2010-12-07(Tue)
小説・さやか見参!(27)
くちなわの笑い声が収まると、かがちは体調の悪さを理由にふらふらと奥へ入っていった。
若干嘲りの笑みをうかべてくちなわはそれを見送る。
そして立ち上がりながら
『うか殿、今日は珍しく天気も良い。外に出てみますか』
と爽やかに言う。
うかも
『良いですな』
と立ち上がった。
荊木の砦のはずれに、今ではもう使っていない屋敷がある。
ここには昔、鉄を扱う職人がいて、手裏剣などを作っていた。
うろこと呼ばれる下忍達はここに集まって手裏剣の投げ方を教わったりしたのである。
陽射しを浴びながらくちなわとうかが歩いてくる。
うかがつぶやく。
『懐かしい…もう職人は誰も残ってはおらんのだな』
『私が幼少の頃に別の場所に移りました。荊木の職人ではなく、十二組全体の職人になりましてな。まぁちょっとした出世と言えましょう』
『おや、その辺りに大きな楓の木があったと思いましたが』
『とうに枯れてしまいましたわ。なにぶん我々もあの木を的に手裏剣の練習をして、かなり痛め付けてしまいましたからな』
二人は笑う。
その雰囲気のまま―
くちなわはうかに軽く語りかける。
『楓の事まで知っているとは…一角衆の情報網は一体どうなっておるものか』
うかもすまして答える。
『造作もない。
我ら一角衆、間者の育成においては他流派の追随を許さぬ。
かつて本物のうか殿と敵地に潜入した牛組の忍び、一角の者にはすぐに正体を見抜かれておった』
『やはり本物のうか殿は…』
『手を下したのは俺ではないぞ。俺もまだ幼かったからな』
『母上に毒を盛らせたのは貴様か?』
偽者のうかは笑った。
『それは違う。あれはあのばばぁが勝手にやった事よ』
『おぬし達の人心を惑わす技はなまなかではないな。
拙者が死なずに計画が狂ったか?』
『別に。あんたが死ねば俺が荊木をいただく。
死ななければばばぁの裏切りで荊木は崩壊。
どっちにしても俺には利がある。』
『拙者がこの事を母上に話したら?』
『信じないだろうな。あのばばぁ、俺を本当の息子だと思ってやがる。
まぁこの砦に毒を撒いたのは正常な判断を鈍らす為ってのもあったんだがな。
かすみは良くやってくれたよ。』
くちなわはかすみという名前に少し反応した。
『すまんすまん、嫌な名前を出しちまったな』
うかを名乗る一角衆の忍びがくちなわに顔を寄せ、にやりと笑った。
瞬間、
くちなわが目に見えぬほどの速さで刀を抜き、そのまま胴を払った。
確実に両断出来る距離であったはずなのに刀が空を斬る。
跳躍したうかはすでに屋敷の屋根に上っていた。
何という常人離れした身体能力であろうか。
だが瓦に着地したと思った時にはくちなわもすでに追い付き刀を振り下ろしている。
いつの間に刀を抜いたのか、うかはそれを受けた。
白刃が火花を散らした。
若干嘲りの笑みをうかべてくちなわはそれを見送る。
そして立ち上がりながら
『うか殿、今日は珍しく天気も良い。外に出てみますか』
と爽やかに言う。
うかも
『良いですな』
と立ち上がった。
荊木の砦のはずれに、今ではもう使っていない屋敷がある。
ここには昔、鉄を扱う職人がいて、手裏剣などを作っていた。
うろこと呼ばれる下忍達はここに集まって手裏剣の投げ方を教わったりしたのである。
陽射しを浴びながらくちなわとうかが歩いてくる。
うかがつぶやく。
『懐かしい…もう職人は誰も残ってはおらんのだな』
『私が幼少の頃に別の場所に移りました。荊木の職人ではなく、十二組全体の職人になりましてな。まぁちょっとした出世と言えましょう』
『おや、その辺りに大きな楓の木があったと思いましたが』
『とうに枯れてしまいましたわ。なにぶん我々もあの木を的に手裏剣の練習をして、かなり痛め付けてしまいましたからな』
二人は笑う。
その雰囲気のまま―
くちなわはうかに軽く語りかける。
『楓の事まで知っているとは…一角衆の情報網は一体どうなっておるものか』
うかもすまして答える。
『造作もない。
我ら一角衆、間者の育成においては他流派の追随を許さぬ。
かつて本物のうか殿と敵地に潜入した牛組の忍び、一角の者にはすぐに正体を見抜かれておった』
『やはり本物のうか殿は…』
『手を下したのは俺ではないぞ。俺もまだ幼かったからな』
『母上に毒を盛らせたのは貴様か?』
偽者のうかは笑った。
『それは違う。あれはあのばばぁが勝手にやった事よ』
『おぬし達の人心を惑わす技はなまなかではないな。
拙者が死なずに計画が狂ったか?』
『別に。あんたが死ねば俺が荊木をいただく。
死ななければばばぁの裏切りで荊木は崩壊。
どっちにしても俺には利がある。』
『拙者がこの事を母上に話したら?』
『信じないだろうな。あのばばぁ、俺を本当の息子だと思ってやがる。
まぁこの砦に毒を撒いたのは正常な判断を鈍らす為ってのもあったんだがな。
かすみは良くやってくれたよ。』
くちなわはかすみという名前に少し反応した。
『すまんすまん、嫌な名前を出しちまったな』
うかを名乗る一角衆の忍びがくちなわに顔を寄せ、にやりと笑った。
瞬間、
くちなわが目に見えぬほどの速さで刀を抜き、そのまま胴を払った。
確実に両断出来る距離であったはずなのに刀が空を斬る。
跳躍したうかはすでに屋敷の屋根に上っていた。
何という常人離れした身体能力であろうか。
だが瓦に着地したと思った時にはくちなわもすでに追い付き刀を振り下ろしている。
いつの間に刀を抜いたのか、うかはそれを受けた。
白刃が火花を散らした。
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