2010-11-15(Mon)
小説・さやか見参!(6)
厚い雲が分散され、隙間から差し込んだ光が山吹の砦を照らした。
屋敷から出て来た山吹たけるは太陽の光を浴びながら「う~ん」と背伸びをした。
昨夜の会合は山吹の里で行われた為、他の組よりは遥かに早く帰宅している。
しかし、山吹が再び龍組に選出された事で、各組に送る書状を急ぎ書き記す必要があったのだ。
12組内での取り決めや要望、今後についてなど、「前回までと同じ」と書くわけにもいかぬから、1つ1つ事細かに記載し、結果膨大な量になる。
それらを8割方終わらせた所で陽が差したのに気付き、少し休憩に出たのだ。
穏やかな顔をした若者。
表情だけならば、争いや諍いとは無縁の生き方をしてきたように見える。
ましてや、やがて名門・山吹を継ぐ忍者だなどと誰が思うだろう。
それが、
くちなわが敵視し恐れている山吹たけるなのである。
そのたけるの元へ、小さな、小さな足音が小刻みに迫った。
たけるがふっと笑って見ると―
遠くの丘から子供が駆け下りてくるところだった。
何やら叫んでいるようだが遠過ぎて聞こえない。
いや、常人には聞こえずともたけるには聞こえていたはずだ。
遠くから駆けて来る足音にもすぐに気付いたぐらいなのだから。
その聴力のみならず、たけるの感覚はもはや超能力と呼ぶに相応しかった。
一方、駆けてくる子供は、
あっと言う間にたけるに近付いていた。
人ならざる速さの、
女の子であった。
まだ4つか5つか、年齢はそのぐらいであろう。
左右で結んだ髪。
輝かんばかりの笑顔。
鮮やかな桜色に染められた忍び装束を身に着けている。
そう。
この子も幼いながら、たけると同じく忍者なのだ。
『おにいちゃーん!たけるにいちゃーん!』
ものすごい速さで走ってきた少女は、その勢いを落とす事なくたけるに跳び付いた。
たけるはそれを『ふわり』と受け止めた。
『さやか!今の勢いで跳び付くなんて殺人行為だぞ!』
『だってだって、ずっとおにいちゃんの帰りを待ってたんだもん!』
『だからと言って…』
『それにおにいちゃんならちゃんと受け止めてくれるでしょ?』
『そりゃそうだけど…』
たけるが半ば呆れて、困ったように見ると、少女は『えへへ』と笑った。
屈託のなさはたけるによく似ている。
この少女は山吹さやか。
たけるの、年の離れた妹だ。
屋敷から出て来た山吹たけるは太陽の光を浴びながら「う~ん」と背伸びをした。
昨夜の会合は山吹の里で行われた為、他の組よりは遥かに早く帰宅している。
しかし、山吹が再び龍組に選出された事で、各組に送る書状を急ぎ書き記す必要があったのだ。
12組内での取り決めや要望、今後についてなど、「前回までと同じ」と書くわけにもいかぬから、1つ1つ事細かに記載し、結果膨大な量になる。
それらを8割方終わらせた所で陽が差したのに気付き、少し休憩に出たのだ。
穏やかな顔をした若者。
表情だけならば、争いや諍いとは無縁の生き方をしてきたように見える。
ましてや、やがて名門・山吹を継ぐ忍者だなどと誰が思うだろう。
それが、
くちなわが敵視し恐れている山吹たけるなのである。
そのたけるの元へ、小さな、小さな足音が小刻みに迫った。
たけるがふっと笑って見ると―
遠くの丘から子供が駆け下りてくるところだった。
何やら叫んでいるようだが遠過ぎて聞こえない。
いや、常人には聞こえずともたけるには聞こえていたはずだ。
遠くから駆けて来る足音にもすぐに気付いたぐらいなのだから。
その聴力のみならず、たけるの感覚はもはや超能力と呼ぶに相応しかった。
一方、駆けてくる子供は、
あっと言う間にたけるに近付いていた。
人ならざる速さの、
女の子であった。
まだ4つか5つか、年齢はそのぐらいであろう。
左右で結んだ髪。
輝かんばかりの笑顔。
鮮やかな桜色に染められた忍び装束を身に着けている。
そう。
この子も幼いながら、たけると同じく忍者なのだ。
『おにいちゃーん!たけるにいちゃーん!』
ものすごい速さで走ってきた少女は、その勢いを落とす事なくたけるに跳び付いた。
たけるはそれを『ふわり』と受け止めた。
『さやか!今の勢いで跳び付くなんて殺人行為だぞ!』
『だってだって、ずっとおにいちゃんの帰りを待ってたんだもん!』
『だからと言って…』
『それにおにいちゃんならちゃんと受け止めてくれるでしょ?』
『そりゃそうだけど…』
たけるが半ば呆れて、困ったように見ると、少女は『えへへ』と笑った。
屈託のなさはたけるによく似ている。
この少女は山吹さやか。
たけるの、年の離れた妹だ。
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