2016-08-30(Tue)
小説・さやか見参!(275)
夜が明けた。
とはいってもまだまだ時刻は早い。
季節はもう夏なのである。
どこかで気の早い蝉が鳴き始めた。
日中の暑さを予感させる良い天気だ。
いつもならまだ人の気配などない時間だがこの日は違っていた。
夜明けと共に人々が家から出てくるのが見えたのだ。
『動きだしたっシュね』
心太郎の声が囁いた。
『やっぱり今日だったわね』
さやかが答える。
二人の声は古い火の見櫓の上から聞こえていた。
この町では数年前に番屋が移転し使われていた櫓も破棄されてそのままになっていたので、さやかと心太郎は早朝や深夜の監視用に利用していたのである。
戸口を出た人々は近所の者達と挨拶を交わしながら同じ方向に歩いていく。
普段通りの笑顔で、眠そうな顔で、気取りも気負いもなく進んでいく。
『特別おかしな雰囲気ではないっシュね』
『もうこの町では日常の一部になってるんだわ、庚申教が』
さやかの言う通りであった。
謎の新興宗教・庚申教はすでにこの町を含む広い範囲に根付いていた。
そしてこの町では月に一度、町の外れで集会が開かれているという。
今日はその日なのだ。
集会はどうやら早朝から出発し、森を抜けて山を登り、そして森に戻った所で行われるという。
半日かけてのけっこうな重労働である。
老人や子供達にとっては大変だろうが、それでも皆当たり前のように参加している。
それだけ庚申教が浸透しているのだろう。
実際のところ現世利益を説く庚申の教義は人々の心を捉えていた。
しかしながらその庚申教は音駒を死に追いやりさやかを追い詰めようとした仇であるという。
さやかは真実を探る為、今回の集会に潜入する事にしたのだ。
ほどなくして集会に参加する人々の姿が町外れに向かって行った。
ざっと数えただけでも住人の三、四割ぐらいは森に向かっているようである。
さやかと心太郎はかなりの距離を取って後を追った。
最初は参加者に化けて、とも考えたのだがこの状況では余所者はバレやすい。
それに何かあった場合に一般人を巻き込む危険性もある。
それ故に限界まで距離を開いての尾行となったのだ。
とはいってもまだまだ時刻は早い。
季節はもう夏なのである。
どこかで気の早い蝉が鳴き始めた。
日中の暑さを予感させる良い天気だ。
いつもならまだ人の気配などない時間だがこの日は違っていた。
夜明けと共に人々が家から出てくるのが見えたのだ。
『動きだしたっシュね』
心太郎の声が囁いた。
『やっぱり今日だったわね』
さやかが答える。
二人の声は古い火の見櫓の上から聞こえていた。
この町では数年前に番屋が移転し使われていた櫓も破棄されてそのままになっていたので、さやかと心太郎は早朝や深夜の監視用に利用していたのである。
戸口を出た人々は近所の者達と挨拶を交わしながら同じ方向に歩いていく。
普段通りの笑顔で、眠そうな顔で、気取りも気負いもなく進んでいく。
『特別おかしな雰囲気ではないっシュね』
『もうこの町では日常の一部になってるんだわ、庚申教が』
さやかの言う通りであった。
謎の新興宗教・庚申教はすでにこの町を含む広い範囲に根付いていた。
そしてこの町では月に一度、町の外れで集会が開かれているという。
今日はその日なのだ。
集会はどうやら早朝から出発し、森を抜けて山を登り、そして森に戻った所で行われるという。
半日かけてのけっこうな重労働である。
老人や子供達にとっては大変だろうが、それでも皆当たり前のように参加している。
それだけ庚申教が浸透しているのだろう。
実際のところ現世利益を説く庚申の教義は人々の心を捉えていた。
しかしながらその庚申教は音駒を死に追いやりさやかを追い詰めようとした仇であるという。
さやかは真実を探る為、今回の集会に潜入する事にしたのだ。
ほどなくして集会に参加する人々の姿が町外れに向かって行った。
ざっと数えただけでも住人の三、四割ぐらいは森に向かっているようである。
さやかと心太郎はかなりの距離を取って後を追った。
最初は参加者に化けて、とも考えたのだがこの状況では余所者はバレやすい。
それに何かあった場合に一般人を巻き込む危険性もある。
それ故に限界まで距離を開いての尾行となったのだ。
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