2014-12-22(Mon)
小説・さやか見参!(253)
日がわずかに傾いてきた。
まだ影が伸びるほどではないが夕刻を感じさせる空である。
山吹の屋敷は修行を終えた少女達が家路についた事で静けさを取り戻していた。
心太郎に対して不満を漏らしていた少女達も結局は真摯に鍛錬に取り組み、充実した疲労を抱えて屋敷を出たようだ。
幼いくのいち達も、そして山吹さやかも気付いてはいないのだが、実は心太郎、人の心を掴むのが上手いのだ。
人心掌握というのは忍術の中でもかなり難易度が高い。
肉体的な技術はあくまで個人のものであるが、「心を掴む」というのは相手あっての事だからだ。
他人の心を量れるようになり他者の心を操れるようになればそれは戦闘や策略においても有利に立てるという事なのだ。
心太郎は己の『三流忍者』という扱いを利用しているようだった。
相手に優越感を与える事で感情を操作しているのだろうか。
だがそれは三流忍者に出来うる芸当なのだろうか。
心太郎は修行に使った武具を片付けながら近付いてくる気配を感じていた。
その気配は静かで穏やかな空気を乱す事なくゆっくりと屋敷に近付いてくる。
心太郎の表情が思わずほころんだ。
『さやか殿』
声をかけるのと同時に開け放たれた門からさやかが顔を覗かせた。
『気付いてたんだ。三流忍者のくせに』
いきなりの悪態だが、その言葉に棘がない事はすぐに分かった。
『気付くっシュよ。これでも忍者のはしくれっシュからね。それよりも、おかしらの話はどうだったっシュか?』
『うん。心配かけたわね心太郎』
さやかは多くを語らなかったが、先ほどまでよりもずいぶん安定しているのが分かった。
『良かったっシュ』
これだけで全てが通じ合った。
完全に、とは言えないだろうが、悩みと苦しみをある程度吹っ切ったのだろう。
『それじゃさやか殿』
心太郎がわざと仰々しく声をかける。
唐突な呼びかけに思えたが、さやかは驚く事もなくすぐに理解して頷いた。
『そうね、すぐに出立しましょう。音駒さんのかたき討ちに』
今度は心太郎が頷いた。
まだ影が伸びるほどではないが夕刻を感じさせる空である。
山吹の屋敷は修行を終えた少女達が家路についた事で静けさを取り戻していた。
心太郎に対して不満を漏らしていた少女達も結局は真摯に鍛錬に取り組み、充実した疲労を抱えて屋敷を出たようだ。
幼いくのいち達も、そして山吹さやかも気付いてはいないのだが、実は心太郎、人の心を掴むのが上手いのだ。
人心掌握というのは忍術の中でもかなり難易度が高い。
肉体的な技術はあくまで個人のものであるが、「心を掴む」というのは相手あっての事だからだ。
他人の心を量れるようになり他者の心を操れるようになればそれは戦闘や策略においても有利に立てるという事なのだ。
心太郎は己の『三流忍者』という扱いを利用しているようだった。
相手に優越感を与える事で感情を操作しているのだろうか。
だがそれは三流忍者に出来うる芸当なのだろうか。
心太郎は修行に使った武具を片付けながら近付いてくる気配を感じていた。
その気配は静かで穏やかな空気を乱す事なくゆっくりと屋敷に近付いてくる。
心太郎の表情が思わずほころんだ。
『さやか殿』
声をかけるのと同時に開け放たれた門からさやかが顔を覗かせた。
『気付いてたんだ。三流忍者のくせに』
いきなりの悪態だが、その言葉に棘がない事はすぐに分かった。
『気付くっシュよ。これでも忍者のはしくれっシュからね。それよりも、おかしらの話はどうだったっシュか?』
『うん。心配かけたわね心太郎』
さやかは多くを語らなかったが、先ほどまでよりもずいぶん安定しているのが分かった。
『良かったっシュ』
これだけで全てが通じ合った。
完全に、とは言えないだろうが、悩みと苦しみをある程度吹っ切ったのだろう。
『それじゃさやか殿』
心太郎がわざと仰々しく声をかける。
唐突な呼びかけに思えたが、さやかは驚く事もなくすぐに理解して頷いた。
『そうね、すぐに出立しましょう。音駒さんのかたき討ちに』
今度は心太郎が頷いた。
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