2010-11-21(Sun)
小説・さやか見参!(9)
ミズチは自らかすみの様子を探った。
かすみの巧妙さは配下の忍びでは見破れぬかもしれなかったからだ。
かすみはこれほどの手練れであったか?
いや、
幼き頃より見てきたが、決してそうではない。
おそらくかすみはただ命じられたままに動いているだけだ。
この状況を仕組んだ者こそ手練れなのだろう。
と言う事は、荊木に拾われた時点で何やらの企てが始まっていたという事か。
だとしたら、見抜けなかった自分自身の責任だ。
ミズチは己を責めていた。
もしこれが事実だったとしたら、くちなわは何と思うだろうか。
くちなわが妻を、かすみを心から愛しているのは分かっている。
ならば、その愛する妻が自分を裏切っていたと知った時―
くちなわの精神はどうなってしまうのか。
ミズチはそれを案じた。
夜明け前―
屋敷の中でミズチは静かに座し、心を虚空とした。
これで外界の全てがありのままに入ってくる。
屋敷の壁の向こうから気配が伝わる。
みずちの屋敷の南側、
畑を兼ねた小さな庭の向こうにはそれほど大きくない池がある。
今のミズチには、畑で蟲が跳ねるのも水面をみずすましが滑るのも目に見えるように分かった。
池の隣りには蛇神を祠った社があり、その裏手にくちなわとかすみが暮らす小さな小屋がある。
ミズチは虚ろになった精神を宇宙と直結する。
あらゆる現象がはっきりと脳裏に像を結ぶ。
小屋の戸が開いた。
驚いてイタチが逃げる。
くちなわが小屋から出て社に向かう。
いつもの如く朝の修行だ。
夜明けを感じて気の早い鳥が鳴く。
かすみはいつものように食事の支度を始める。
軽やかな鼻歌。
大根葉を切る小刀の音。
社の前でくちなわが立禅を始める。
静かな呼吸。
意識が鎮まっていくのさえ伝わってくる。
池で魚が水音を立てた。
一見すれば穏やかな朝の風景。
しかしミズチは気付いていた。
イタチの駆ける音、
鳥のさえずり、
鼻歌、小刀の音、
魚の上げた飛沫…
それらこそが、かすみと何者かのやりとりなのだ。
みずちはいち早くくちなわに伝えたかった。
だが今は言えぬ。
探られている内容が分からぬからだ。
それなりの確証を突き付けねばくちなわは納得すまい。
そして諦める事も出来まい。
何としても確証を見つけなければ。
かすみの巧妙さは配下の忍びでは見破れぬかもしれなかったからだ。
かすみはこれほどの手練れであったか?
いや、
幼き頃より見てきたが、決してそうではない。
おそらくかすみはただ命じられたままに動いているだけだ。
この状況を仕組んだ者こそ手練れなのだろう。
と言う事は、荊木に拾われた時点で何やらの企てが始まっていたという事か。
だとしたら、見抜けなかった自分自身の責任だ。
ミズチは己を責めていた。
もしこれが事実だったとしたら、くちなわは何と思うだろうか。
くちなわが妻を、かすみを心から愛しているのは分かっている。
ならば、その愛する妻が自分を裏切っていたと知った時―
くちなわの精神はどうなってしまうのか。
ミズチはそれを案じた。
夜明け前―
屋敷の中でミズチは静かに座し、心を虚空とした。
これで外界の全てがありのままに入ってくる。
屋敷の壁の向こうから気配が伝わる。
みずちの屋敷の南側、
畑を兼ねた小さな庭の向こうにはそれほど大きくない池がある。
今のミズチには、畑で蟲が跳ねるのも水面をみずすましが滑るのも目に見えるように分かった。
池の隣りには蛇神を祠った社があり、その裏手にくちなわとかすみが暮らす小さな小屋がある。
ミズチは虚ろになった精神を宇宙と直結する。
あらゆる現象がはっきりと脳裏に像を結ぶ。
小屋の戸が開いた。
驚いてイタチが逃げる。
くちなわが小屋から出て社に向かう。
いつもの如く朝の修行だ。
夜明けを感じて気の早い鳥が鳴く。
かすみはいつものように食事の支度を始める。
軽やかな鼻歌。
大根葉を切る小刀の音。
社の前でくちなわが立禅を始める。
静かな呼吸。
意識が鎮まっていくのさえ伝わってくる。
池で魚が水音を立てた。
一見すれば穏やかな朝の風景。
しかしミズチは気付いていた。
イタチの駆ける音、
鳥のさえずり、
鼻歌、小刀の音、
魚の上げた飛沫…
それらこそが、かすみと何者かのやりとりなのだ。
みずちはいち早くくちなわに伝えたかった。
だが今は言えぬ。
探られている内容が分からぬからだ。
それなりの確証を突き付けねばくちなわは納得すまい。
そして諦める事も出来まい。
何としても確証を見つけなければ。
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