でも脱げと言われれば迷わず全てを脱ぎ捨てる。
血讐はこれを信者として、くのいちとして、そして側女として自在に使っていた。
血飛沫鬼と血塗呂もこの女達に産ませた子である。
血讐の血を継ぐ子らは存外に多い。
断が言った『女をはべらせている』というのはこの事を指しているのだ。
スポンサーサイト