2010-11-17(Wed)
小説・さやか見参!(8)
暑さや寒さは目には見えぬ。
時の流れもまたしかり。
ただ、それらを一身に受けた木々は愚直なまでに姿を変える。
12組の忍び達を取り巻く風景は一巡りしていた。
荊木流のくちなわが己の妻を殺したそうだ。
痛ましい事件は、季節の移ろいを運ぶ風と共に一瞬で広まった。
12組を束ねる龍組の長である武双の元にもその報告はいち早く届いた。
武双は思い返す。
善きにつけ悪しきにつけ、まっすぐにしか物を見る事の出来ぬ不器用な蛇組の上忍を。
くちなわには十数年連れ添った妻がいた。
なれそめまでは知らぬ。
しかしかつて荊木流頭領ミズチが語った所によると ―
2人の出会いは、くちなわがミズチに拾われて間もなく。
つまり幼少の頃だ。
後に妻となる少女 -名を『かすみ』という- も、荊木に拾われた1人だ。
2人は同じ境遇だったのである。
厳しい修行の中でくちなわが腹を割って話せるのはかすみしかいなかった。
またかすみもくちなわにだけは本音で語った。
決して弱音を吐かぬくちなわであったが、かすみの前ではそれを晒した。
夢を語る事もあった。
忍びとして捨てたはずの感情も全てかすみには見せていたのである。
そしてかすみはそれを受け入れ、くちなわの唯一の拠り所となっていた。
武双は思う。
もっと出会いが遅ければ…
せめてくちなわがそれなりの忍びとなり、感情を殺す術を知ってから出会っていれば…
これほどかすみを頼らずに済んだであろうに…
自制の利かぬ幼少時に出会ったが為に、かすみに対する障壁が形成されなかったのだ。
忍びたる者、身内すら疑う慎重さが必要だというのに…
やがてくちなわは、うろこと呼ばれる下忍から中忍を経て今の地位に昇格した。
そしてそれを機にかすみを娶った。
十八の時である。
くちなわがいかにかすみを大切にしていたか、それを知る者は少ない。
妻となってなお、くちなわにとってかすみは唯一の拠り所だったのである。
この頃、さしものミズチもかすみを疑う事はなかった。
だが年月が経つにつれ…
かすみの行動に不審を抱くようになっていたのである。
一見すると怪しむべき所などない。
しかし近年のかすみは、ミズチほどの忍びが見れば充分怪しむに足る女に変わっていたのである。
ミズチは確信していた。
かすみは他流派から送り込まれた間者だと。
時の流れもまたしかり。
ただ、それらを一身に受けた木々は愚直なまでに姿を変える。
12組の忍び達を取り巻く風景は一巡りしていた。
荊木流のくちなわが己の妻を殺したそうだ。
痛ましい事件は、季節の移ろいを運ぶ風と共に一瞬で広まった。
12組を束ねる龍組の長である武双の元にもその報告はいち早く届いた。
武双は思い返す。
善きにつけ悪しきにつけ、まっすぐにしか物を見る事の出来ぬ不器用な蛇組の上忍を。
くちなわには十数年連れ添った妻がいた。
なれそめまでは知らぬ。
しかしかつて荊木流頭領ミズチが語った所によると ―
2人の出会いは、くちなわがミズチに拾われて間もなく。
つまり幼少の頃だ。
後に妻となる少女 -名を『かすみ』という- も、荊木に拾われた1人だ。
2人は同じ境遇だったのである。
厳しい修行の中でくちなわが腹を割って話せるのはかすみしかいなかった。
またかすみもくちなわにだけは本音で語った。
決して弱音を吐かぬくちなわであったが、かすみの前ではそれを晒した。
夢を語る事もあった。
忍びとして捨てたはずの感情も全てかすみには見せていたのである。
そしてかすみはそれを受け入れ、くちなわの唯一の拠り所となっていた。
武双は思う。
もっと出会いが遅ければ…
せめてくちなわがそれなりの忍びとなり、感情を殺す術を知ってから出会っていれば…
これほどかすみを頼らずに済んだであろうに…
自制の利かぬ幼少時に出会ったが為に、かすみに対する障壁が形成されなかったのだ。
忍びたる者、身内すら疑う慎重さが必要だというのに…
やがてくちなわは、うろこと呼ばれる下忍から中忍を経て今の地位に昇格した。
そしてそれを機にかすみを娶った。
十八の時である。
くちなわがいかにかすみを大切にしていたか、それを知る者は少ない。
妻となってなお、くちなわにとってかすみは唯一の拠り所だったのである。
この頃、さしものミズチもかすみを疑う事はなかった。
だが年月が経つにつれ…
かすみの行動に不審を抱くようになっていたのである。
一見すると怪しむべき所などない。
しかし近年のかすみは、ミズチほどの忍びが見れば充分怪しむに足る女に変わっていたのである。
ミズチは確信していた。
かすみは他流派から送り込まれた間者だと。
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