2010-12-11(Sat)
小説・さやか見参!(33)
好好爺の声が響く。
『此所より西の何処の国にて、城に起きたる化け猫騒ぎ。
夜毎現わるその猫は、身の丈2尺で鬼火を吹いて、人の姿に成り済ます。
この怪猫が若殿の、奥方様が身籠もった、赤子の肝に目を付けた』
声は明るいが語りに臨場感があるので見物人達は思わず引き込まれてしまう。
その間も二人の男の子は、講釈に調子を合わせて飛んだり跳ねたり転がったり、こちらも飽きさせる事がない。
時々手の甲を舐めてこめかみに擦り付けたりしている所を見ると、どうやら猫になりきっているらしい。
『見世物の類か』
たけるは思った。
両腕の無い『蛇女』や全身毛むくじゃらの『狒々男』、安っぽいからくりの『ろくろ首』などと同じ趣向か。
しかし見世物とは木戸銭を取って成り立つものではないのか。
このような往来では本当にただの見世物だ。
なればこの男の真意はどこにあるのか?
たけるは何事もそういう風に考えてしまう性格なのだ。
朗々と語る男の右眼は相変わらず不自然に光っている。
妹に目をやると、さやかは真剣に二匹の猫(?)を見ていた。
白猫と赤猫は、ふー!とか、しゃー!!とか言いながらお互いに威嚇しあっている所だ。
『赤子を狙う化け猫は、大殿様を食い殺し、大殿様に成り済まし、若殿夫婦にこう言った。
余の患った病を癒す、たった一つの妙薬は、
いまだ産まれぬ赤子の肝を、赤い血したたるそのままに、切って炙って食す事。
親子の孝のあるならば、親を憐れと思うなら、
是非とも妻の腹を裂き、小さき赤子を取り出して、小さき赤子の腹も裂き、その肝我に差し出さん』
生々しい講釈に観衆が静まり返る。
想像して気分を悪くした者もいるようだ。
『親を助くは当然なれど、妻と子供もまた大事、秤にかける事など出来ぬ、父上それは出来ませぬ、
なればおまえはこの父に、死ねと申すか恩知らず、
いえいえそれでも出来ませぬ、どちらも引かぬ諍いに、割って入った身重の妻が、
おやめ下さい心得ました、孝を尽くすが己の務め、それで病が癒えるのならば、裂いて下さい我が腹を、大殿様のお役に立てば、きっと我が子も喜びましょう』
男はここで言葉を切った。
しんと静まり返る。
男は真顔で言葉をなくした見物人を見渡す。
そして先ほどまでとは口調を変えて低い声でまくしたてる。
『いよいよ腹を裂く時がやってきた。
口ではすまぬと言いながら、大殿の顔には期待に満ちた笑みが浮かんでいる。
そして小刀を手にした瞬間、喜びのあまり油断したか、大殿を照らした行灯の明かりが化け猫の影を映し出した!
若殿はそれに気付くと、おのれ化け猫正体見たりと腰の物を抜き放ち』
男も抜刀すると
『えいっ!』
と横ざまに払った。
『化け猫の首が宙を飛ぶ、胴から離れたその首は元の姿に立ち戻り、怨みがましくめおとを睨み、
赤子の肝よ口惜しや、かくなる上は我が怨み、これより産まれる子供らに、報いを受けてもらおうぞ…』
どすを効かせた言葉の余韻に合わせて子供達がくるんと宙返りをした。
『此所より西の何処の国にて、城に起きたる化け猫騒ぎ。
夜毎現わるその猫は、身の丈2尺で鬼火を吹いて、人の姿に成り済ます。
この怪猫が若殿の、奥方様が身籠もった、赤子の肝に目を付けた』
声は明るいが語りに臨場感があるので見物人達は思わず引き込まれてしまう。
その間も二人の男の子は、講釈に調子を合わせて飛んだり跳ねたり転がったり、こちらも飽きさせる事がない。
時々手の甲を舐めてこめかみに擦り付けたりしている所を見ると、どうやら猫になりきっているらしい。
『見世物の類か』
たけるは思った。
両腕の無い『蛇女』や全身毛むくじゃらの『狒々男』、安っぽいからくりの『ろくろ首』などと同じ趣向か。
しかし見世物とは木戸銭を取って成り立つものではないのか。
このような往来では本当にただの見世物だ。
なればこの男の真意はどこにあるのか?
たけるは何事もそういう風に考えてしまう性格なのだ。
朗々と語る男の右眼は相変わらず不自然に光っている。
妹に目をやると、さやかは真剣に二匹の猫(?)を見ていた。
白猫と赤猫は、ふー!とか、しゃー!!とか言いながらお互いに威嚇しあっている所だ。
『赤子を狙う化け猫は、大殿様を食い殺し、大殿様に成り済まし、若殿夫婦にこう言った。
余の患った病を癒す、たった一つの妙薬は、
いまだ産まれぬ赤子の肝を、赤い血したたるそのままに、切って炙って食す事。
親子の孝のあるならば、親を憐れと思うなら、
是非とも妻の腹を裂き、小さき赤子を取り出して、小さき赤子の腹も裂き、その肝我に差し出さん』
生々しい講釈に観衆が静まり返る。
想像して気分を悪くした者もいるようだ。
『親を助くは当然なれど、妻と子供もまた大事、秤にかける事など出来ぬ、父上それは出来ませぬ、
なればおまえはこの父に、死ねと申すか恩知らず、
いえいえそれでも出来ませぬ、どちらも引かぬ諍いに、割って入った身重の妻が、
おやめ下さい心得ました、孝を尽くすが己の務め、それで病が癒えるのならば、裂いて下さい我が腹を、大殿様のお役に立てば、きっと我が子も喜びましょう』
男はここで言葉を切った。
しんと静まり返る。
男は真顔で言葉をなくした見物人を見渡す。
そして先ほどまでとは口調を変えて低い声でまくしたてる。
『いよいよ腹を裂く時がやってきた。
口ではすまぬと言いながら、大殿の顔には期待に満ちた笑みが浮かんでいる。
そして小刀を手にした瞬間、喜びのあまり油断したか、大殿を照らした行灯の明かりが化け猫の影を映し出した!
若殿はそれに気付くと、おのれ化け猫正体見たりと腰の物を抜き放ち』
男も抜刀すると
『えいっ!』
と横ざまに払った。
『化け猫の首が宙を飛ぶ、胴から離れたその首は元の姿に立ち戻り、怨みがましくめおとを睨み、
赤子の肝よ口惜しや、かくなる上は我が怨み、これより産まれる子供らに、報いを受けてもらおうぞ…』
どすを効かせた言葉の余韻に合わせて子供達がくるんと宙返りをした。
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