2015-03-26(Thu)
小説・さやか見参!(263)
『これでよし』
破れ寺の隅に寝かせられた灯火丸の身体に生薬を塗った湿布をあてて、紅蓮丸は立ち上がった。
『それでは行ってきますよ』
『おとなしくしてるんだぜぇ』
兄達の言葉に末弟は小さくうなずく。
微笑んだのかもしれないが顔が腫れているので表情は今ひとつ分からない。
だが兄達には伝わったようで、紅蓮丸も炎丸も安心した表情で外へ出て行った。
あの壮絶な制裁から数日。
その間、紅蓮丸と炎丸は甲斐甲斐しく弟の看病をしながら幻龍組の一員として働いた。
食料の調達、見張り、情報収集から雑用まで手を抜く事なくこなしていた。
本来は有能なのかもしれない。
そうは思えないが。
だが二人が真剣である事は弟の灯火丸に伝わっていた。
(早く傷を治してお兄ちゃん達を手伝わなくちゃ)
そう思いながら灯火丸は目を閉じる。
薬が効いてきたのか眠気を感じたからだ。
おとなしく寝ておこう、早く元気になる為に。
寺を出た紅蓮丸は両手に大きな風呂敷を下げていた。よく見ると背中にも一つ担いでいる。
一方の炎丸は大きな籠を背負っている。
『それじゃ俺は山に柴刈りに行ってくるぜぇ』
『ワタクシは川へ洗濯に行ってまいります。炎丸、そちらは頼みますよ』
『分かってるぜぇ』
そう言って二手に分かれようとした時、辺りに緊張した空気が走った。
『兄者!?』
気配を感じた炎丸が兄の顔を見る。
『あちらの方角ですね、行ってみましょう』
二人は風呂敷と籠を担いだまま走り出した。
紅蓮丸と炎丸が向かった先は木立ちが茂った人目につきにくい場所で、幻龍組が時折深夜に戦闘訓練を行なっている場所である。
そこでは幻龍組頭領、幻龍イバラキと、そして一人の男が向かい合っていた。
駆けつけた幻龍の配下達がそれぞれ武器を構えて男を取り囲む。
だが男は不敵に笑みを浮かべていた。
いや、なんというか、諦観の表情にも思える、そんな寂しげな笑みだった。
対するイバラキも、
笑っている。
こちらは口元こそ笑っているものの、哀れみを含んだ目をしていた。
『ずいぶん老けたな』
先に口を開いたのはイバラキだった。
『まあな。俺もいい歳だからよ』
『荒んで見える。やつれたせいか』
『へっ、誰のせいだよ』
二人のやり取りの間、周りの忍び達は様子をうかがいながらじりじりと間合いを詰めていく。
そこへ、
『イバラキ様ぁ~』
場違いな声を出しながら紅蓮丸と炎丸が走りこんで来た。
相変わらず空気の読めぬ男達である。
『イバラキ様、この男は!?』
紅蓮丸が訊いた。
それに対して男が答える。
『俺の名は断。一角衆だよ。いや、元・一角衆になるのかな』
破れ寺の隅に寝かせられた灯火丸の身体に生薬を塗った湿布をあてて、紅蓮丸は立ち上がった。
『それでは行ってきますよ』
『おとなしくしてるんだぜぇ』
兄達の言葉に末弟は小さくうなずく。
微笑んだのかもしれないが顔が腫れているので表情は今ひとつ分からない。
だが兄達には伝わったようで、紅蓮丸も炎丸も安心した表情で外へ出て行った。
あの壮絶な制裁から数日。
その間、紅蓮丸と炎丸は甲斐甲斐しく弟の看病をしながら幻龍組の一員として働いた。
食料の調達、見張り、情報収集から雑用まで手を抜く事なくこなしていた。
本来は有能なのかもしれない。
そうは思えないが。
だが二人が真剣である事は弟の灯火丸に伝わっていた。
(早く傷を治してお兄ちゃん達を手伝わなくちゃ)
そう思いながら灯火丸は目を閉じる。
薬が効いてきたのか眠気を感じたからだ。
おとなしく寝ておこう、早く元気になる為に。
寺を出た紅蓮丸は両手に大きな風呂敷を下げていた。よく見ると背中にも一つ担いでいる。
一方の炎丸は大きな籠を背負っている。
『それじゃ俺は山に柴刈りに行ってくるぜぇ』
『ワタクシは川へ洗濯に行ってまいります。炎丸、そちらは頼みますよ』
『分かってるぜぇ』
そう言って二手に分かれようとした時、辺りに緊張した空気が走った。
『兄者!?』
気配を感じた炎丸が兄の顔を見る。
『あちらの方角ですね、行ってみましょう』
二人は風呂敷と籠を担いだまま走り出した。
紅蓮丸と炎丸が向かった先は木立ちが茂った人目につきにくい場所で、幻龍組が時折深夜に戦闘訓練を行なっている場所である。
そこでは幻龍組頭領、幻龍イバラキと、そして一人の男が向かい合っていた。
駆けつけた幻龍の配下達がそれぞれ武器を構えて男を取り囲む。
だが男は不敵に笑みを浮かべていた。
いや、なんというか、諦観の表情にも思える、そんな寂しげな笑みだった。
対するイバラキも、
笑っている。
こちらは口元こそ笑っているものの、哀れみを含んだ目をしていた。
『ずいぶん老けたな』
先に口を開いたのはイバラキだった。
『まあな。俺もいい歳だからよ』
『荒んで見える。やつれたせいか』
『へっ、誰のせいだよ』
二人のやり取りの間、周りの忍び達は様子をうかがいながらじりじりと間合いを詰めていく。
そこへ、
『イバラキ様ぁ~』
場違いな声を出しながら紅蓮丸と炎丸が走りこんで来た。
相変わらず空気の読めぬ男達である。
『イバラキ様、この男は!?』
紅蓮丸が訊いた。
それに対して男が答える。
『俺の名は断。一角衆だよ。いや、元・一角衆になるのかな』
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