2014-12-22(Mon)
小説・さやか見参!(254)
日が落ちて間もなく、さやかと心太郎は山吹の里を後にした。
山吹流忍術の次期後継者としての任務ではない。
音駒のかたきを討つという、純然たる私怨を晴らす為だ。
だがこの私怨の先に何かがあるのだとさやかは思っている。
夕刻の女神像の前で、ひとしきり涙をこぼしたさやかに武双は言った。
『音駒の死はただの自害ではない。あれを仕組んだ者がいる』
と。
『え…?』
さやかは父の言っている言葉が理解出来なかった。
『自殺じゃない、殺された、と言うの?』
『いや、自ら命を絶った。それは間違いない。だが、音駒がそうせざるをえないよう計画的に追い詰めた者がいるのだ』
さやかの心に戦慄が走る。
『なに、それ』
『その者達は心を責める術を体得しておる。おそらくは許婚を失ってからこれまで、音駒はその者達の掌で転がされていたのだろう。絶望した者に希望を与え、その希望が膨らんだところで一気に破壊する。そうして人の心を蝕んでいくのだ、奴らは』
言葉を出そうにもなかなか声が出せず、さやかはぐっと唾を飲み込んだ。
『誰が、何の為に、音駒さんを』
『それはな、おまえを追い詰める為だ、さやか』
さやかは思わず目を見開いて硬直した。
視界が真っ白になった。
鋭く巨大な杭を心臓に突き立てられたような衝撃だった。
全く思いもよらなかった事だったからだ。
『どういう、事?』
訊ねる声が震えている。
真実を知る事に恐怖を覚えている。
『先ほど言った通りだ。奴らは希望を与え、そして破壊する。たけるを失い絶望し心を塞いだおまえに、奴らは音駒という希望を与えたのだ。そしておまえの心の傷が癒えかけた頃に音駒を奪った。しかも自死という形でだ。音駒の前向きさ、ひたむきさに惹かれていたおまえにはそれが一番深い絶望を与える事が出来るからな』
『それじゃ…それじゃ音駒さんは…私のせいで…』
『そうだ。だからそれを悔いるなら生きる事をやめてもかまわん。だが、どうせ忍びをやめて死ぬのなら、せめて音駒のかたきを討ってからにしてはどうだ』
さやかは再び流れていた涙を拭いて顔をあげた。
それは、命を棄てる為に戦いに赴く少女のそれではなく、まぎれもなく山吹流忍術正統後継者の顔だった。
『その者達は、一体何者なのですか』
その表情を見て武双は深く頷き、
『庚申教を探ってみよ。心太郎と共にな』
とだけ答えたのだ。
そうして今、さやかと心太郎は庚申教の情報を求めて旅を始めた。
山吹流忍術の次期後継者としての任務ではない。
音駒のかたきを討つという、純然たる私怨を晴らす為だ。
だがこの私怨の先に何かがあるのだとさやかは思っている。
夕刻の女神像の前で、ひとしきり涙をこぼしたさやかに武双は言った。
『音駒の死はただの自害ではない。あれを仕組んだ者がいる』
と。
『え…?』
さやかは父の言っている言葉が理解出来なかった。
『自殺じゃない、殺された、と言うの?』
『いや、自ら命を絶った。それは間違いない。だが、音駒がそうせざるをえないよう計画的に追い詰めた者がいるのだ』
さやかの心に戦慄が走る。
『なに、それ』
『その者達は心を責める術を体得しておる。おそらくは許婚を失ってからこれまで、音駒はその者達の掌で転がされていたのだろう。絶望した者に希望を与え、その希望が膨らんだところで一気に破壊する。そうして人の心を蝕んでいくのだ、奴らは』
言葉を出そうにもなかなか声が出せず、さやかはぐっと唾を飲み込んだ。
『誰が、何の為に、音駒さんを』
『それはな、おまえを追い詰める為だ、さやか』
さやかは思わず目を見開いて硬直した。
視界が真っ白になった。
鋭く巨大な杭を心臓に突き立てられたような衝撃だった。
全く思いもよらなかった事だったからだ。
『どういう、事?』
訊ねる声が震えている。
真実を知る事に恐怖を覚えている。
『先ほど言った通りだ。奴らは希望を与え、そして破壊する。たけるを失い絶望し心を塞いだおまえに、奴らは音駒という希望を与えたのだ。そしておまえの心の傷が癒えかけた頃に音駒を奪った。しかも自死という形でだ。音駒の前向きさ、ひたむきさに惹かれていたおまえにはそれが一番深い絶望を与える事が出来るからな』
『それじゃ…それじゃ音駒さんは…私のせいで…』
『そうだ。だからそれを悔いるなら生きる事をやめてもかまわん。だが、どうせ忍びをやめて死ぬのなら、せめて音駒のかたきを討ってからにしてはどうだ』
さやかは再び流れていた涙を拭いて顔をあげた。
それは、命を棄てる為に戦いに赴く少女のそれではなく、まぎれもなく山吹流忍術正統後継者の顔だった。
『その者達は、一体何者なのですか』
その表情を見て武双は深く頷き、
『庚申教を探ってみよ。心太郎と共にな』
とだけ答えたのだ。
そうして今、さやかと心太郎は庚申教の情報を求めて旅を始めた。
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