2010-11-29(Mon)
小説・さやか見参!(17)
山吹の砦には相変わらず爽やかな風が吹いていた。
砦から少し離れて下るとさほど大きくない池がある。
その池の淵に、桜色の装束を着けた女の子が座っている。
―くちなわとかすみの惨劇が起きて数日経っていた―
女の子、山吹さやかは水面と太陽の動きを交互に眺めている。
どうやらかなり長い時間そうしているようだった。
やがて、
水面にたけるが顔を出した。
ぷはぁ、と息を継ぐ。
『おにいちゃん!!』
さやかは兄が戻ってくるのを待ちきれずはしゃいだ。
『おにいちゃん!すごいすごい!いつもよりずっと長かった!!』
『うん。こつを掴めたみたいだ。これなら半日は軽くいけるな』
事もなさげに答える兄をさやかは尊敬の眼差しで見つめた。
今たけるが行なっている修行は、山吹流では『調息』と呼ばれているものだ。
簡単に言えば、長時間呼吸を止める技術、という事になるだろうか。
身体内部を仮死状態に近付ける事で酸素の消費量を極端に少なくするのだ。
この調息は本来、地中水中に潜み敵の動向を探る為の術である。
この術を会得するには、まず浅い水中(もしくは土中)に仰向けになり、竹筒で呼吸する所から始まる。
慣れるに従って徐々に竹筒を細くし、空気の出入りを少なくしていく。
それを続ける事で、やがては竹筒無しで水中、土中に潜む事が出来るようになるのである。
しかしそれとて肉体を動かした場合や精神的に動揺した場合は上手くいかない。
わずかでも興奮状態になると仮死を維持出来なくなるからだ。
しかしたけるは違っていた。
どう違うのか?
本来なら安静が絶対条件のこの術を、肉体を動かしながら成す事が出来たのである。
仮死の肉体を自在に操れるという矛盾を超越出来るたけるの技量とはいかほどのものか、
並の忍びには想像もつくまい。
このような離れ業をやってのけるのは山吹の中でも、いや、十二組の中でも山吹たけるただ一人であった。
たけるの修行法は自らが編み出したもので独特である。
全身に重りをつけ水底に沈み、山吹に伝わる剣術の『型』を繰り返し練るのがたける流だ。
呼吸を止めながら動くという鍛練といえば簡単だが、言うは易し行なうは難しである。
この方法なら、演じた型の回数で潜水時間を測る事が出来るので、誰にも知られず一人で行なえるという利点もあった。
改めて言うが、忍びの術は人に知られぬが鉄則なのだ。
砦から少し離れて下るとさほど大きくない池がある。
その池の淵に、桜色の装束を着けた女の子が座っている。
―くちなわとかすみの惨劇が起きて数日経っていた―
女の子、山吹さやかは水面と太陽の動きを交互に眺めている。
どうやらかなり長い時間そうしているようだった。
やがて、
水面にたけるが顔を出した。
ぷはぁ、と息を継ぐ。
『おにいちゃん!!』
さやかは兄が戻ってくるのを待ちきれずはしゃいだ。
『おにいちゃん!すごいすごい!いつもよりずっと長かった!!』
『うん。こつを掴めたみたいだ。これなら半日は軽くいけるな』
事もなさげに答える兄をさやかは尊敬の眼差しで見つめた。
今たけるが行なっている修行は、山吹流では『調息』と呼ばれているものだ。
簡単に言えば、長時間呼吸を止める技術、という事になるだろうか。
身体内部を仮死状態に近付ける事で酸素の消費量を極端に少なくするのだ。
この調息は本来、地中水中に潜み敵の動向を探る為の術である。
この術を会得するには、まず浅い水中(もしくは土中)に仰向けになり、竹筒で呼吸する所から始まる。
慣れるに従って徐々に竹筒を細くし、空気の出入りを少なくしていく。
それを続ける事で、やがては竹筒無しで水中、土中に潜む事が出来るようになるのである。
しかしそれとて肉体を動かした場合や精神的に動揺した場合は上手くいかない。
わずかでも興奮状態になると仮死を維持出来なくなるからだ。
しかしたけるは違っていた。
どう違うのか?
本来なら安静が絶対条件のこの術を、肉体を動かしながら成す事が出来たのである。
仮死の肉体を自在に操れるという矛盾を超越出来るたけるの技量とはいかほどのものか、
並の忍びには想像もつくまい。
このような離れ業をやってのけるのは山吹の中でも、いや、十二組の中でも山吹たけるただ一人であった。
たけるの修行法は自らが編み出したもので独特である。
全身に重りをつけ水底に沈み、山吹に伝わる剣術の『型』を繰り返し練るのがたける流だ。
呼吸を止めながら動くという鍛練といえば簡単だが、言うは易し行なうは難しである。
この方法なら、演じた型の回数で潜水時間を測る事が出来るので、誰にも知られず一人で行なえるという利点もあった。
改めて言うが、忍びの術は人に知られぬが鉄則なのだ。
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