2010-12-13(Mon)
小説・さやか見参!(37)
『さやか、走るぞ!里に戻る!』
尋常ならざる速さでたけるが疾駆する。
『待ってよお兄ちゃん!まだ街の中だよ!?人前で術を使っちゃダメなんでしょ!?』
戸惑いながらも容易に兄に並んで走っている。
これだけを見てもさやかが同年代の忍びの中で抜きんでているのが分かるというものだ。
たけるも妹の実力を知るからこそ何の遠慮もなく走っている。
『かまわん!急ぐぞ!』
二人の姿は一瞬で遠ざかった。
それを見送る五つの眼…
それは義眼の男と二人の子供の視線であった。
子供達はすでに獣の真似をやめて二本の脚で立っている。
白い羽織りの子供がにやりと笑いながら視線も動かさずに話しかける。
『やっぱり忍びだった。な?俺が言った通りだろ?ちみどろ』
呼び掛けられて赤い羽織りの子供―
ちみどろは無言でうなずいてにやりと笑った。
『二人とも、片付けて引き上げるぞ』
男が言うと二人は口の周りについた蛇の体液をぬぐいながら片付けを始めた。
『それにしてもあの娘、俺達の芝居で完全にびびってたな。ちみどろ、いつかあの女と戦う事があったら俺達二人でもっとびびらせてやろうぜ』
赤い羽織りのちみどろは片付けをしながらにやにやとうなずく。
片目の男は見世物の道具と旅の荷物を二つの背負子にまとめながら、白い羽織りの子供に声をかける。
『ちしぶき、おまえ達があの娘と手を合わせるのは、まだ先の話になるだろうな』
白い羽織りはちしぶきという名らしい。
『えーっ、待ち切れないなぁ…まぁ仕方ないか。ちみどろ、それまでにもっと腕を上げておこうぜ』
ちみどろはまたも無言でうなずくばかりだ。
『ちしぶき、ちみどろ、行くぞ』
『はい!父上!』
ちしぶきの返事をきっかけに、二人は同時に背負子を担いだ。
それからしばらくのち、三人は川沿いの小さな村を歩いていた。
村と言っても現在ここに住む者はほとんどいない。
梅雨の大雨で川が溢れ、年寄りばかりだった村はほぼ壊滅した。
そして生き残ったわずかな者達も洪水がもたらした疫病に倒れたのである。
その廃墟の中を老人と紅白の子供達が歩く。
やがて三人は朽ちかけの神社へ辿り着いた。
鳥居や社の痛み具合いからも大水の影響がうかがえる。
ご神木も枯れてきているようだ。
そこでちしぶきとちみどろは背負子を降ろし、しばし休憩となった。
子供達は疲れも感じさせず、はしゃいで走り回っている。
一見すると普通の子供のようであるが、時おり簡単に鳥居の上まで飛び上がったりする。
この子らにとって、それぐらいは遊びの範疇なのだ。
片目の男はちしぶきが降ろした背負子に腰掛けた。
その足元に大きな鴉がふわりと着地する。
するとその鴉は、低く、人間の言葉を発した。
『けっしゅう様』
鴉に声をかけられて男は動じる事なく、まるで漆黒の鳥など見えぬと言うかの如き態度でつぶやく。
『首尾は』
『上々』
そうとだけ言うと鴉はいずこともなく飛び去った。
けっしゅう様と呼ばれた男が無言で立ち上がると、すかさずちしぶきとちみどろが駆け寄って背負子を担いだ。
一角衆幹部、血讐(けっしゅう)、
その息子、血飛沫鬼(ちしぶき)と血塗呂(ちみどろ)、
三人はまた、いずこともなく歩いて行った。
尋常ならざる速さでたけるが疾駆する。
『待ってよお兄ちゃん!まだ街の中だよ!?人前で術を使っちゃダメなんでしょ!?』
戸惑いながらも容易に兄に並んで走っている。
これだけを見てもさやかが同年代の忍びの中で抜きんでているのが分かるというものだ。
たけるも妹の実力を知るからこそ何の遠慮もなく走っている。
『かまわん!急ぐぞ!』
二人の姿は一瞬で遠ざかった。
それを見送る五つの眼…
それは義眼の男と二人の子供の視線であった。
子供達はすでに獣の真似をやめて二本の脚で立っている。
白い羽織りの子供がにやりと笑いながら視線も動かさずに話しかける。
『やっぱり忍びだった。な?俺が言った通りだろ?ちみどろ』
呼び掛けられて赤い羽織りの子供―
ちみどろは無言でうなずいてにやりと笑った。
『二人とも、片付けて引き上げるぞ』
男が言うと二人は口の周りについた蛇の体液をぬぐいながら片付けを始めた。
『それにしてもあの娘、俺達の芝居で完全にびびってたな。ちみどろ、いつかあの女と戦う事があったら俺達二人でもっとびびらせてやろうぜ』
赤い羽織りのちみどろは片付けをしながらにやにやとうなずく。
片目の男は見世物の道具と旅の荷物を二つの背負子にまとめながら、白い羽織りの子供に声をかける。
『ちしぶき、おまえ達があの娘と手を合わせるのは、まだ先の話になるだろうな』
白い羽織りはちしぶきという名らしい。
『えーっ、待ち切れないなぁ…まぁ仕方ないか。ちみどろ、それまでにもっと腕を上げておこうぜ』
ちみどろはまたも無言でうなずくばかりだ。
『ちしぶき、ちみどろ、行くぞ』
『はい!父上!』
ちしぶきの返事をきっかけに、二人は同時に背負子を担いだ。
それからしばらくのち、三人は川沿いの小さな村を歩いていた。
村と言っても現在ここに住む者はほとんどいない。
梅雨の大雨で川が溢れ、年寄りばかりだった村はほぼ壊滅した。
そして生き残ったわずかな者達も洪水がもたらした疫病に倒れたのである。
その廃墟の中を老人と紅白の子供達が歩く。
やがて三人は朽ちかけの神社へ辿り着いた。
鳥居や社の痛み具合いからも大水の影響がうかがえる。
ご神木も枯れてきているようだ。
そこでちしぶきとちみどろは背負子を降ろし、しばし休憩となった。
子供達は疲れも感じさせず、はしゃいで走り回っている。
一見すると普通の子供のようであるが、時おり簡単に鳥居の上まで飛び上がったりする。
この子らにとって、それぐらいは遊びの範疇なのだ。
片目の男はちしぶきが降ろした背負子に腰掛けた。
その足元に大きな鴉がふわりと着地する。
するとその鴉は、低く、人間の言葉を発した。
『けっしゅう様』
鴉に声をかけられて男は動じる事なく、まるで漆黒の鳥など見えぬと言うかの如き態度でつぶやく。
『首尾は』
『上々』
そうとだけ言うと鴉はいずこともなく飛び去った。
けっしゅう様と呼ばれた男が無言で立ち上がると、すかさずちしぶきとちみどろが駆け寄って背負子を担いだ。
一角衆幹部、血讐(けっしゅう)、
その息子、血飛沫鬼(ちしぶき)と血塗呂(ちみどろ)、
三人はまた、いずこともなく歩いて行った。
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