2010-12-14(Tue)
小説・さやか見参!(39)
くちなわは帯の下から鉄の鎖を抜き取った。
普段は腰に巻き付けてあるが伸ばせば身長の倍はあろうかという長さだ。
その鎖を身体の左右でびゅんびゅんと振り回す。
全ての手裏剣を防げるとは限らぬが効果は大きいであろう。
防ぎ損なったとて格下の打つ手裏剣など大した事はない。
無数の金属がぶつかり合う音。
くちなわの読み通りほとんどの手裏剣が弾き飛ばされた。
空中にはじけた手裏剣の隙間から数本の槍が突き出される。
普通ならば手裏剣を打った者がすかさず抜刀して襲ってくるところだが、この陣は『討つ』よりも『追い込む』を主眼とする為、槍の出番となる。
陣を崩さずに敵を追い込むには間合いの遠い武器が有利なのだ。
だが槍よりも鎖に分があった。
手裏剣をはじいた鎖は回転を止めぬまま持ち手を打ち槍に絡み付いた。
くちなわはその鎖を力任せに引き槍の1本を奪い取ると、鎖を腰に巻き付けて端を帯に差し込んだ。
その隙を見て山吹の下忍が槍で突いてくる。
『力だけで突きおって』
くちなわが槍の柄を握った手を小さく鋭く動かすと、穂先は下忍の槍を簡単にはじいた。
『おぬしらに槍はまだ早い!!』
そのまま槍を振り下ろし、下忍の手首を左右まとめて切り落とす。
前方と上下左右から次々と繰り出される槍を、くちなわは身を翻しながらはじいていく。
簡単にはじいたように見えるが、槍を当てられた者は一撃で完全に体勢を崩されていた。
くちなわは足先で発した力を上半身に伝達する事で攻撃の威力を増幅しているのだ。
腕の力だけで槍を繰る連中に勝ち目などあろうはずもない。
くちなわの進む所、槍を握った手首だけが残されていった。
『何ゆえ…何ゆえ山吹が俺を!』
中忍の一人が鋭く槍を突き出しながら声をあげる。
『荊木砦に毒を撒きみずち様を殺害!
さらには後継、うか殿を殺害し頭領の座を奪いしは明白!
それを阻止しようとしたかがち殿までも手にかけし所業、荊木流、引いては十二組に仇なすと見なし征伐の命が下った!』
『あいつの…山吹たけるの命令か!』
くちなわは攻撃を全てかわして問うたが中忍は答えない。
『えぇい!』
中忍の突きを上から抑え、反動を利用して喉を突く。
突き刺した槍を右に振って喉を裂き、そのままの勢いで隣りの下忍のこめかみに叩き付ける。
飛び掛かろうとしていた下忍が地面に激突して血を吹いた。
喉を突かれ倒れた中忍を踏み付けてとどめを刺し、そのまま前方へ走る。
五芒星は破った。
外側を固める陣をどうするか。
考える暇はない。
背後からは自分を包囲すべく無数の追っ手が迫ってきている。
この人数に完全に囲まれれば流石に無事では済まぬ…
走るくちなわの前方に五角形の陣を成す忍び達の姿が見えた。
何とかあの壁を破らねば…
しかし、あの山吹がこれほどの攻勢を見せるとは。
十二組の中で最も武力行使から遠い存在ではなかったか。
いや、かつての山吹は非道を極め恐れられていたとも聞く。
やはり性根は変わっておらなんだか。
だとしたら―
俺は山吹たけるのあの屈託ない笑顔にたぶらかされていたのかもしれん。
やはり、笑顔や優しさなど人を欺く為に存在するのだ。
奴ならば真実を、
いや、
俺の心情を察してくれておるとそう信じていた。
信じた俺が愚かだったのだ。
『おのれぇ!山吹たけるっ!!』
くちなわは前方の下忍に槍を投げた。
止める術もなく顔面を串刺しにされた下忍が吹っ飛ぶ瞬間、くちなわは抜刀ざまに回転し、左右を挟み込んできた追っ手を同時に斬り捨てた。
この時くちなわの眼は、この世の全てを憎む悪鬼のものと成り果てていた。
