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2010-12-11(Sat)

小説・さやか見参!(34)

見世物に真実がない事など、ある程度の年齢になれば大体分かる。

分かっていながら怖い物見たさで見てしまうのである。

しかし子供は違う。

現実世界の引き出しが少ない故に、世の中には数奇・怪奇があるのだと信じてしまう。

大人にとっての娯楽は子供にとっての現実であったりするのだ。

それは忍者といえど変わらぬようで、山吹さやかも兄の袴をぎゅっと握り締め、強張った顔で目の前の光景を見ている。

そこでは
白い羽織りの子供と赤い羽織りの子供が猫の動きで戯れあっていた。

赤い羽織りがあくびをして丸くなって寝ようとする。
そこに白い羽織りがちょっかいを出して追いかけっこが始まる。

軽々と塀に飛び乗ってみたり、鳥居の脚に飛び付いてひらりと宙返りしてみたり、本物の猫よりも芝居がかっているが獣らしさは上手く表現されている。

この辺りの『らしさ』と『虚構』の兼ね合いが見世物を見世物たらしめているのであろうとたけるは考える。

そこに見事なまでに男の講釈が乗る。

『首を斬られた化け猫の、怨み祟りが気となって、その気を吸った若殿は三日ののちに亡くなった、
その気を吸った奥方は、やがて双子を産み落とし、その三日後に亡くなった』

ここでまた口調が変わる。
ちょっと声を落として男が語る。

『死んだ若殿夫婦の亡骸をご典医があらためると、肺の腑にはびぃーーーっしりと!
…猫の毛のような物が詰まっていたそうな…』

ちょっと怖い顔で首をゆっくり左右に振り、観衆一人一人の顔を見る。

『たった二人で残された、あにおとうとの哀れな双子、
育てる親もなきはずが、乳を飲ませて育てたは、次々集まる猫!猫!猫!
まるで我が子を育てる如く、猫が赤子を育てます、
やがて双子の兄弟は、育ての親とおんなじに、両手両脚地に着いて、獣のように歩きだす、
屋根の上から塀の上、ひらりと飛んでは軒の下、
生きた魚を頭から、がぶりがぶりと囓りつく、
それがこの、』

さやかがごくりと生唾を飲んだ。

『皆様がご覧になっている二人なのでございます』

二人の子供は同時に『しゃあっ!』と吠えた。

客の何人かがびくっとする。

『…私が引き取ってすでに二年。
人間らしさを取り戻すどころか、ますます獣に近付いている様子。
食事も人様と同じ物などは口にしません。
血のしたたる肉しか食わぬのです。
…さぁーーーて、そろそろ食事の時間だぁ』

男が傍らのびくから紐のような物を引っ張り出した。

周りで見ていた女子供からきゃあと声が上がる。

それはかなり大きな蛇であった。
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プロフィール

武装代表・内野

Author:武装代表・内野
福岡・久留米を中心に、九州全域で活動している『アトラクションチーム武装』の代表です。

1972年生まれ。
1990年にキャラクターショーの世界に入り現在に至る。

2007年に武装を設立。

武装の活動内容は殺陣教室、殺陣指導、オリジナルキャラクターショー等。

現在は関西コレクションエンターテイメント福岡校さんでのアクションレッスン講師もやらせてもらってます。

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