2015-08-20(Thu)
小説・さやか見参!(271)
『くだらぬ話だぞ』
イバラキは改めて前置きした。
イバラキがみずちに拾われるより二年ほど前、
一角衆が十二組の砦に攻め入った事があるのだという。
その時、指揮を執ったのが若き頃の血讐であった。
『若いといっても四十に近かったと思うがな』
三十年近く前なのである。
『攻め込んだのかい、あのじいさんが。考えられねぇな』
血讐はじわりじわりと敵を追い詰める作戦を得意とするのだ。
『一角衆の頭領・赤岩は力で押すばかりの粗野な性格だからな。おそらく十二組を攻めあぐねて業を煮やした赤岩が無理に命じたのであろう』
『ま、そうじゃなきゃあのじじいがそんな真似しないか』
十二組の砦はそれぞれの組が分散して居を構えており、よほどの軍勢でなければ全てを一気に攻める事はほぼ不可能である。
もしそれらを取り囲むだけの兵がいたとしても、人数が多ければすぐに気づかれ奇襲は失敗に終わる。
手練れの忍者軍団を相手に真っ向から戦いを挑むほど愚かな事はない。
『だが血讐はさしたる策もなく砦に忍び込んできた。はなから目的を果たすつもりも勝つつもりもなかったのであろう』
『死ぬつもりだったってぇのか?』
『いや、あえて負けるつもりだったのだ。そして頭領である赤岩に、力ではなく知略を用いねば勝てぬと進言するつもりだったのだろう。そうなれば血讐の参謀としての地位は格段に高くなるからな』
その夜は薄明かりの存在すら許さぬが如く厚い雲が空一面を覆っていたという。
風はなく獣の声すら聞こえぬそんな中、黒い隊列がまるで巨大な槍のように一直線に進んでいた。
血讐率いる百数十名の忍び達である。
赤岩が血讐に命じたのは十二組の壊滅。
だが現在分かっているのはこの付近の山々に十二の砦が点在している事、十二支の獣の名を冠する流派がそれぞれを守っている事、そしてどの組の忍び達もかなりの使い手だという事。
たったこれだけの情報で対等に戦えるわけがない。
なので血讐は部下にこう言った。
『我らの目的は調査である』
どこに各々の砦があるのか。見張りはどのように配置されているのか。罠の有無は。
本格的に戦いを起こす前にそれらを調査する事が最優先である。
ただし、敵と遭遇したならばこれを必ず倒す事。
血讐はそのように伝えたのだった。
暗闇に乗じて麓から進入した巨大な槍は、傾斜に差し掛かると一気に穂先を広げた。
穂先は十二本の短い槍となって広がりながら進んでいく。
十二に分かれた隊列が十二の砦を探すべく進んでいるのだ。
ひとつの隊列はおよそ十名。
この程度の人数では敵に気づかれればひとたまりもあるまい。
血讐はそう思っていた。
全滅の可能性すら考慮していた。
だが、たとえ全滅してもたかだか百数十名なら一角衆の基盤が揺らぐ事はない。
血讐ははなから捨石にするつもりで忍び達を率いてきたのである。
イバラキは改めて前置きした。
イバラキがみずちに拾われるより二年ほど前、
一角衆が十二組の砦に攻め入った事があるのだという。
その時、指揮を執ったのが若き頃の血讐であった。
『若いといっても四十に近かったと思うがな』
三十年近く前なのである。
『攻め込んだのかい、あのじいさんが。考えられねぇな』
血讐はじわりじわりと敵を追い詰める作戦を得意とするのだ。
『一角衆の頭領・赤岩は力で押すばかりの粗野な性格だからな。おそらく十二組を攻めあぐねて業を煮やした赤岩が無理に命じたのであろう』
『ま、そうじゃなきゃあのじじいがそんな真似しないか』
十二組の砦はそれぞれの組が分散して居を構えており、よほどの軍勢でなければ全てを一気に攻める事はほぼ不可能である。
もしそれらを取り囲むだけの兵がいたとしても、人数が多ければすぐに気づかれ奇襲は失敗に終わる。
手練れの忍者軍団を相手に真っ向から戦いを挑むほど愚かな事はない。
『だが血讐はさしたる策もなく砦に忍び込んできた。はなから目的を果たすつもりも勝つつもりもなかったのであろう』
『死ぬつもりだったってぇのか?』
『いや、あえて負けるつもりだったのだ。そして頭領である赤岩に、力ではなく知略を用いねば勝てぬと進言するつもりだったのだろう。そうなれば血讐の参謀としての地位は格段に高くなるからな』
その夜は薄明かりの存在すら許さぬが如く厚い雲が空一面を覆っていたという。
風はなく獣の声すら聞こえぬそんな中、黒い隊列がまるで巨大な槍のように一直線に進んでいた。
血讐率いる百数十名の忍び達である。
赤岩が血讐に命じたのは十二組の壊滅。
だが現在分かっているのはこの付近の山々に十二の砦が点在している事、十二支の獣の名を冠する流派がそれぞれを守っている事、そしてどの組の忍び達もかなりの使い手だという事。
たったこれだけの情報で対等に戦えるわけがない。
なので血讐は部下にこう言った。
『我らの目的は調査である』
どこに各々の砦があるのか。見張りはどのように配置されているのか。罠の有無は。
本格的に戦いを起こす前にそれらを調査する事が最優先である。
ただし、敵と遭遇したならばこれを必ず倒す事。
血讐はそのように伝えたのだった。
暗闇に乗じて麓から進入した巨大な槍は、傾斜に差し掛かると一気に穂先を広げた。
穂先は十二本の短い槍となって広がりながら進んでいく。
十二に分かれた隊列が十二の砦を探すべく進んでいるのだ。
ひとつの隊列はおよそ十名。
この程度の人数では敵に気づかれればひとたまりもあるまい。
血讐はそう思っていた。
全滅の可能性すら考慮していた。
だが、たとえ全滅してもたかだか百数十名なら一角衆の基盤が揺らぐ事はない。
血讐ははなから捨石にするつもりで忍び達を率いてきたのである。
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