2014-12-03(Wed)
小説・さやか見参!(252)
切断された石の女神像に身体を向けていた武双は、すっとさやかに向き直った。
さやかは思わず顔を下げて視線を外してしまう。
武双の羽織の前紐ばかりが目に入った。
『さやか、忍びとしてならば、せめて務めを果たしてから死ねとしか言えん。だがお前が忍びでないのなら』
さやかはその言葉を遮った。
『父上、私は忍びです』
これは反射的に出た言葉だった。
ずっと忍びとして生きてきた。
その誇りが咄嗟に父の言葉を否定した。
だが武双は
『そうかな』
と疑問を呈した。
『我ら十二組の忍びは、刃のもとに心を忘れぬが信条。だが感情に流さるるは忍びにあらず。今のお前は感情ゆえに心まで失っておるではないか。それでは忍びとは、少なくとも山吹の忍びとはいえまい』
さやかは反論すら浮かばず、ぐっと喉を鳴らした。
『だがな、私はそれを責めているのではない。忍びとて怪我や病に勝てぬ事はある。お前が心を病み、その結果心を塞いだとしても致し方ない事なのだと私は思ってる』
さやかが更にうつむく。
武双の視線を感じながらも顔を上げる事が出来ない。
『お前が忍びならば、十二組の一人として、山吹の次期頭領としての務めを果たすが最優先だ。己の感情で命を捨てるなど許される事ではない。だが、忍びではなく、一人の人間としてならば』
武双が近付く。
『お前の命はお前のものだ。お前は任務の為に生まれたわけではない。運命を背負って生まれてきたわけでもない。お前が生まれたから使命があるのだ。生まれてきて初めて運命を背負ったのだ。任務も運命も、お前の命に従属しているものなのだ。だから』
さやかの左肩に父の掌が乗せられた。
大きくて温かい手だった。
『もしも生きるのをやめたければ、何も気にせずやめて良いのだ。山吹の為、十二組の為にと嫌々ながら生きていく事はない。お前の進む道はお前自身が決めて良いのだ。私は頭領としてでなく、父としてそう思っている』
うつむいたさやかの瞳からぼろぼろと涙が落ちた。
それは父の優しさに対してだけでなく、自ら山吹の後継者を名乗っておきながら頭領にこのような決意をさせなければならなかった己の不甲斐なさに対しての涙だった。
さやかは思わず顔を下げて視線を外してしまう。
武双の羽織の前紐ばかりが目に入った。
『さやか、忍びとしてならば、せめて務めを果たしてから死ねとしか言えん。だがお前が忍びでないのなら』
さやかはその言葉を遮った。
『父上、私は忍びです』
これは反射的に出た言葉だった。
ずっと忍びとして生きてきた。
その誇りが咄嗟に父の言葉を否定した。
だが武双は
『そうかな』
と疑問を呈した。
『我ら十二組の忍びは、刃のもとに心を忘れぬが信条。だが感情に流さるるは忍びにあらず。今のお前は感情ゆえに心まで失っておるではないか。それでは忍びとは、少なくとも山吹の忍びとはいえまい』
さやかは反論すら浮かばず、ぐっと喉を鳴らした。
『だがな、私はそれを責めているのではない。忍びとて怪我や病に勝てぬ事はある。お前が心を病み、その結果心を塞いだとしても致し方ない事なのだと私は思ってる』
さやかが更にうつむく。
武双の視線を感じながらも顔を上げる事が出来ない。
『お前が忍びならば、十二組の一人として、山吹の次期頭領としての務めを果たすが最優先だ。己の感情で命を捨てるなど許される事ではない。だが、忍びではなく、一人の人間としてならば』
武双が近付く。
『お前の命はお前のものだ。お前は任務の為に生まれたわけではない。運命を背負って生まれてきたわけでもない。お前が生まれたから使命があるのだ。生まれてきて初めて運命を背負ったのだ。任務も運命も、お前の命に従属しているものなのだ。だから』
さやかの左肩に父の掌が乗せられた。
大きくて温かい手だった。
『もしも生きるのをやめたければ、何も気にせずやめて良いのだ。山吹の為、十二組の為にと嫌々ながら生きていく事はない。お前の進む道はお前自身が決めて良いのだ。私は頭領としてでなく、父としてそう思っている』
うつむいたさやかの瞳からぼろぼろと涙が落ちた。
それは父の優しさに対してだけでなく、自ら山吹の後継者を名乗っておきながら頭領にこのような決意をさせなければならなかった己の不甲斐なさに対しての涙だった。
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