2015-03-15(Sun)
小説・さやか見参!(261)
山吹の里を出た山吹さやかと心太郎は旅をしながら庚申教の事を探っていた。
庚申教は近年になって爆発的に信者を増やしており、道中いたる所で猫を奉る者達と出会う事が出来た。
『でも、猫といっても化け猫っシュよ、化け猫』
心太郎が呆れたように言った。
『ただの猫でもご利益があるかないかは分かんないっシュけど、よりによって人間を喰らってた化け猫を奉るなんて正気の沙汰とは思えないっシュよ』
庚申教が奉るのは、かつて庚申山で人間を襲って食っていた化け猫なのである。
その化け猫はさる剛の者に討ち取られ、奉られた後に人の世から災いを取り除く神となったと言われていた。
『どう考えても胡散臭いっシュ。みんなよくそんな話を信じるもんっシュね』
『まぁね、でも』
さやかが答える。
『こんな世の中だもの。何かにすがりたくなっても仕方ないわ』
戦、農作物の出来不出来、流行り病などの心配は常に人々の暮らしの傍にあり、それらは全て庶民の力では抗えぬ。
となれば人ならざる大きな力に庇護を求めるのは当然、さやかにはそう思えた。
『私だって、すがれるものがあればすがりたいもの』
『さやか殿…』
さやかは音駒を死なせてしまった後悔を抱えている。
そして復讐にすがって生きているのだ。
『さやか殿、だったらおいらにすがってもいいっシュよ』
心太郎が冗談めかした口調でそう言った。
『ば~か。なんであんたみたいな三流忍者に私がすがらなきゃいけないのよ』
ぷいとそっぽを向いて歩いていくさやかを見て心太郎が笑った。
さやかの心の傷は深い。
だが、生きる糧があるうちはこんな軽口のやり取りも出来る。
とりあえずは安心だ。
心太郎は小走りにさやかの後を追った。
町を離れ、次の町へと連れ立って歩く二人の前には一面に眩しい緑が輝いている。
季節は春から夏へと変わろうとしていた。

『大した情報も掴めないしやっぱり庚申山に行くべきだったかしら』
さやかが独り言のように呟いた。
さやかの目的は、音駒の死と繋がる庚申教の情報を得る事なのだ。
『庚申山の化け猫を奉ってるぐらいだから、庚申山に行けば何かしら手がかりはあるわよね、きっと』
『どうっシュかね。音駒さんに関わってたとしたら場所がちょっと遠すぎないっシュか?』
『うん…』
さやかが力なくうなずく。
二人は当初、庚申山に行くべきか町に出て調査するべきかで悩んだのだ。
山吹の里がある『がりゅう山』の東に位置する町では数年前から庚申の教えが広まり、それが人々の活気に繋がっているのだと評判になっていた。
さやかも気にしていなかっただけでその噂は知っていた。
一方の庚申山は、山吹の里から離れたはるか西にそびえている。
もしそこが発祥の地だとするならば、庚申教は西から東に広がった事になる。
つまり、東の町に辿り着く前に、西の町、そしてがりゅう山を経由していなければいけないのだ。
だが、さやか達は里の以西でそのような話を聞いた事はない。
『本当は庚申山とは全然関係なくて、名前だけ拝借したのかもね』
『おいら達が知らないだけで、東の方に別の庚申山があるのかもしれないっシュ』
そういう流れから距離と確実性を優先し、二人は東の町へ向かったのである。
『失敗だったかしら』
『まだ分かんないっシュよ。焦りは禁物っシュ』
迷いを見せるさやかを心太郎が励ます。
『とりあえず次の町を調査してみて、話はそれからっシュ!』
三流忍者の鶴の一声に背中を押される形で山吹さやかは東へと足を進めた。
庚申教は近年になって爆発的に信者を増やしており、道中いたる所で猫を奉る者達と出会う事が出来た。
『でも、猫といっても化け猫っシュよ、化け猫』
心太郎が呆れたように言った。
『ただの猫でもご利益があるかないかは分かんないっシュけど、よりによって人間を喰らってた化け猫を奉るなんて正気の沙汰とは思えないっシュよ』
庚申教が奉るのは、かつて庚申山で人間を襲って食っていた化け猫なのである。
その化け猫はさる剛の者に討ち取られ、奉られた後に人の世から災いを取り除く神となったと言われていた。
『どう考えても胡散臭いっシュ。みんなよくそんな話を信じるもんっシュね』
『まぁね、でも』
さやかが答える。
『こんな世の中だもの。何かにすがりたくなっても仕方ないわ』
戦、農作物の出来不出来、流行り病などの心配は常に人々の暮らしの傍にあり、それらは全て庶民の力では抗えぬ。
となれば人ならざる大きな力に庇護を求めるのは当然、さやかにはそう思えた。
『私だって、すがれるものがあればすがりたいもの』
『さやか殿…』
さやかは音駒を死なせてしまった後悔を抱えている。
そして復讐にすがって生きているのだ。
『さやか殿、だったらおいらにすがってもいいっシュよ』
心太郎が冗談めかした口調でそう言った。
『ば~か。なんであんたみたいな三流忍者に私がすがらなきゃいけないのよ』
ぷいとそっぽを向いて歩いていくさやかを見て心太郎が笑った。
さやかの心の傷は深い。
だが、生きる糧があるうちはこんな軽口のやり取りも出来る。
とりあえずは安心だ。
心太郎は小走りにさやかの後を追った。
町を離れ、次の町へと連れ立って歩く二人の前には一面に眩しい緑が輝いている。
季節は春から夏へと変わろうとしていた。

『大した情報も掴めないしやっぱり庚申山に行くべきだったかしら』
さやかが独り言のように呟いた。
さやかの目的は、音駒の死と繋がる庚申教の情報を得る事なのだ。
『庚申山の化け猫を奉ってるぐらいだから、庚申山に行けば何かしら手がかりはあるわよね、きっと』
『どうっシュかね。音駒さんに関わってたとしたら場所がちょっと遠すぎないっシュか?』
『うん…』
さやかが力なくうなずく。
二人は当初、庚申山に行くべきか町に出て調査するべきかで悩んだのだ。
山吹の里がある『がりゅう山』の東に位置する町では数年前から庚申の教えが広まり、それが人々の活気に繋がっているのだと評判になっていた。
さやかも気にしていなかっただけでその噂は知っていた。
一方の庚申山は、山吹の里から離れたはるか西にそびえている。
もしそこが発祥の地だとするならば、庚申教は西から東に広がった事になる。
つまり、東の町に辿り着く前に、西の町、そしてがりゅう山を経由していなければいけないのだ。
だが、さやか達は里の以西でそのような話を聞いた事はない。
『本当は庚申山とは全然関係なくて、名前だけ拝借したのかもね』
『おいら達が知らないだけで、東の方に別の庚申山があるのかもしれないっシュ』
そういう流れから距離と確実性を優先し、二人は東の町へ向かったのである。
『失敗だったかしら』
『まだ分かんないっシュよ。焦りは禁物っシュ』
迷いを見せるさやかを心太郎が励ます。
『とりあえず次の町を調査してみて、話はそれからっシュ!』
三流忍者の鶴の一声に背中を押される形で山吹さやかは東へと足を進めた。
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