2010-11-28(Sun)
小説・さやか見参!(16)
くちなわは問う。
『次はどうする?足を鳴らせば足を斬る。歌を歌えばのどを裂く』
かすみは鮮血したたる両腕をぶらりと下げ、それでも気丈だ。
『こうなっちゃもう伝える事もないさ。あたしが死んで終わり。荊木流頭領ミズチと刺し違えるんだからね、上出来だよ』
『なぜ…』
くちなわは語尾を飲み込んだ。
『なぜ?なぜこんな事をしたかって?ははっ!おまえさん、おかしな事を訊くねぇ。』
かすみはくちなわの眼を見据えて言った。
『任務だからでしょ。与えられた任務はただ実行する。それが忍びってもんじゃないか。あたしはあたしの仕事をしただけだよ』
『違うっ!!』
くちなわが声を荒げた。
かすみが真顔に戻る。
『おまえが一角衆のくのいちだという事は分かった。
ならば任務をこなすのも当然…ただ…』
くちなわは言い淀んだ。
核心に触れるのが怖いのだ。
『なぜ俺を裏切った?おまえの心に、俺にすまないと思う気持ちはあるのか?』
胸のつかえを一気に吐き出す。
『おまえと出会ってから数十年、俺は、おまえとは心が通じておると思っていた。俺の心も全て預けたつもりだ。良い想い出もツラい記憶も共有してきたはずだ。それなのにおまえは俺を裏切って平気だったのか?おまえの心に葛藤があったのかどうか、それが俺は知りたい』
懇願するようにまくしたてるくちなわは悲痛な面持ちをしていた。
『葛藤があったのなら、俺も少しは救われる』
くちなわは真顔でかすみを見つめた。
かすみも真剣な顔でくちなわを見ていた。
…が、やや上目づかいのその顔はまた意地の悪い笑顔に戻って
『おまえさんは忍びに向かない男だねぇ』
とつぶやいた。
『葛藤?任務を遂げるのに何の葛藤がいるんだい?あたしゃあんたを愛しております、だから裏切れませんよぅ、って?』
くちなわはくちびるを噛み締めた。
『さっきも言ったろ?与えられた任務をただこなすのが忍びだよ。そこに葛藤なんてあるもんか。あたしはね』
かすみはくちなわに顔を近付けて言った。
『おまえさんと出会って、おまえさんを裏切るのが任務だったんだよ』
妖艶に笑う。
かすみは舞うようにくちなわから離れた。
『そうさ、ただのお役目。だから後悔も葛藤もないのさ。もちろん、愛もね』
『おまえさんはよくあたしに言ったね。好きだとか愛してるとか。少なくとも一角ではこう言われてるよ』
ぴたりと動きを止めてくちなわを見据える。
『愛だの恋だの語る忍びは三流以下だ、ってね』
くちなわは、何かを振り切るように眼を閉じた。
かまわずかすみは続ける。
『だからおまえさんの愛の言葉を聞く度にあたしはこう思ってたんだよ。
あぁ、これは容易いね、って!あっはっはっはっは!』
かすみが感情を爆発させたように笑った。
小屋を取り囲んだ獣や鳥達も一斉に、あざ笑うように鳴いた。
瞬間、
くちなわの刃は、
かすみののどを貫いていた。
『次はどうする?足を鳴らせば足を斬る。歌を歌えばのどを裂く』
かすみは鮮血したたる両腕をぶらりと下げ、それでも気丈だ。
『こうなっちゃもう伝える事もないさ。あたしが死んで終わり。荊木流頭領ミズチと刺し違えるんだからね、上出来だよ』
『なぜ…』
くちなわは語尾を飲み込んだ。
『なぜ?なぜこんな事をしたかって?ははっ!おまえさん、おかしな事を訊くねぇ。』
かすみはくちなわの眼を見据えて言った。
『任務だからでしょ。与えられた任務はただ実行する。それが忍びってもんじゃないか。あたしはあたしの仕事をしただけだよ』
『違うっ!!』
くちなわが声を荒げた。
かすみが真顔に戻る。
『おまえが一角衆のくのいちだという事は分かった。
ならば任務をこなすのも当然…ただ…』
くちなわは言い淀んだ。
核心に触れるのが怖いのだ。
『なぜ俺を裏切った?おまえの心に、俺にすまないと思う気持ちはあるのか?』
胸のつかえを一気に吐き出す。
『おまえと出会ってから数十年、俺は、おまえとは心が通じておると思っていた。俺の心も全て預けたつもりだ。良い想い出もツラい記憶も共有してきたはずだ。それなのにおまえは俺を裏切って平気だったのか?おまえの心に葛藤があったのかどうか、それが俺は知りたい』
懇願するようにまくしたてるくちなわは悲痛な面持ちをしていた。
『葛藤があったのなら、俺も少しは救われる』
くちなわは真顔でかすみを見つめた。
かすみも真剣な顔でくちなわを見ていた。
…が、やや上目づかいのその顔はまた意地の悪い笑顔に戻って
『おまえさんは忍びに向かない男だねぇ』
とつぶやいた。
『葛藤?任務を遂げるのに何の葛藤がいるんだい?あたしゃあんたを愛しております、だから裏切れませんよぅ、って?』
くちなわはくちびるを噛み締めた。
『さっきも言ったろ?与えられた任務をただこなすのが忍びだよ。そこに葛藤なんてあるもんか。あたしはね』
かすみはくちなわに顔を近付けて言った。
『おまえさんと出会って、おまえさんを裏切るのが任務だったんだよ』
妖艶に笑う。
かすみは舞うようにくちなわから離れた。
『そうさ、ただのお役目。だから後悔も葛藤もないのさ。もちろん、愛もね』
『おまえさんはよくあたしに言ったね。好きだとか愛してるとか。少なくとも一角ではこう言われてるよ』
ぴたりと動きを止めてくちなわを見据える。
『愛だの恋だの語る忍びは三流以下だ、ってね』
くちなわは、何かを振り切るように眼を閉じた。
かまわずかすみは続ける。
『だからおまえさんの愛の言葉を聞く度にあたしはこう思ってたんだよ。
あぁ、これは容易いね、って!あっはっはっはっは!』
かすみが感情を爆発させたように笑った。
小屋を取り囲んだ獣や鳥達も一斉に、あざ笑うように鳴いた。
瞬間、
くちなわの刃は、
かすみののどを貫いていた。
スポンサーサイト