2015-08-01(Sat)
小説・さやか見参!(270)
断はうなだれたまましばらく言葉を失っていた。
イバラキも無言のまま、ただ断を見下ろしていた。
『昔はよ』
断がぽつりと呟く。
『昔は楽しかったぜ。ま、血讐のじじぃに偉そうに命令されるのはしゃくに触ったがよ、それでも封と一緒に戦いに明け暮れて、敵を追い込んで追い込んで、向かってくる奴は返り討ちにしてよ、そんな日々が楽しかったんだよ』
そう言うと顔を上げてイバラキを見る。
『蛇組のくちなわを追い込んだ時もな』
イバラキは表情を変えない。
それでも心中に、一角衆の策略に嵌り人生の全てを失った若き日の自分を思い浮かべていた。
『山吹の連中を操っておまえを襲わせたんだよな、おまえを孤立させる為によ。筋を書いたのは血讐のじじぃだったがな、じじぃの目論見通りに罠に嵌っていくおまえを笑いながら見てたよ、あの時の俺達は』
『拙者が未熟だった。ただそれだけの事よ』
『そうかもしれねぇ。でも実際えげつないよな、血讐の考える事は。信じさせて裏切って、信じさせて壊して、そうして心を蝕んでいく。あんたん所には今でも送り込まれてくんだろ、女房と同じ名前のくのいちが』
『あぁ。これまで何人のかすみに会ったか、もう数え切れぬ』
『だよな。じじぃも飽きずによくやるよ』
『奴は拙者を、いや、荊木流を恨んでおるからな』
『みたいだな。それは感じてたぜ』
断が立ち上がった。
『じじぃと荊木流の間に何があったんだよ。あのじじぃ、訊いても教えちゃくれねぇ。なぁ、せっかくだから教えてくれねぇか。どうせ俺はもう死ぬんだろ。冥土の土産にさ』
断はなんだかさっぱりした表情になっていた。
それを見てイバラキがふふんと笑う。
『まぁ教えんだろうな。今更おぬし達に恥を露呈したくもなかったのであろう』
『恥?』
『そうだ。それはまだ、拙者がみずち様に拾われる前の事だ』
イバラキは、かつて義父に聞いた話を語り始めた。
イバラキも無言のまま、ただ断を見下ろしていた。
『昔はよ』
断がぽつりと呟く。
『昔は楽しかったぜ。ま、血讐のじじぃに偉そうに命令されるのはしゃくに触ったがよ、それでも封と一緒に戦いに明け暮れて、敵を追い込んで追い込んで、向かってくる奴は返り討ちにしてよ、そんな日々が楽しかったんだよ』
そう言うと顔を上げてイバラキを見る。
『蛇組のくちなわを追い込んだ時もな』
イバラキは表情を変えない。
それでも心中に、一角衆の策略に嵌り人生の全てを失った若き日の自分を思い浮かべていた。
『山吹の連中を操っておまえを襲わせたんだよな、おまえを孤立させる為によ。筋を書いたのは血讐のじじぃだったがな、じじぃの目論見通りに罠に嵌っていくおまえを笑いながら見てたよ、あの時の俺達は』
『拙者が未熟だった。ただそれだけの事よ』
『そうかもしれねぇ。でも実際えげつないよな、血讐の考える事は。信じさせて裏切って、信じさせて壊して、そうして心を蝕んでいく。あんたん所には今でも送り込まれてくんだろ、女房と同じ名前のくのいちが』
『あぁ。これまで何人のかすみに会ったか、もう数え切れぬ』
『だよな。じじぃも飽きずによくやるよ』
『奴は拙者を、いや、荊木流を恨んでおるからな』
『みたいだな。それは感じてたぜ』
断が立ち上がった。
『じじぃと荊木流の間に何があったんだよ。あのじじぃ、訊いても教えちゃくれねぇ。なぁ、せっかくだから教えてくれねぇか。どうせ俺はもう死ぬんだろ。冥土の土産にさ』
断はなんだかさっぱりした表情になっていた。
それを見てイバラキがふふんと笑う。
『まぁ教えんだろうな。今更おぬし達に恥を露呈したくもなかったのであろう』
『恥?』
『そうだ。それはまだ、拙者がみずち様に拾われる前の事だ』
イバラキは、かつて義父に聞いた話を語り始めた。
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