2014-11-13(Thu)
小説・さやか見参!(250)
太陽が中天を過ぎてしばらく経った。
日差しが眩しい。
ちょっと前まで朝晩は肌寒かったが最近は過ごし易くなってきた。
山の頂に築かれた山吹の里では日光を遮るものは何もない。
天気が良ければ光を浴び、雨が降れば水をまともに受ける。
『十二組を取り仕切る流派は、任務において功も責も全て負わねばならぬ』
という決まりを体言しているらしい。
自然の恩恵と脅威を忘れぬようにする為、という狙いもあるようだ。
里の畑では、そうした天の恵みを受けた牛蒡の葉が青々と輝いていた。
そろそろ収穫出来そうだ。
牛蒡は薬草として育てているが食用にもなる。
薬草は忍びの必需品だ。
だが、
薬草という言葉は、そして薬の香りはある善良な男の記憶を立ち上らせて山吹さやかの傷を深くえぐった。
何事もないような顔をして里の者達と畑仕事を済ませたさやかだったが、心は激しい疲労感に包まれていた。
さやかは畑の緑が出来るだけ目に入らぬよう顔をそむけて地面に座った。
太陽に照らされた土の心地いい温もりすら今のさやかには鬱陶しかった。
大好きな兄を失い、大好きだった音駒を失った。
そんな世界で生きていて何になるというのだろう。
必ず守ると誓った音駒を助ける事が出来なかった。
そんな自分が生きていてどうするというのだろう。
たけるも音駒も自分を残して死んでしまった。
これから何を信じて、何を愛せば良いのだろう。
『いけない…屋敷に戻らなくちゃ…』
さやかは呟いた。
こうして口に出して自分に言い聞かせなくてはもはや身体が言う事をきかないのだ。
畑仕事の後は幼きくのいち達に剣技を教えねばならない。
自分自身の修行もある。
それは義務であり勝手に休む事は出来ない。
どうにか屋敷に辿り着くと気の早い少女達が庭で待っていた。
さやかに気が付くと童達は稽古用の木刀を手に眩しく笑って頭を下げた。
さやかもにこりと笑顔を返す。
だがやはりその笑みに心はこもっていない。
それは自分が一番分かっている。
罪悪感はあるのだが、今の自分は感情を制御する力など持ち合わせていない。
今のさやかに出来る事は顔の筋肉を動かし、少女達を傷つけぬ表情を作る事だけだ。
さやかがどうにか笑顔らしきものを少女達に向けた時、不意に明るい声が響いた。
『さやか殿~!』
驚いて振り返る。
跳ねるように屋敷に走り込んできたのは黒の半着と袴姿で髪を慈姑頭に結った心太郎だった。
『心太郎!どうしてここに?』
くのいちの稽古の場に心太郎が来る事などこれまでなかったのだ。
だが心太郎は説明もせず、
『さやか殿、ここはおいらに任せて!』
とだけ言うと、目を丸くしているくのいち達に
『え~、今日はさやか殿に代わっておいらが稽古をつけるっシュ!』
と宣言した。
少女達から一斉に非難の声が上がる。
くのいちの技を男が教えるというだけでも違和感があるのに、指導するのが三流忍者の心太郎では非難が出るのもやむなしである。
なにより彼女達はさやかの事が大好きで、さやかの指導を楽しみにしていたのだ。
『ちょ、ちょっと心太郎!これどういう事!?』
怒声罵声をなだめる心太郎に問い質すと、新太郎は少しだけ振り返り、
『頭領が女神様の前でお待ちっシュ』
と囁いて、
『じゃあさっそく稽古を始めるっシュよ~』
と、くのいち達の中へ入っていった。
日差しが眩しい。
ちょっと前まで朝晩は肌寒かったが最近は過ごし易くなってきた。
山の頂に築かれた山吹の里では日光を遮るものは何もない。
天気が良ければ光を浴び、雨が降れば水をまともに受ける。
『十二組を取り仕切る流派は、任務において功も責も全て負わねばならぬ』
という決まりを体言しているらしい。
自然の恩恵と脅威を忘れぬようにする為、という狙いもあるようだ。
里の畑では、そうした天の恵みを受けた牛蒡の葉が青々と輝いていた。
そろそろ収穫出来そうだ。
牛蒡は薬草として育てているが食用にもなる。
薬草は忍びの必需品だ。
だが、
薬草という言葉は、そして薬の香りはある善良な男の記憶を立ち上らせて山吹さやかの傷を深くえぐった。
何事もないような顔をして里の者達と畑仕事を済ませたさやかだったが、心は激しい疲労感に包まれていた。
さやかは畑の緑が出来るだけ目に入らぬよう顔をそむけて地面に座った。
太陽に照らされた土の心地いい温もりすら今のさやかには鬱陶しかった。
大好きな兄を失い、大好きだった音駒を失った。
そんな世界で生きていて何になるというのだろう。
必ず守ると誓った音駒を助ける事が出来なかった。
そんな自分が生きていてどうするというのだろう。
たけるも音駒も自分を残して死んでしまった。
これから何を信じて、何を愛せば良いのだろう。
『いけない…屋敷に戻らなくちゃ…』
さやかは呟いた。
こうして口に出して自分に言い聞かせなくてはもはや身体が言う事をきかないのだ。
畑仕事の後は幼きくのいち達に剣技を教えねばならない。
自分自身の修行もある。
それは義務であり勝手に休む事は出来ない。
どうにか屋敷に辿り着くと気の早い少女達が庭で待っていた。
さやかに気が付くと童達は稽古用の木刀を手に眩しく笑って頭を下げた。
さやかもにこりと笑顔を返す。
だがやはりその笑みに心はこもっていない。
それは自分が一番分かっている。
罪悪感はあるのだが、今の自分は感情を制御する力など持ち合わせていない。
今のさやかに出来る事は顔の筋肉を動かし、少女達を傷つけぬ表情を作る事だけだ。
さやかがどうにか笑顔らしきものを少女達に向けた時、不意に明るい声が響いた。
『さやか殿~!』
驚いて振り返る。
跳ねるように屋敷に走り込んできたのは黒の半着と袴姿で髪を慈姑頭に結った心太郎だった。
『心太郎!どうしてここに?』
くのいちの稽古の場に心太郎が来る事などこれまでなかったのだ。
だが心太郎は説明もせず、
『さやか殿、ここはおいらに任せて!』
とだけ言うと、目を丸くしているくのいち達に
『え~、今日はさやか殿に代わっておいらが稽古をつけるっシュ!』
と宣言した。
少女達から一斉に非難の声が上がる。
くのいちの技を男が教えるというだけでも違和感があるのに、指導するのが三流忍者の心太郎では非難が出るのもやむなしである。
なにより彼女達はさやかの事が大好きで、さやかの指導を楽しみにしていたのだ。
『ちょ、ちょっと心太郎!これどういう事!?』
怒声罵声をなだめる心太郎に問い質すと、新太郎は少しだけ振り返り、
『頭領が女神様の前でお待ちっシュ』
と囁いて、
『じゃあさっそく稽古を始めるっシュよ~』
と、くのいち達の中へ入っていった。
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