2010-11-24(Wed)
小説・さやか見参!(12)
『我ら荊木の医術を盗む為…いや、まずは我らが解毒薬を探っておったに相違あるまい』
ミズチはもはや喋る事すら苦しそうだ。
だがその眼は執念に燃えている。
『解毒薬を?』
『さよう。わしの身体を蝕むこの毒、知っての通り荊木では解毒出来ぬものじゃ。
奴ら一角衆はかすみを使い、我らが持つ解毒薬を全て知ったのであろう。』
『…そして、荊木では対応出来ぬ毒を作り出し、この砦に撒いた…と?』
『確実にわしを殺す為にな。ありきたりな毒など我らに通用せぬ事を知っておるのだ、一角衆は。』
『…信じられませぬ…かすみが荊木に来た時はまだ4つか5つ…そのような昔から…』
『くちなわ、一角衆を侮るな。奴らは我らとは全く違う世界に生きておる。油断すると、地獄へ引きずり込まれるぞ。…わしのようにな…』
ミズチは深く呼吸をして、遠くを見た。
『…ミズチ様、今日はもうお休み下さい…』
くちなわはそう言うのがやっとだった。
敵の術中に嵌まり、まさに命のともしび尽きようとしている我が師の姿。
それに荷担しているかもしれない我が妻。
何を、どう考えれば良いのか…
すでに陽が暮れていた。
くちなわがみずちの屋敷を出るとふくろうが鳴いた。
いつも以上に耳につく。
『全ての音を疑え』
という師の言葉が引っ掛かっているのだろう。
池の淵を通ると水音がした。
それすらも気になって―
くちなわは妻の元へ帰るのをためらい、社の石段に座った。
つぶれたような声で蛙が鳴く。
確かに…
荊木の医術について、くちなわはかすみに何度か話した事がある。
あれは、何気なくかすみから訊いてきたのではなかったか。
もし、かすみが本当に一角衆の間者ならば、
秘伝をぺらぺらと喋った己こそ一番の罪人ではないか。
それだけではない。
ミズチとかがちが留守の際、屋敷をかすみに任せた事がある。
あの時ならミズチの持つ伝書を調べられたのではないか。
あれもかすみを推したのは自分だ。
全ての元凶は自分だったのではないか。
師の教え通りに感情を殺す事が出来ず、愛に溺れてしまった我が大罪…
いや、
まだ妻が間者だと決まったワケではない。
ならば確かめよう。
確かめて違うと確認出来れば良いのだ。
だがどうやって?
ミズチは言った。
全ての音を疑え、と。
ミズチはもはや喋る事すら苦しそうだ。
だがその眼は執念に燃えている。
『解毒薬を?』
『さよう。わしの身体を蝕むこの毒、知っての通り荊木では解毒出来ぬものじゃ。
奴ら一角衆はかすみを使い、我らが持つ解毒薬を全て知ったのであろう。』
『…そして、荊木では対応出来ぬ毒を作り出し、この砦に撒いた…と?』
『確実にわしを殺す為にな。ありきたりな毒など我らに通用せぬ事を知っておるのだ、一角衆は。』
『…信じられませぬ…かすみが荊木に来た時はまだ4つか5つ…そのような昔から…』
『くちなわ、一角衆を侮るな。奴らは我らとは全く違う世界に生きておる。油断すると、地獄へ引きずり込まれるぞ。…わしのようにな…』
ミズチは深く呼吸をして、遠くを見た。
『…ミズチ様、今日はもうお休み下さい…』
くちなわはそう言うのがやっとだった。
敵の術中に嵌まり、まさに命のともしび尽きようとしている我が師の姿。
それに荷担しているかもしれない我が妻。
何を、どう考えれば良いのか…
すでに陽が暮れていた。
くちなわがみずちの屋敷を出るとふくろうが鳴いた。
いつも以上に耳につく。
『全ての音を疑え』
という師の言葉が引っ掛かっているのだろう。
池の淵を通ると水音がした。
それすらも気になって―
くちなわは妻の元へ帰るのをためらい、社の石段に座った。
つぶれたような声で蛙が鳴く。
確かに…
荊木の医術について、くちなわはかすみに何度か話した事がある。
あれは、何気なくかすみから訊いてきたのではなかったか。
もし、かすみが本当に一角衆の間者ならば、
秘伝をぺらぺらと喋った己こそ一番の罪人ではないか。
それだけではない。
ミズチとかがちが留守の際、屋敷をかすみに任せた事がある。
あの時ならミズチの持つ伝書を調べられたのではないか。
あれもかすみを推したのは自分だ。
全ての元凶は自分だったのではないか。
師の教え通りに感情を殺す事が出来ず、愛に溺れてしまった我が大罪…
いや、
まだ妻が間者だと決まったワケではない。
ならば確かめよう。
確かめて違うと確認出来れば良いのだ。
だがどうやって?
ミズチは言った。
全ての音を疑え、と。
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