2010-12-19(Sun)
小説・さやか見参!(47)
山吹を含む十二組の里はかなり広い。
一つの山の頂点に龍組の砦があり、それを取り囲む形で、麓や中腹に他の組が砦を築いている。
山の周りに広がる平地は荒れて田畑に向かないので人が住む事もない。
十二組のみならず、忍びの生活は里から完全に隔離されているのだ。
一角衆の砦も人里から離れた場所に築かれていた。
十二組の砦が点在する山から国を二つ挟んだ東国にそれはある。
その国には中央を縦に流れる川があり、川を隔てて西部では商業が、東部では農業が盛んだった。
かなり豊かな国と言える。
その東部の果て、
農村地帯からしばらく歩いた場所に奇妙な様式の建造物が建てられていた。
隣国へ繋がる樹海を背に建つそれは、神社のようでもあり仏閣のようでもある。
かすれた文字で
『拝猫殿』(はいびょうでん)
とだけ記してある。
商人農民問わず、この国の民が近年信奉している、いわゆる宗教であった。
遥か西方から勢力を拡大してきた新興宗教らしい。
神でも仏でもなく『化け猫』を祠ってあるという。
かつて西国で人間を食らっていた化け猫が退治された。
退治された後も化け猫は怨霊となり、人々に仇なし続けた。
その噂を聞いた剛の者が化け猫の怨霊と対決し調伏する事が出来たが、その際に化け猫は
『我を祟り神としてではなく信仰の対象として祠るならば人の世の災いを取り除き、利となり益となるものを与えよう』
と言い残したという。
剛の者が化け猫を祠る拝猫殿を建立すると、その信仰は現世利益を願う者達によって爆発的に拡大し、ついにはこの国まで辿り着いたのだ。
しかしながら、布教の地域を広げ続けていた拝猫殿の動きはこの国へ来てからぴたりと止まった。
樹海の入口に拝猫殿が建ったのは四~五年ほど前だろうか。
それからはどうやらこの国を本拠地と定めたようである。
なぜこの国に落ち着いたのか、
教祖いわく
『商と農を兼ね備えたこの国が豊かになれば、おのずと近隣諸国が、そして全ての民が豊かになりましょう』
という事らしい。
教祖は物腰の柔らかい老人で、奇妙な光を放つ右眼には不思議な霊力があるらしい。
『かつて邪悪な蛇神を退治した際に蛇神に右眼を奪われてな、しかし化け猫様への祈願が通じて新しい目玉をもらう事が出来たのじゃ』
とは教祖の弁。
この教祖、信者からは
『けっしゅう様』
と呼ばれていた。
一つの山の頂点に龍組の砦があり、それを取り囲む形で、麓や中腹に他の組が砦を築いている。
山の周りに広がる平地は荒れて田畑に向かないので人が住む事もない。
十二組のみならず、忍びの生活は里から完全に隔離されているのだ。
一角衆の砦も人里から離れた場所に築かれていた。
十二組の砦が点在する山から国を二つ挟んだ東国にそれはある。
その国には中央を縦に流れる川があり、川を隔てて西部では商業が、東部では農業が盛んだった。
かなり豊かな国と言える。
その東部の果て、
農村地帯からしばらく歩いた場所に奇妙な様式の建造物が建てられていた。
隣国へ繋がる樹海を背に建つそれは、神社のようでもあり仏閣のようでもある。
かすれた文字で
『拝猫殿』(はいびょうでん)
とだけ記してある。
商人農民問わず、この国の民が近年信奉している、いわゆる宗教であった。
遥か西方から勢力を拡大してきた新興宗教らしい。
神でも仏でもなく『化け猫』を祠ってあるという。
かつて西国で人間を食らっていた化け猫が退治された。
退治された後も化け猫は怨霊となり、人々に仇なし続けた。
その噂を聞いた剛の者が化け猫の怨霊と対決し調伏する事が出来たが、その際に化け猫は
『我を祟り神としてではなく信仰の対象として祠るならば人の世の災いを取り除き、利となり益となるものを与えよう』
と言い残したという。
剛の者が化け猫を祠る拝猫殿を建立すると、その信仰は現世利益を願う者達によって爆発的に拡大し、ついにはこの国まで辿り着いたのだ。
しかしながら、布教の地域を広げ続けていた拝猫殿の動きはこの国へ来てからぴたりと止まった。
樹海の入口に拝猫殿が建ったのは四~五年ほど前だろうか。
それからはどうやらこの国を本拠地と定めたようである。
なぜこの国に落ち着いたのか、
教祖いわく
『商と農を兼ね備えたこの国が豊かになれば、おのずと近隣諸国が、そして全ての民が豊かになりましょう』
という事らしい。
教祖は物腰の柔らかい老人で、奇妙な光を放つ右眼には不思議な霊力があるらしい。
『かつて邪悪な蛇神を退治した際に蛇神に右眼を奪われてな、しかし化け猫様への祈願が通じて新しい目玉をもらう事が出来たのじゃ』
とは教祖の弁。
この教祖、信者からは
『けっしゅう様』
と呼ばれていた。
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