2010-03-18(Thu)
小説・さやか見参(2)
「得心なりませぬ!!」
いまだ夜を明かす気配のない山中に男の声が響いた。
静まり返ったこの場所では驚いて逃げる獣すらない。
声の主は蛇組の男であった。
先ほど龍組の山吹に対して不満の表情を見せていた男だ。
年の頃は三十半ばから四十ぐらいであろうか。
眉間に深く刻まれたシワがそう見せるだけで、本当はもっと若いのかもしれない。
「くちなわ、大声を出すな。」
制したのは七十を越えた老体だ。
しかし、声の張りはそれを感じさせず、歩みもかくしゃくとしている。
「物音1つせぬ暗闇じゃ。大きな声を出さずとも、よう聞こえておる。」
「しかし、ミズチ様!」
「なんじゃくちなわ、もしやワシの耳が遠なったと思うて大きな声を出しているのではあるまいな?」
冗談っぽい口調だが、人を威圧する響きを含んでいた。
「ま、まさか・・・めっそうもございません・・・」
しばし沈黙の刻が流れた。
老体は黙って荒れた山路を進み、少し離れて男が従った。
男は老人を『ミズチ』と呼び、老体は男を『くちなわ』と呼んだ。
これは双方名前ではない。
現在の蛇組に就いているのは『荊木(いばらき)流』と呼ばれる集団である。
荊木流ではそれぞれが名前を持たない。
頭領から下忍まで、肩書き・・・役職と言った方がよいのかもしれないが、それで呼び合うのである。
頭領は『ミズチ』と呼ばれる。
その下の上忍達は一様に『くちなわ』である。
中忍になると『うわばみ』、
下忍になると蛇ですらなく『うろこ』と呼ばれるのだ。
これは、任務の妨げになる個人的感情を排する為の荊木流の定めなのである。
つまり、今、黙したまま暗がりを歩いている2人は荊木流の頭領と上忍という事だ。
いまだ夜を明かす気配のない山中に男の声が響いた。
静まり返ったこの場所では驚いて逃げる獣すらない。
声の主は蛇組の男であった。
先ほど龍組の山吹に対して不満の表情を見せていた男だ。
年の頃は三十半ばから四十ぐらいであろうか。
眉間に深く刻まれたシワがそう見せるだけで、本当はもっと若いのかもしれない。
「くちなわ、大声を出すな。」
制したのは七十を越えた老体だ。
しかし、声の張りはそれを感じさせず、歩みもかくしゃくとしている。
「物音1つせぬ暗闇じゃ。大きな声を出さずとも、よう聞こえておる。」
「しかし、ミズチ様!」
「なんじゃくちなわ、もしやワシの耳が遠なったと思うて大きな声を出しているのではあるまいな?」
冗談っぽい口調だが、人を威圧する響きを含んでいた。
「ま、まさか・・・めっそうもございません・・・」
しばし沈黙の刻が流れた。
老体は黙って荒れた山路を進み、少し離れて男が従った。
男は老人を『ミズチ』と呼び、老体は男を『くちなわ』と呼んだ。
これは双方名前ではない。
現在の蛇組に就いているのは『荊木(いばらき)流』と呼ばれる集団である。
荊木流ではそれぞれが名前を持たない。
頭領から下忍まで、肩書き・・・役職と言った方がよいのかもしれないが、それで呼び合うのである。
頭領は『ミズチ』と呼ばれる。
その下の上忍達は一様に『くちなわ』である。
中忍になると『うわばみ』、
下忍になると蛇ですらなく『うろこ』と呼ばれるのだ。
これは、任務の妨げになる個人的感情を排する為の荊木流の定めなのである。
つまり、今、黙したまま暗がりを歩いている2人は荊木流の頭領と上忍という事だ。
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