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2010-01-23(Sat)

小説・さやか見参

とある時代のとある国。

都を中心に覇権争いが続き、
武士のみならず、
平穏に暮らしていた民百姓までも
争いに巻き込まれていた

そんな時代。

とある地方のとある山中、
とある屋敷に24人の男達が集まっていた。

月の煌々と照る夜であった。

38万kmもの遠くから発せられた衛星の光は、
木々が生い茂る中に、所々その姿を見せるのみであった。

男達はそのわずかな明かりの中を
驚くほどしっかりした足取りで、
いや、むしろ常人以上の速度で屋敷へ向かっていたのである。

彼らは果たして何者であろうか。
そして暗がりの中でも威圧感を与えるような
この屋敷は何であろうか。

茅葺や藁葺ではない、焼き物の瓦を葺いた屋根。
使われている木材も香りから察するに
安いものではあるまい。
暗闇に輝いているのは漆喰であろう。

屋敷の大きさは明らかに農民のものではなく、
かといって豪族のものほどもない。
ましてや武家の屋敷に比すれば
造りが簡素であった。

なによりも、樵すら入らぬような山中にかまえた屋敷とは、
いかなる者の巣窟であろうか。


屋敷の中に蝋燭の明かりが灯った。
中央に1本、周囲に4本配された炎が照らし出したのは
広く、何もない板敷きの間であった。

一見すると道場か修業場のようだが、
その形状は独特である。

12角形、というよりは、
12枚の壁を円形に並べた、というような造りだ。

1枚の壁の大きさは、大男が手を広げても余るほどで、
その広い壁には掛け軸のようなものなのか、
壁面に直接なのかは分からぬが
それぞれ大きな筆文字が画かれている。

最も目立つのは、蝋燭の炎でもそれと分かる
朱で書かれた

『龍』

という文字だろう。

そこから時計回りに
『鼠』
『牛』
『虎』
『兎』
『蛇』
『馬』
『羊』
『猿』
『鳥』
『犬』
『猪』
と黒い文字が並び、
最初の『龍』に戻っている。

文字の書かれた壁の前には1枚の円座が敷かれており、
都合12枚が円形に並んでいる。
そこにまず年配の12人が腰をおろした。
若き12人はそれぞれの背後に片膝をついた。

前列の年配者と後列の若者が2人1組となり、それが12組
車座になっている格好だ。

年配、と書いたが前列は老人ばかりではなく、
壮年の者や、中年期に差し掛かった者もいる。
中でも前列で一番若く見えるのは
『龍』の前に座っている男だろう。

総髪に鋭い目つき。
顔を見れば全身が引き締まっているのが分かる。
このいでたちは侍か、
いや、武術の師範やもしれぬ。

屋敷にしばしの沈黙が続いた。

気付けば、けものや虫の声も聞こえぬほどの静寂。

と、師範めいた男が口を開いた。

「さっそくだが」

低くよく通る声だ。

言い終わらぬ内に、前列の11人が懐から
折りたたんだ半紙を取り出して
眼前の床に置いた。

龍の座に座る師範が身じろぎもせず、

「たける」

と呟くと、これまた短く

「は、」

と呟き、背後の若者が立ち上がった。

たけると呼ばれた若者は、年の頃は
十代後半から二十歳ほど。

ザンバラな髪とは不釣合いに
おっとりした美青年であった。

たけるは腰低く車座の中に入り、まずは『鼠』の
老人の前に片膝をついた。

「御免」

そう言うと、先ほど老人が置いた半紙を手に取り、

「よもや疑う者なきやと思うが、万が一の不正なきよう、
今この場で検分いたす。
怪しむ点のありし時は即刻申し出ていただくよう
お頼み申し上げる」

そう高らかに声を上げると、鼠の2名に向かって
半紙を開いた。

「間違いござらぬか」
「うむ。間違いない」

老人がうなずくと今度はつつと右に寄り、
牛の2名に見せた。
2名がうなずくとまた右に進み、虎へ、兎へと足を進め、
見せられた2名はそれぞれ力強くうなずく。
これが1周し、最後に龍の師範の所に届けられる。

たけるは次に牛の老人が出した半紙を手に取り、
同じように車座を回る。

最後の猪の半紙が確認されるまで、
たけるは11周もこの部屋を回った事になる。
全ての紙に、師範とたけるを除く22人がうなずいた。
しかし1人、蛇の座の後列で片膝をついている男だけは、
首だけはかすかに縦に動かしていたものの、
その眼は何ものも受け入れようとはしない、
いわば憎しみに燃えた眼をしていた。

この男は一体何者なのか。
そして男が受け入れる事が出来ないものとは
一体何なのか。

風もなく、中央の蝋燭の炎が激しく揺れた。
そのまま吹き消されてしまうのではないかと思うような
激しい揺れに、壁に映った男達の影も踊らされている。

やがて炎が落ち着きを取り戻した頃、龍の座の前に全ての半紙が
広げられ、師範は静かに視線を落とし、それを、見た。

全ての半紙には全く同じ模様が書かれてある。
1つの赤い丸と、11個の黒い丸が
円を画くかのように書かれたそれは、
ある種の曼荼羅のようだ。

そして何よりも、この部屋の構造と瓜二つではないか。

虎の座の壮年の男が周囲を見渡しながら満足げに、
今までの緊張が解けた様子で

「満場一致・・・でございますな」

と声を発し、蛇座後列の男を除いた全員がうなずいた。

虎の座の壮年の男、そして後列の若い男が立ち上がった。

「各流派の任はこれまでと変わりなしじゃ!
それぞれのかしらは、今まで通り組のお役目に当たってくだされ!」

その言葉をきっかけに全員が立ち上がった。
24人がここに集まったのは、
流派の任とやらを決定する為だったのであろう。

そしてそれは協議の結果、現状のままで可だという
結論が出たのだ。

すなわち、壁に書かれていた蛇や鳥というのは役割を表し、
その前に座っていた者がそのお役目に当たっていた、
という事であり、またこれからも引き続きその任に就く、
という事である。

真っ先に立ち上がった虎の座の・・・

虎組の頭領が龍の座まで進み、総髪の師範の肩に手を乗せて言った。

「我らをまとめる龍組は、これまでと変わらず山吹じゃ!
よろしゅう頼むぞ!!」

師範はこの席で初めて微かに微笑み、

「山吹流忍術頭領・山吹武双、しかとお受けいたした。
こちらこそよろしく頼む」

と答えた。
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プロフィール

武装代表・内野

Author:武装代表・内野
福岡・久留米を中心に、九州全域で活動している『アトラクションチーム武装』の代表です。

1972年生まれ。
1990年にキャラクターショーの世界に入り現在に至る。

2007年に武装を設立。

武装の活動内容は殺陣教室、殺陣指導、オリジナルキャラクターショー等。

現在は関西コレクションエンターテイメント福岡校さんでのアクションレッスン講師もやらせてもらってます。

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