2015-12-15(Tue)

小説・さやか見参!(272)

音も無く敵地を進む一角の忍び達。
彼らは一様に『異様なまでの静けさ』を感じていた。

途中途中に罠らしきものはあった。
だがそれは『かつて罠として仕掛けられたが使われぬまま朽ちた』ような代物ばかりで、それが余計に静けさを感じさせたのだ。

夜深き山中ならばいざ知らず、ここは敵陣が散在する場所である。
名の知れた十二組の手練れ達が侵入者への警戒を怠っているとは思えぬ。
ならばこの静けさは何なのか。

静寂は人心を不安に陥れる。
血讐を除く一角の者達の心がざわりと動いていた。
それは微かな小波のような揺れであったが、忍びとしては致命的になりかねないものだった。

(十二組といっても上忍ばかりではない。数としては下忍や見習いの方が多いのだ。ならば見張りが疎かになる事もあるのではないか?)
(そもそも十二組の砦に夜襲をかける者などいるはずがないと高をくくって油断しておるのではないか?)
(いや、実は全て見透かされていてすでに囲まれているのかもしれぬ)

そんな配下の動揺を感じながら、血讐は今夜の大敗を確信した。

(やれやれ、腕は上がっても中身が伴わねば使い物にならんわい)

心中で毒づく。

(まぁその程度の連中を選んで率いてきたのだから仕方ないがな)

はなから捨石にするつもりで程度の知れた者達を選抜したのである。

(それにしても頭領に一言釘を刺しておいて良かった。今宵の失敗を拙者の責とされてはかなわん)

この任を受ける際、念のため赤岩に『一切の責任は持ちかねますゆえ』と告げておいたのだ。

このような力任せの無策ともいえる作戦を任されて失敗の責任を取らされるのではたまったものではない。

後は自分が生きて帰れればそれで良い。

血讐は一角衆の武術教練に相応しい腕の持ち主である。
たとえ十二組といえども互角に渡り合える者がどれだけいるか。

各組の頭領達といえども一対一ならどうにかなる、そういう自信があった。

血讐の思惑など露知らぬ一角の各隊は周囲を探りながら走っている。

と、

ある隊の先頭を走っていた忍びが突然ぴたりと止まった。
何の合図も無かったが後続達はぶつかる事もなく同時にぴたりと止まった。
音も無くふわりと身を伏せ頭上を見上げるのも同時だった。

忍び達の目に映ったのは見張り櫓、しかも木立の中に巧妙に隠されて組まれた見張り櫓だった。

一角の忍び達は身を伏せたまま気配を消した。
そして、気配が大気と同化するまで数刻もの間じっと待った。
まこと身を隠さねばならない場合、その場の空気になりきる事が要訣なのである。
そして、気配が大気に溶け込んでからようやく、隊列はじわじわと動き出した。
木の葉が舞うように、蛇が這うように、自然の理に沿って動く。
忍び達の動きは完璧だった。

櫓が組まれた樹に一人が近付いた。
蔦のようなものが垂れている。
これを縄梯子のように使って登るのだろう。
だが表面には掴んだり足をかけたりした跡はなかった。
樹皮には一面に苔が生していて、ここにもよじ登った跡は見受けられない。
念のため辺りの他の樹も調べてみたがどれも同じだった。
先頭の忍びは櫓の中も検める事にした。
振り返ると他の者達はすぐにその意を解し、櫓までの人梯子となった。
先頭の忍びは人梯達の肩や背を踏み台にして駆け上がり、一瞬で櫓に辿り着いた。
万が一の時の援護の為に、追って二人が上がってくる。

だが、櫓の中は、荒れていた。
床には落ち葉枯れ葉が積もり、その下には土埃が溜まっていた。
錆びた燭台や欠けた湯飲みなどが落ち葉の間から確認できる。
つまりここは長い間使用されていないという事だ。
三人は検分を済ませると地上に降りた。

十二組とやらはすでに警戒を怠っているのだ。
罠の残骸と朽ちた砦を見て忍び達はそう判断した。
敵はもう何年もの間こうして暮らしていたのだ。
『十二組の砦に侵入出来るわけがない』という思い込みを利用して安穏としていたのだ。
思えば十二組に戦いを挑む者など今ではほとんどいないのだから警備が手薄であっても頷ける。
忍び達は再び隊列を組み走り出した。
この様子なら調査など容易いだろう。
見張り櫓を過ぎてからはただ草むらばかりが広がっている。
おそらくこの向こうに砦があるはずだ。
先頭の忍びが遠くに屋敷の影を見つけた時、
その足が止まった。
先ほどと同じように後続も止まった。
が、さっきとは明らかに違う。
先頭の忍びは激痛を感じていた。
そして膝から下が温かくなるのを感じていた。
血だ。
生温かい血が流れているのだ。
だが何が起きたのかを確認する事は出来なかった。
すでに彼らは十二組のひとつ・猿組の忍者達に取り囲まれていたのだ。

実は草むらの中には所々、葉を模した刃が仕掛けられていた。
精巧に作られた凶器が不規則に仕掛けられていては見破る事は難しい。
ましてや夜の闇の中では。
加えてこの罠の眼目は、ちょうど屋敷が見え始めた辺りに仕掛けられている事だった。
意識が屋敷に向かえば足元への注意は疎かになる。

一角衆の忍び達は悟った。
罠がない事が罠だったのだと。
最初から罠に嵌まっていたのだと。
自分達は山中に入ってからのあまりの静寂に対し不安を感じていた。
そこで朽ち果てた見張り櫓を発見し安心してしまった。
緊張の後の弛緩はより大きくなる。
その瞬間を狙ってこの罠は仕掛けられていたのだ。
敵はずっとここで待ち構えていたのだ。
長い時間かけて、気配を空気に溶け込ませて。

動こうにも動けなかった。
動けば足元の無数の刃が皮膚を貫いた。
一角の部隊のひとつが全滅するのにそう時間はかからなかった。
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プロフィール

武装代表・内野

Author:武装代表・内野
福岡・久留米を中心に、九州全域で活動している『アトラクションチーム武装』の代表です。

1972年生まれ。
1990年にキャラクターショーの世界に入り現在に至る。

2007年に武装を設立。

武装の活動内容は殺陣教室、殺陣指導、オリジナルキャラクターショー等。

くのいち・山吹さやかが活躍する『忍者ライブショー さやか見参!』、新シリーズ『ギルティー!!』も展開中!!

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