2010-11-25(Thu)
小説・さやか見参!(13)
かすみが目を覚ますとすでに空が白々としていた。
夫の帰りを待ち疲れて、いつの間にか寝てしまったらしい。
くのいちらしからぬ…
かすみは自嘲した。
くちなわはまだ帰っていない。
昨夜みずち様に呼ばれて行ったきり、夜通し何の話をしているというのだろう?
胸騒ぎがした。
しかし…今はただ夫の帰りを待つしかない。
出来るだけ平常を装って。
沈黙が流れる。
時が止まったかのような焦燥感…
…沈黙?
そういえばおかしい。
獣が草を駆ける足音、仲間を呼ぶ鳥の声、池で魚達が跳ねる音…
いつもならば聞こえているハズの音が何も聞こえてこないのだ。
思わず外に飛び出したい衝動に駆られる。
しかし普段と違う行動をするわけにはいかない。
どんな小さな綻びも作ってはならぬ。
帰りが遅い夫を心配して表に出る。
これなら自然なのではないか?
そう考えて立ち上がり、外に出ようと戸に駆け寄る。
かすみの足に何かが当たった。
かがちからもらった白菜だ。
かすみはそれを手に取った。
小刀を使い、葉を2枚剥いで汲み置きの井戸水できれいに洗う。
水気を払い、まな板の上で小気味良く切る。
いつもの音。
かすみは手を止めて耳をすます。
やはり何も聞こえない。
もう一度小刀を動かす。
音―
耳をすます。
無音―
かすみはとうとう耐えきれなくなり、戸に手をかけた。
だがその戸は、別の者の手によって力強く開かれた。
暗い小屋の中に光が差し込む。
眩しい光を背に
抜き身を握りしめた
くちなわが立っていた。
その背後には
累々と獣達の屍が転がっていた。
『待たせたな、かすみ』
いつもの笑顔だ。
『おまえさん…これは、一体…?』
かすみは獣の骸と、そして血に濡れた忍び刀を見た。
『あぁ、何ということはない。
最近は修行中に獣達の声が耳に障ってな。邪魔にならぬよう静かにしてもらったのだ。
ミズチ様からは、それしきで心乱されるなど修行が足らん、と叱られたがな。はっはっは』
くちなわは懐紙で血をぬぐった刀を腰に納めた。
『おぅ、飯の支度中であったか』
まな板の白菜を見てそういうくちなわ。
『あ、すぐに』
再び小刀を取ろうとするかすみ。
『飯は後で良い』
くちなわが制した。
『まぁ座れ、かすみ』
夫の帰りを待ち疲れて、いつの間にか寝てしまったらしい。
くのいちらしからぬ…
かすみは自嘲した。
くちなわはまだ帰っていない。
昨夜みずち様に呼ばれて行ったきり、夜通し何の話をしているというのだろう?
胸騒ぎがした。
しかし…今はただ夫の帰りを待つしかない。
出来るだけ平常を装って。
沈黙が流れる。
時が止まったかのような焦燥感…
…沈黙?
そういえばおかしい。
獣が草を駆ける足音、仲間を呼ぶ鳥の声、池で魚達が跳ねる音…
いつもならば聞こえているハズの音が何も聞こえてこないのだ。
思わず外に飛び出したい衝動に駆られる。
しかし普段と違う行動をするわけにはいかない。
どんな小さな綻びも作ってはならぬ。
帰りが遅い夫を心配して表に出る。
これなら自然なのではないか?
そう考えて立ち上がり、外に出ようと戸に駆け寄る。
かすみの足に何かが当たった。
かがちからもらった白菜だ。
かすみはそれを手に取った。
小刀を使い、葉を2枚剥いで汲み置きの井戸水できれいに洗う。
水気を払い、まな板の上で小気味良く切る。
いつもの音。
かすみは手を止めて耳をすます。
やはり何も聞こえない。
もう一度小刀を動かす。
音―
耳をすます。
無音―
かすみはとうとう耐えきれなくなり、戸に手をかけた。
だがその戸は、別の者の手によって力強く開かれた。
暗い小屋の中に光が差し込む。
眩しい光を背に
抜き身を握りしめた
くちなわが立っていた。
その背後には
累々と獣達の屍が転がっていた。
『待たせたな、かすみ』
いつもの笑顔だ。
『おまえさん…これは、一体…?』
かすみは獣の骸と、そして血に濡れた忍び刀を見た。
『あぁ、何ということはない。
最近は修行中に獣達の声が耳に障ってな。邪魔にならぬよう静かにしてもらったのだ。
ミズチ様からは、それしきで心乱されるなど修行が足らん、と叱られたがな。はっはっは』
くちなわは懐紙で血をぬぐった刀を腰に納めた。
『おぅ、飯の支度中であったか』
まな板の白菜を見てそういうくちなわ。
『あ、すぐに』
再び小刀を取ろうとするかすみ。
『飯は後で良い』
くちなわが制した。
『まぁ座れ、かすみ』
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