普段は腰に巻き付けてあるが伸ばせば身長の倍はあろうかという長さだ。
その鎖を身体の左右でびゅんびゅんと振り回す。
全ての手裏剣を防げるとは限らぬが効果は大きいであろう。
防ぎ損なったとて格下の打つ手裏剣など大した事はない。
無数の金属がぶつかり合う音。
くちなわの読み通りほとんどの手裏剣が弾き飛ばされた。
空中にはじけた手裏剣の隙間から数本の槍が突き出される。
普通ならば手裏剣を打った者がすかさず抜刀して襲ってくるところだが、この陣は『討つ』よりも『追い込む』を主眼とする為、槍の出番となる。
陣を崩さずに敵を追い込むには間合いの遠い武器が有利なのだ。
だが槍よりも鎖に分があった。
手裏剣をはじいた鎖は回転を止めぬまま持ち手を打ち槍に絡み付いた。
くちなわはその鎖を力任せに引き槍の1本を奪い取ると、鎖を腰に巻き付けて端を帯に差し込んだ。
その隙を見て山吹の下忍が槍で突いてくる。
『力だけで突きおって』
くちなわが槍の柄を握った手を小さく鋭く動かすと、穂先は下忍の槍を簡単にはじいた。
『おぬしらに槍はまだ早い!!』
そのまま槍を振り下ろし、下忍の手首を左右まとめて切り落とす。
前方と上下左右から次々と繰り出される槍を、くちなわは身を翻しながらはじいていく。
簡単にはじいたように見えるが、槍を当てられた者は一撃で完全に体勢を崩されていた。
くちなわは足先で発した力を上半身に伝達する事で攻撃の威力を増幅しているのだ。
腕の力だけで槍を繰る連中に勝ち目などあろうはずもない。
くちなわの進む所、槍を握った手首だけが残されていった。
『何ゆえ…何ゆえ山吹が俺を!』
中忍の一人が鋭く槍を突き出しながら声をあげる。
『荊木砦に毒を撒きみずち様を殺害!
さらには後継、うか殿を殺害し頭領の座を奪いしは明白!
それを阻止しようとしたかがち殿までも手にかけし所業、荊木流、引いては十二組に仇なすと見なし征伐の命が下った!』
『あいつの…山吹たけるの命令か!』
くちなわは攻撃を全てかわして問うたが中忍は答えない。
『えぇい!』
中忍の突きを上から抑え、反動を利用して喉を突く。
突き刺した槍を右に振って喉を裂き、そのままの勢いで隣りの下忍のこめかみに叩き付ける。
飛び掛かろうとしていた下忍が地面に激突して血を吹いた。
喉を突かれ倒れた中忍を踏み付けてとどめを刺し、そのまま前方へ走る。
五芒星は破った。
外側を固める陣をどうするか。
考える暇はない。
背後からは自分を包囲すべく無数の追っ手が迫ってきている。
この人数に完全に囲まれれば流石に無事では済まぬ…
走るくちなわの前方に五角形の陣を成す忍び達の姿が見えた。
何とかあの壁を破らねば…
しかし、あの山吹がこれほどの攻勢を見せるとは。
十二組の中で最も武力行使から遠い存在ではなかったか。
いや、かつての山吹は非道を極め恐れられていたとも聞く。
やはり性根は変わっておらなんだか。
だとしたら―
俺は山吹たけるのあの屈託ない笑顔にたぶらかされていたのかもしれん。
やはり、笑顔や優しさなど人を欺く為に存在するのだ。
奴ならば真実を、
いや、
俺の心情を察してくれておるとそう信じていた。
信じた俺が愚かだったのだ。
『おのれぇ!山吹たけるっ!!』
くちなわは前方の下忍に槍を投げた。
止める術もなく顔面を串刺しにされた下忍が吹っ飛ぶ瞬間、くちなわは抜刀ざまに回転し、左右を挟み込んできた追っ手を同時に斬り捨てた。
この時くちなわの眼は、この世の全てを憎む悪鬼のものと成り果てていた。
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