fc2ブログ
2010-12-03(Fri)

小説・さやか見参!(26)

くちなわは飯を口に運んだ。

咀嚼の間、沈黙が流れる。

ようやく嚥下すると、

『うむ、うまい』

と唸った。

『母上もうか殿も食あたりには気をつけなさりませ。あれはなかなかにやっかいなものでございますぞ。』

かがちは青ざめて、うかは穏やかな顔で聞いている。

『魚貝など、あたれば死に至るものもあるようですからな。…はて…しかし先日は何にあたったものか…』

かがちは目を合わさぬまま固まっている。

うかは微笑んでくちなわを見ている。

くちなわは膳の上辺りをぼんやりと見ている。

突然うかが口を開く。

『心当たりはあるのですか?』

『ふむ…最後に口に入れたのは握り飯と香の物だったか…いや、しかし母上の作った飯が…』

うかが受ける。

『まぁいかに吟味したとて、腹に入るまで分からぬ物もありますからな。
それにしても、ここが医学薬学に優れた蛇組で良かった。
ここなら食あたり程度の薬なら溢れるほどございましょう』

『それがな、うか殿』

くちなわは空になった茶碗を膳に戻すと、おどけたような驚いた顔をした。

『何と、いかな薬を使っても効き目がなかったのだ。たかが食あたりと甘く見て、危うく命を落とすところであったわ。はははははっ!』

くちなわは豪快に笑った。
その振動がかがちの小さな身体を震わせているように見えた。

『荊木の秘術に…』

くちなわが突然声を落とす。

『甕の中に様々な毒蛇を入れて殺し合いをさせ、生き残った一匹をさらに3日その甕に漬け、4日目に生き血を搾り最強の毒となす、というものがありますな』

『幼き頃に聞いた気が…
伝説伝承の類かと』

『しかり。私もそう思っておりました。まぁそれはさておき、その毒を用いれば、飲んだ者の血を侵し五臓六腑を腐らせて死に至らしめるとの事。こたびはまさにその毒を飲んだような苦しみでしたぞ』

うかは片方の眉をしかめた。

『それは難儀でござったな…しかし無事で何より。先ほど、いかな薬も効かなんだ、と申されましたが』

『おぉ、それだ。何と荊木に伝わる薬草薬丸が一切通用せぬのよ。しかしな、1つだけ…』

くちなわはうかに向かってニッと笑う。

その笑みは顔を合わせていないかがちを意識しているようだ。

『実は私、かねてより独自に研究しておる物がありましてな。
先ほどの毒蛇の生き血、それに対する解毒薬を密かに完成させておったのです』

かがちが脂汗を浮かべる。

『伝説伝承の類と一笑せず研究しておいて助かりました。
もしあれが食あたりでなく敵が盛った毒であったなら…まさか解毒薬が完成しているとも知らず、悔しがっておりましょうなぁ!はっはっはっは!』

屋敷に響くその笑い声は、くちなわの敵意を辺りに充満させていった。
スポンサーサイト



コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

コメント

プロフィール

武装代表・内野

Author:武装代表・内野
福岡・久留米を中心に、九州全域で活動している『アトラクションチーム武装』の代表です。

1972年生まれ。
1990年にキャラクターショーの世界に入り現在に至る。

2007年に武装を設立。

武装の活動内容は殺陣教室、殺陣指導、オリジナルキャラクターショー等。

現在は関西コレクションエンターテイメント福岡校さんでのアクションレッスン講師もやらせてもらってます。

最近の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
月別アーカイブ
カテゴリー
FC2カウンター
ブログ内検索
RSSフィード
リンク
By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード