2015-05-16(Sat)
小説・さやか見参!(267)
イバラキと断は山頂に向かって走っていた。
いや、走るなどという速度ではない。
あたかも燕が飛ぶがごとく、あるいはそれを凌ぐ速さで移動しているのだ。
二つの影は離れては近付き、接近してはまた距離を取った。
その動きすら常人には目視も出来ぬ一瞬なのであるが、その中では実に濃厚な攻防が繰り広げられていた。
イバラキの刀が鋭く断を狙った。
断はそれを必死にかわしながらイバラキの懐に入ろうと試みた。
断の技は敵に触れ、血の流れ・気の流れを断つというものである。
気血が断たれれば呼吸すらままならなくなり物理的な活動も不可能になる。
断は祖国で叩き込まれたこの殺人技術で敵を倒し、これまで生き抜いてきたのだ。
だが、無敗を誇っていた断はこの国に来て初めての敗北を喫した。
その相手が一角衆幹部、血讐である。
実際に手を合わせたわけではない。
従って実際に負けたわけではない。
だが、ふらりと現れた血讐が目の前に立った時、
(こいつとは戦わない方がいい)
と本能的に思ったのだ。
それは戦う者にとって、まぎれもない敗北なのである。
そして血讐から
『我らの仲間になれ』
と言われた時
(こいつからは逃げられない)
と確信を持ってしまった。
それ故に封と共に一角衆に組する事になったのだ。
一角衆の一員となり数え切れないほどの敵と戦ってきたが、やはり断をおびやかす者は現れなかった。
血讐を除いては無敗を貫く事が出来た。
かつて荊木流にこの者ありと言われ『くちなわ』と呼ばれた忍びに対しても恐れを感じる事はなかった。
だが、
再びくちなわと出会った時、
『幻龍イバラキ』と名を変えたその忍びと再会した時、
断の自信は粉々に砕け散った。
これまでの人生で味わった事のない徹底的な敗北。
屈辱的な惨敗。
あまつさえイバラキの技は断の寿命を残り数年にまで縮めてしまったのだ。
自分はもうすぐ死ぬ。
だとしたらその前に、
せめてこの男を。
断は戦いながらそんな思いをよぎらせている自分に気が付いた。
その間も攻撃の手を休める事はなかったしイバラキの攻撃もどうにかかわしていたのだが、イバラキはふふと笑い、まるで全てを見抜いているかのように
『雑念を抱いておると命に関わるぞ』
と警告を発した。
いや、走るなどという速度ではない。
あたかも燕が飛ぶがごとく、あるいはそれを凌ぐ速さで移動しているのだ。
二つの影は離れては近付き、接近してはまた距離を取った。
その動きすら常人には目視も出来ぬ一瞬なのであるが、その中では実に濃厚な攻防が繰り広げられていた。
イバラキの刀が鋭く断を狙った。
断はそれを必死にかわしながらイバラキの懐に入ろうと試みた。
断の技は敵に触れ、血の流れ・気の流れを断つというものである。
気血が断たれれば呼吸すらままならなくなり物理的な活動も不可能になる。
断は祖国で叩き込まれたこの殺人技術で敵を倒し、これまで生き抜いてきたのだ。
だが、無敗を誇っていた断はこの国に来て初めての敗北を喫した。
その相手が一角衆幹部、血讐である。
実際に手を合わせたわけではない。
従って実際に負けたわけではない。
だが、ふらりと現れた血讐が目の前に立った時、
(こいつとは戦わない方がいい)
と本能的に思ったのだ。
それは戦う者にとって、まぎれもない敗北なのである。
そして血讐から
『我らの仲間になれ』
と言われた時
(こいつからは逃げられない)
と確信を持ってしまった。
それ故に封と共に一角衆に組する事になったのだ。
一角衆の一員となり数え切れないほどの敵と戦ってきたが、やはり断をおびやかす者は現れなかった。
血讐を除いては無敗を貫く事が出来た。
かつて荊木流にこの者ありと言われ『くちなわ』と呼ばれた忍びに対しても恐れを感じる事はなかった。
だが、
再びくちなわと出会った時、
『幻龍イバラキ』と名を変えたその忍びと再会した時、
断の自信は粉々に砕け散った。
これまでの人生で味わった事のない徹底的な敗北。
屈辱的な惨敗。
あまつさえイバラキの技は断の寿命を残り数年にまで縮めてしまったのだ。
自分はもうすぐ死ぬ。
だとしたらその前に、
せめてこの男を。
断は戦いながらそんな思いをよぎらせている自分に気が付いた。
その間も攻撃の手を休める事はなかったしイバラキの攻撃もどうにかかわしていたのだが、イバラキはふふと笑い、まるで全てを見抜いているかのように
『雑念を抱いておると命に関わるぞ』
と警告を発した。
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