2016-02-13(Sat)
小説・さやか見参!(273)
山中を進む血讐は、虚無とも思える静寂の中でかすかな空気の乱れを感じた。
おそらく分散した各隊が十二組に襲撃されたのだろう。
血讐のその読みは当たっていた。
十二に分かれて進んでいた一角の隊は、血讐達を除き全て壊滅させられていた。
干支の名を冠する十二組はそれぞれの動物の特色を活かした戦術を持つという。
(せめて各隊にひとりでも生き残りがいればその一端が知れるものを)
血讐はそうも思ったが、それに関しては最初から期待してはいなかった。
今回は頭領・赤岩の作戦を実行して失敗して帰るのが目的なのだ。
裏の世界に名を轟かせた十二組の全貌を探るのならばもっと綿密な計画が必要だ。
五年、十年、いや、場合によってはそれ以上の時間をかけてじっくりと攻めていかねば。
血讐は己ならどんな手段を講じるかを考えた。
警戒されないという点では赤子か幼子を間者として送り込むのが手っ取り早いが、赤子では術を仕込むのが難しい。
やはり子供、それも戦闘力を持たない女か…
血讐の思考はそこで瞬間的に途切れた。
鋭く研ぎ澄まされた神経がかすかな異常に反応したのだ。
血讐の刀が足元に突き立てられていた。
敵だ。
敵は土中に潜み、ずっと侵入者を待ち伏せていたのだ。
血讐の周囲では反応の遅かった手下達が次々と血しぶきを上げていた。
地面から突き出された刃が侵入者の足の腱を切り裂いた。
体勢を崩したところで今度は腕の腱を断ち斬られた。
地中から忍び達が飛び出した時、そこに立っているのは血讐ただ一人だった。
『我々が今夜来る事までは分からなかったはず。という事は常に地中に潜んで哨務に当たっておるのか。よもや土中にて暮らしておるわけではなかろう』
血讐が軽口を叩きながら刀を構えた。
口調とは裏腹に、刃にはぞっとするような冷たい殺意があった。
取り囲んだ忍び達は気圧されて構えたままじりじりと動いた。
そこへ、
『いや、地中にて暮らしておるかもしれんぞ』
と声がして、
粗末な作務衣を来た男が現れた。
『皆下がるが良い。その者の腕は大したものだ』
男がそう言うと忍び達は一斉に跳び退いて距離を取った。
血讐は男と向かい合いその顔を見た。
口元と顎に短い髭をたくわえている。
表情は柔らかいがその目から感情を読み取る事は出来ない。
髪は結われているが髷というわけでもなく、おそらく邪魔だから結っているといった体だろう。
年の頃は、血讐と変わらぬぐらいだろうか。
推し量っても強さや殺意が読み取れぬ。
これはかなり警戒すべき事であった。
『おぬし、十二組のいずれかの長か』
血讐は訊いた。
油断のならぬ敵だという気がしたからである。
男は訊かれると笑みを浮かべた。
『いかにも』
そしてすらりと刀を抜いた。
『我が名はみずち。地中水中、暗く湿った場所に蠢く蛇の長よ』
おそらく分散した各隊が十二組に襲撃されたのだろう。
血讐のその読みは当たっていた。
十二に分かれて進んでいた一角の隊は、血讐達を除き全て壊滅させられていた。
干支の名を冠する十二組はそれぞれの動物の特色を活かした戦術を持つという。
(せめて各隊にひとりでも生き残りがいればその一端が知れるものを)
血讐はそうも思ったが、それに関しては最初から期待してはいなかった。
今回は頭領・赤岩の作戦を実行して失敗して帰るのが目的なのだ。
裏の世界に名を轟かせた十二組の全貌を探るのならばもっと綿密な計画が必要だ。
五年、十年、いや、場合によってはそれ以上の時間をかけてじっくりと攻めていかねば。
血讐は己ならどんな手段を講じるかを考えた。
警戒されないという点では赤子か幼子を間者として送り込むのが手っ取り早いが、赤子では術を仕込むのが難しい。
やはり子供、それも戦闘力を持たない女か…
血讐の思考はそこで瞬間的に途切れた。
鋭く研ぎ澄まされた神経がかすかな異常に反応したのだ。
血讐の刀が足元に突き立てられていた。
敵だ。
敵は土中に潜み、ずっと侵入者を待ち伏せていたのだ。
血讐の周囲では反応の遅かった手下達が次々と血しぶきを上げていた。
地面から突き出された刃が侵入者の足の腱を切り裂いた。
体勢を崩したところで今度は腕の腱を断ち斬られた。
地中から忍び達が飛び出した時、そこに立っているのは血讐ただ一人だった。
『我々が今夜来る事までは分からなかったはず。という事は常に地中に潜んで哨務に当たっておるのか。よもや土中にて暮らしておるわけではなかろう』
血讐が軽口を叩きながら刀を構えた。
口調とは裏腹に、刃にはぞっとするような冷たい殺意があった。
取り囲んだ忍び達は気圧されて構えたままじりじりと動いた。
そこへ、
『いや、地中にて暮らしておるかもしれんぞ』
と声がして、
粗末な作務衣を来た男が現れた。
『皆下がるが良い。その者の腕は大したものだ』
男がそう言うと忍び達は一斉に跳び退いて距離を取った。
血讐は男と向かい合いその顔を見た。
口元と顎に短い髭をたくわえている。
表情は柔らかいがその目から感情を読み取る事は出来ない。
髪は結われているが髷というわけでもなく、おそらく邪魔だから結っているといった体だろう。
年の頃は、血讐と変わらぬぐらいだろうか。
推し量っても強さや殺意が読み取れぬ。
これはかなり警戒すべき事であった。
『おぬし、十二組のいずれかの長か』
血讐は訊いた。
油断のならぬ敵だという気がしたからである。
男は訊かれると笑みを浮かべた。
『いかにも』
そしてすらりと刀を抜いた。
『我が名はみずち。地中水中、暗く湿った場所に蠢く蛇の長よ』
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